↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
帝都・改革編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
72/116

第71話 問いの重み

 皇帝との謁見から数日、レオンは、これまでにない、重苦しい思索の中にいた。


「軍を強くすることと、戦争を減らすこと——どちらが、帝国を守るのか」


 その問いは、レオンの頭の中で、何度も繰り返されていた。局での仕事をこなしながらも、ふとした瞬間に、その言葉が蘇ってくる。


「浮かない顔だな」


 ある日の夕方、アレクシスが、レオンの様子に気づいて声をかけてきた。


「あの問い、考えれば考えるほど、分からなくなる」レオンは、正直に打ち明けた。


「私にも、簡単には、答えが出せない問いだ」アレクシスは言った。「だが、お前なりに、考えを整理してみてはどうだ」


 レオンは、その助言を受け、改めて、これまでの経験を、一つずつ振り返ることにした。


「南方戦線では、軍の兵站が整っていなかったせいで、多くの兵士が苦しんだ」レオンは、考えを言葉にしながら、整理していった。「あの経験から言えば、軍を『正しく』強くすることは、確かに、兵士を守ることに繋がる」


「正しく、というのが、重要な点だな」アレクシスが、相槌を打った。


「だが——」レオンは、続けた。「南方戦線での大攻勢、あれは、軍を『強く見せる』ための、無理な進軍だった。あの時、本当に必要だったのは、軍の強さじゃなく、戦う必要のない状況を、作ることだったんじゃないか」


「つまり、軍の強さそのものが、問題なのではなく、それを、どう使うか、ということか」


「そうかもしれない」レオンは、頷いた。「だが、それでも、東方のリュネス帝国のような、明確な脅威がある以上、軍を弱くすることが、安全に繋がるとも、思えない」


 二人は、しばらくの間、この答えのない問いについて、議論を重ねた。


「一つ、思うことがある」アレクシスが、ふと、口を開いた。「皇帝陛下は、おそらく、お前に、単純な答えを求めているわけじゃない」


「どういう意味だ」


「この問いに、明確な正解があるなら、とっくに、誰かが答えを出しているはずだ」アレクシスは言った。「陛下は、おそらく、お前が、この問いと、どう向き合い続けるか——その姿勢そのものを、見ようとしているんじゃないか」


 レオンは、その言葉に、改めて、考えを巡らせた。


「答えを出すこと自体が、目的じゃない、ということか」


「少なくとも、今すぐに、単純な結論を出すべき問いではないと思う」アレクシスは言った。「これから先、様々な経験を積む中で、お前なりの答えを、少しずつ、見つけていけばいい」


 その言葉は、レオンにとって、ある種の救いだった。すぐに答えを出さなければ、という焦りから、少しだけ、解放された気がした。


 その後も、レオンは、局での改革の仕事を、着実に続けていった。だが、その中で、常に、あの問いを、心の片隅に、留め続けていた。


 ある日、レオンは、局の記録を整理する中で、ふと、興味深い記録を見つけた。


「……これは」


 それは、過去数十年にわたる、帝国の軍事費と、実際の戦争の発生頻度を、まとめた資料だった。レオンは、士官学校時代から培ってきた分析力を活かし、その数字を、改めて精査し始めた。


「軍備が増強された時期の後、必ずしも、戦争が減っているわけじゃない」


 レオンは、その傾向に、ある種の違和感を覚えた。むしろ、軍備が増強された時期の後に、新たな戦争が、発生しているケースも、少なくなかった。


「これは、偶然なんだろうか」


 レオンは、この発見を、アレクシスに報告した。


「軍備増強が、かえって、新たな緊張を生んでいる、ということか」アレクシスは、資料を確認しながら、険しい表情を浮かべた。


「断定はできない」レオンは、慎重に言った。「だが、少なくとも、軍を強くすれば、それだけで戦争が減る、という単純な図式は、成り立たないのかもしれない」


「これは、重要な発見かもしれないな」アレクシスは言った。「もし、この傾向を、もっと明確に示すことができれば——」


「皇帝陛下への、一つの答えの、手がかりになるかもしれない」


 レオンは、この新たな分析を、さらに深めていくことを、決意した。これまでの、局の改革という、具体的な仕事に加えて、この、より大きな、そして、根源的な問いにも、本格的に向き合い始めることになった。


 帝都での日々は、レオンにとって、これまで以上に、重く、そして、深い意味を持つものへと、変わり始めていた。


 (答えは、まだ見えない。だが——)


 少なくとも、レオンは、その問いから、逃げるつもりはなかった。この帝国の未来に関わる、重大な問いに、真正面から向き合う——それこそが、皇帝から託された、新たな使命なのかもしれなかった。


 窓の外、帝都の空は、これまでと変わらず、静かに広がっていた。だが、レオンの心の中には、これまでとは違う、確かな覚悟が、芽生え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。