↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
帝都・改革編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
88/116

第87話 三日間の答え

 一日目は、ただ、重苦しい沈黙の中で過ぎていった。


「まだ、何の返答もないのか」


 局で、レオンは、焦燥を抑えきれずにいた。


「ケイレブ殿からの連絡網、最大限、急がせています」アレクシスは、努めて冷静に言った。「だが、国境を越えての情報伝達には、どうしても、時間がかかる」


 二日目、帝都の空気は、さらに緊迫を増していた。


「強硬派の貴族たち、すでに、動員の準備を、水面下で進めているとの情報です」


 アレクシスからの報告に、レオンは、強い焦りを感じた。


「まだ、期限は、来ていないはずだ」


「正式な決定は、まだだ」アレクシスは言った。「だが、万が一に備えて、準備を進めるのは、軍としては、自然な動きでもある」


 レオンは、この状況に、これまでにない、重い緊張を感じていた。これまでの、士官学校での学び、南方戦線での実戦、帝都での改革——それらすべての経験が、今、この、三日間という、極めて限られた時間の中で、試されようとしていた。


 そして、三日目の朝——


「返答が、届きました!」


 局に駆け込んできた、伝令の声に、レオンは、飛びつくようにして、その書状を受け取った。


 震える手で、封を開ける。中身を読み進めるレオンの表情が、次第に、変化していった。


「……これは」


「どうだった」アレクシスが、緊張しながら尋ねた。


「襲撃は、ガルベイン将軍の、意図したものではなかった」レオンは、書状を読み上げた。「実行したのは、将軍の統制を離れた、旧体制派の、一部の軍人たちによるものだと」


「将軍は、どう対応すると?」


「実行者たちを、速やかに拘束し、処罰する、と明言している」レオンは、続けた。「そして——共同での、事実確認調査を、受け入れる、との回答だ」


 その言葉に、局内に、わずかな安堵の空気が広がった。


「本当に、信じていいのか」アレクシスは、慎重な姿勢を崩さなかった。


「断定はできない」レオンは、正直に言った。「だが、これまでの、非公式な対話の積み重ね——それが、この、迅速な対応に、繋がった可能性は、十分にある」


 レオンは、すぐに、この返答を携え、軍務省での、緊急会議へと向かった。


「ガルベイン将軍側からの、正式な回答です」レオンは、書状を提示しながら、説明した。「襲撃は、将軍の統制を離れた、独断行動であり、実行者の処罰と、共同調査の受け入れを、表明しています」


 この報告に、会議の場は、改めて、意見が分かれた。


「言葉だけでは、信用できん」強硬派の一人が、鋭く言った。「実際に、処罰が行われるまで、信じるわけにはいかない」


「おっしゃる通りです」レオンは、冷静に応じた。「ですから、共同調査を、受け入れていただきたいのです。実際の処罰の過程を、こちらの目で、確認できます」


「もし、それが、時間稼ぎのための、口先だけの約束だったら?」


「その可能性も、確かにあります」レオンは、正直に認めた。「ですが、だからこそ、拙速に、報復へと踏み切るのではなく、まず、相手の言葉が、本当かどうか——それを、見極める機会を、持つべきだと思います」


 軍務大臣は、しばらくの間、沈黙していた。


「……ヴァイス卿の提案、一理ある」軍務大臣は、ようやく、そう言った。「共同調査団の派遣を、正式に、検討しよう」


 この決定に、強硬派の貴族たちからは、不満の声も上がった。だが、少なくとも、即座の開戦という、最悪の事態は、辛うじて、回避されることになった。


 会議を終えたレオンは、深い疲労と共に、確かな安堵を感じていた。


「綱渡りだったな」アレクシスが、小さく息を吐きながら言った。


「ああ」レオンは、頷いた。「だが、まだ、終わったわけじゃない」


「共同調査の結果次第、ということか」


「そうだ」レオンは、気を引き締めるように言った。「もし、この調査で、ガルベイン将軍側の説明が、裏付けられなければ——」


「今度こそ、戦争は、避けられないかもしれない」


 二人は、その重い現実を、改めて、噛み締めていた。


 帝都の空に、これまでとは違う、張り詰めた静けさが、広がっていた。三日間の危機は、辛うじて、乗り越えられた。だが、その先に待つ、共同調査という、新たな試練——その結果が、帝国の運命を、大きく左右することになる。


 レオンの、戦争回避への戦いは、まだ、終わっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。