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豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
帝都・改革編

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第93話 山岳の戦い

 前線到着から五日後、ついに、リュネス帝国軍の、本格的な動きが始まった。


「敵軍、東側の山道を通じて、進撃を開始した模様です」


 伝令からの報告に、仮設本部の空気が、一気に張り詰めた。


「規模は?」アレクシスが、即座に尋ねた。


「概算で、一万五千。山岳地帯での進軍にしては、かなりの大軍です」


 レオンは、地図を広げ、素早く状況を分析した。


「東側の山道——これまでの偵察では、比較的、通行が容易なルートだったな」


「ああ。だからこそ、敵も、そこを選んだんだろう」アレクシスは、険しい表情で言った。


「問題は、この進軍速度に、敵の補給が、追いつくかどうかだ」レオンは、改めて、地形図を確認しながら言った。「この山道、途中に、補給の難所がいくつもある」


「南方戦線での、大攻勢の時と、似たような状況になる可能性があるな」


「ああ」レオンは、頷いた。「進めば進むほど、補給線が伸び、負担が増える」


 レオンは、これまでの経験を活かし、すぐに、対応策を検討し始めた。


「正面から、敵の大軍とぶつかるのは、得策じゃない」レオンは言った。「敵の補給路を、分断できれば、進軍そのものを、止められるはずだ」


「具体的には?」


「この山道の、中継地点——ここを、少数精鋭で、押さえられないか」レオンは、地図上の一点を指し示した。「地形的に、ここを封鎖すれば、敵の補給は、著しく制限される」


 アレクシスは、その提案を、慎重に検討した。


「少数精鋭での作戦、リスクは高い」アレクシスは言った。「だが、敵の大軍を、正面から受け止めるよりは、現実的かもしれない」


「俺も、現地に同行する」レオンは、はっきりと言った。


「危険だぞ」


「南方戦線でも、同じような作戦を、経験している」レオンは言った。「地形の読みと、実際の現場判断——それを、俺自身の目で、確認する必要がある」


 アレクシスは、しばらく、レオンを見つめた後、頷いた。


「分かった。だが、無理はするな」


 この作戦は、すぐに、前線指揮官の承認を得て、実行に移されることになった。レオンは、ハーケン——南方戦線以来の、信頼する戦友——と共に、少数精鋭の部隊を率いて、山道の中継地点へと向かった。


「また、お前と組むことになるとはな」ハーケンが、行軍中、そう言った。


「頼りにしてる」


 険しい山道を進む中、レオンは、これまでの経験を総動員し、慎重に、部隊を進めていった。


「ここから先、地形が、特に険しくなる」レオンは、地図と、実際の景色を、照らし合わせながら、部隊に指示を出した。「足元に、十分注意しろ」


 数日間の行軍を経て、一行は、目標とする中継地点に、到達した。


「ここを、封鎖する」


 レオンは、地形を活かした、効果的な防御陣地の構築を、指示した。南方戦線での、様々な実戦経験——それが、この、まったく異なる地形においても、確かに、活かされていた。


 予想通り、数日後、敵の輸送隊が、この中継地点を、通過しようとした。


「来たぞ」


 ハーケンの合図と共に、少数精鋭の部隊が、一斉に、行動を開始した。地の利を活かした、奇襲的な攻撃——それは、敵の輸送隊に、大きな混乱をもたらした。


「輸送隊、無力化しました!」


 部下からの報告に、レオンは、確かな手応えを感じた。


「これで、敵の補給線、大きく制限されるはずだ」


 この成功は、すぐに、前線本部へ報告された。


「見事だ」アレクシスからの、伝令による返答が届いた。「この成果を基に、本隊も、防衛線を、再構築する」


 レオンは、この局地的な勝利に、確かな達成感を覚えながらも、これまでの経験から、油断はしなかった。


「敵も、この補給路の寸断に、何らかの対応を、取ってくるはずだ」レオンは、ハーケンに言った。「次の動きに、備えておこう」


「相変わらず、慎重だな」ハーケンは、小さく笑いながら言った。「だが、それが、お前の強みだ」


 山岳地帯の、険しい自然の中、レオンの、兵站と戦術を組み合わせた戦い方が、確かに、この新たな戦線でも、その力を、発揮し始めていた。


 だが、これは、まだ、長く、困難な戦いの、始まりに過ぎなかった。東方の空の下、帝国の運命を賭けた、最大の戦いが、本格的に、幕を開けようとしていた。

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