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豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
帝都・改革編

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第69話 積み重なる成果

 東方情勢への不安を抱えながらも、レオンの日常は、局の改革という、目の前の課題に、変わらず向き合い続けていた。


「承認プロセスの新しい仕組み、三ヶ月が経過しました」


 ある日の会議で、ヴェルニエ局長が、改革の成果を、局内の主要メンバーに向けて報告した。


「この間、不自然な価格設定の契約は、一件も発見されていません」ヴェルニエは、資料を示しながら続けた。「これは、新しい検証制度が、確実に機能している証拠と言えるでしょう」


 レオンは、その報告に、静かな達成感を覚えていた。士官学校での学び、南方戦線での実戦、そして、この局での長い戦い——それらすべてが、今、確かな成果として、形になっていた。


「ヴァイス殿の功績は、局内だけでなく、軍務省全体でも、評価され始めている」


 会議の後、ヴェルニエが、レオンに、そう声をかけてきた。


「光栄です」


「正直に言おう」ヴェルニエは、少し声を落として続けた。「他の部署からも、同様の改革を進めてほしい、という要望が、いくつか届いている」


「他の部署、というのは?」


「食料調達局、馬匹管理局——軍需に関わる、様々な部署だ」ヴェルニエは言った。「どこも、多かれ少なかれ、似たような問題を抱えている可能性がある」


 レオンは、この話に、これまでの戦いが、単なる局所的な成功では終わらない、より大きな意味を持ち始めていることを、感じ取った。


「もし、よろしければ、お前に、そうした部署の改革にも、関わってもらいたいと思っている」ヴェルニエは言った。「もちろん、まずは、この局の改革を、しっかり定着させることが、最優先だが」


「喜んで、お手伝いします」


 数日後、レオンは、アレクシスと共に、改めて、これまでの成果を振り返る機会を持った。


「局の改革、本当にうまくいっているな」アレクシスは、感心したように言った。「お前の分析力と、現場での経験、それに、ミハイルやデュボワのような、内部からの協力——すべてが、うまく組み合わさった結果だ」


「お前の、政治的な調整力もあってこそだ」レオンは言った。「レーヴェン家の後ろ盾、そして、フォーグラー局長の処分を巡る、慎重な対応——お前がいなければ、ここまでスムーズには進まなかった」


「お互い様だ、という話は、もう何度もしたな」アレクシスは、小さく笑った。


 その日の夜、レオンは、久しぶりに、心穏やかな気持ちで、ミハイルとコレット、そしてアレクシスと共に、食事を囲む機会を持った。


「これも、改めて、お礼を言わせてください」ミハイルが、少し照れくさそうに言った。「あの時、勇気を出して、ヴァイス殿に相談して、本当に良かったです」


「俺の方こそ、感謝している」レオンは言った。「お前たちがいなければ、この改革は、成し遂げられなかった」


 コレットも、穏やかな表情で頷いていた。


「これからも、局のために、力を尽くしたいと思います」


 レオンは、この小さな集まりに、これまでの長い戦いの、確かな意味を、改めて感じていた。南方戦線での、トーマやユリウスとの絆と同じように、この帝都でも、新たな、かけがえのない繋がりが、育まれていた。


 だが、この穏やかな時間の中にも、レオンの心の片隅には、常に、あの東方情勢への懸念が、静かに存在し続けていた。


「アレクシス、東方の件、その後、何か進展は?」


 食事の合間、レオンは、改めて、その話題を切り出した。


「緊張は、依然として、続いている」アレクシスは、表情を曇らせながら言った。「ただ、今のところ、まだ、全面的な衝突には至っていない」


「このまま、収まってくれるといいんだが」


「そう願いたいところだが……」アレクシスは、言葉を濁した。「帝国の歴史を見る限り、こうした緊張が、自然に収まることは、稀だ」


 レオンは、その言葉に、改めて、気を引き締めた。局の改革という、確かな成果を積み重ねながらも、この帝国には、まだ、より大きな、根本的な問題が、横たわっていることを、忘れてはいなかった。


 (軍を強くすることと、戦争を減らすこと——この二つは、本当に、両立できるんだろうか)


 その疑問は、まだ、レオンの中で、明確な答えを持っていなかった。だが、いずれ、その答えを、自分自身で見つけなければならない日が来ることを、レオンは、どこか予感していた。


 帝都の夜、改革の成果という、確かな光と、東方情勢という、不透明な影——その両方を抱えながら、レオンの日々は、着実に、次の局面へと、進み続けていた。

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