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豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
帝都・改革編

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第66話 局の再編

 デルモン子爵とフォーグラー局長への処分は、それから数週間をかけて、正式に決定された。


「フォーグラー局長、局長職を解任。デルモン子爵には、爵位の一段階降格、および、軍需関連取引からの、三年間の除外を命じる」


 正式な通達を聞いたレオンは、南方戦線でのフェルナン家の一件と、似たような、しかし、少し違う結末に、複雑な感情を抱いていた。


「フォーグラー局長の処分、思ったより軽い気もするが」レオンは、アレクシスに率直な感想を漏らした。


「彼が、最終的に自ら証言したことが、考慮されたんだろう」アレクシスは言った。「悪質な主犯というより、巻き込まれた末に、不正に加担した、という扱いになったようだ」


「それで、いいんだろうか」


「完全な断罪だけが、正しい結末とは限らない」アレクシスは、静かに言った。「フォーグラー局長は、最後に、自分の意志で、真実を語った。それも、一つの結末の形だと思う」


 レオンは、その言葉に、これまでの戦いの中で、学んできた「善悪を単純に割り切らない」という視点を、改めて思い出していた。


 処分が決定した後、局内には、新しい局長が着任することになった。


「新局長、レイモン・ヴェルニエ殿です」


 着任したのは、これまでレオンが見てきたどの上司とも違う、実務的で、誠実な印象の人物だった。


「ヴァイス殿、今回の件、本当にご苦労だった」ヴェルニエは、着任早々、レオンに直接声をかけてきた。「この局の制度そのものに、問題があったことは、明らかだ。これから、根本的な見直しを進めたいと思っている」


「協力させてください」レオンは、迷いなく答えた。


「期待している」ヴェルニエは、頷いた。「そのためにも、まず、君の意見を聞かせてほしい。この局の、どこに、最も問題があると思う?」


 レオンは、これまでの調査で見てきた様々な問題を、整理しながら説明した。


「契約の承認プロセスが、特定の個人の判断に、過度に依存しています」レオンは言った。「局長一人、あるいは、少数の人間の裁量で、大きな契約が決まってしまう仕組みが、不正の温床になっていたと思います」


「具体的な改善案は?」


「承認プロセスを、複数人で、相互に確認する体制にするべきです」レオンは言った。「また、契約の価格については、定期的に、他の調達先との比較検証を、制度として組み込むべきだと思います」


 ヴェルニエは、レオンの提案を、熱心に聞いていた。


「素晴らしい。それを、正式な改革案として、まとめてもらえるか」


「喜んで」


 この日から、レオンは、単なる不正の調査者から、局の制度そのものを改革する、中心的な役割を担うことになった。


「これは、お前にとって、大きな転機になるな」アレクシスは言った。「不正を正すだけでなく、それが二度と起きない仕組みを作る——これこそが、本当の意味での改革だ」


「お前の言ってたことが、少しずつ、分かってきた気がする」レオンは言った。「一つの不正を正しても、仕組みそのものを変えなければ、また同じことが繰り返される」


 レオンは、ミハイルとコレットにも、この新たな役割について伝えた。


「局の制度改革、ですか」ミハイルは、興味深そうに言った。「私たちも、協力できることがあれば」


「ぜひ、頼みたい」レオンは言った。「お前たちの、現場での経験や視点は、改革案を作る上で、何より貴重だ」


 コレットも、これまでとは違う、前向きな表情を見せていた。


「今度は、堂々と、協力できますね」


「ああ」レオンは、小さく笑った。「もう、隠れて動く必要はない」


 その後、レオンは、ヴェルニエ新局長の下、局の制度改革を、本格的に進めていくことになった。承認プロセスの見直し、価格の定期検証制度の導入、そして——内部からの疑問や告発を、安全に行える仕組みの構築。


「これまでの経験が、すべて、ここに繋がっている気がする」


 ある日の夜、レオンは、これまでの道のりを振り返りながら、アレクシスに、そう漏らした。


「士官学校での学び、南方戦線での実戦、そして、この局での戦い——それぞれが、お前を、着実に成長させてきた」アレクシスは言った。


「お前もな」レオンは、アレクシスを見た。「政務局での働き、そして、この一件への協力——お前がいなければ、ここまで辿り着けなかった」


「お互い様だ」


 二人は、小さく笑い合った。士官学校時代の対立から始まった関係は、今、確かな信頼と協力の絆へと、育っていた。


 だが、レオンの中には、まだ、漠然とした予感があった。この局での改革は、確かに大きな前進だった。だが、帝国全体という、より大きな視点で見れば、これは、まだ、ほんの一部の問題を正しただけに過ぎない。


 (もっと大きな問題が、この国には、残ってるはずだ)


 その予感を胸に、レオンは、局の改革という、新たな任務に、着実に取り組み始めていた。


 帝都での日々は、これまでとは違う、建設的な方向へと、少しずつ進み始めていた。

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