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豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
帝都・改革編

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第64話 検証の結果

 品質検証の正式な結果が届いたのは、それから二週間後のことだった。


「報告書が、まとまりました」


 監査部の文官から手渡された書類を、レオンとアレクシスは、緊張しながら確認した。


「……予想通りだ」


 レオンは、その内容に、確かな手応えを感じた。専門の技師による検証の結果、グラーツ商会製の部品は、他社製品と比較して、耐久性において、明確な優位性が認められなかった。むしろ、一部の項目では、平均をやや下回る結果すら示されていた。


「これで、品質の違いという主張は、完全に崩れたな」アレクシスは、資料を見ながら言った。


「監査院の反応は?」レオンは尋ねた。


「これまでの慎重な姿勢から、一歩踏み込んだ対応を検討しているようだ」文官は言った。「正式な聴取の場を、改めて設ける方向で、調整している」


 この進展は、レオンとアレクシスにとって、これまでの苦労が、ようやく実を結び始めている確かな証だった。


「デルモン子爵は、今度は、どう反論してくるだろうか」レオンは、慎重に考えを巡らせた。


「品質の主張が崩れた以上、残された言い逃れは、限られてくるはずだ」アレクシスは言った。「価格差を、別の理由——例えば、特別な輸送条件や、緊急時の優先供給体制の維持費、といった形で、正当化しようとするかもしれない」


「そうした主張にも、備えておくべきだな」


 二人は、予想される反論に対して、さらなる証拠を準備することにした。特に、レオンは、南方戦線での実際の輸送状況と照らし合わせ、グラーツ商会が主張するであろう「緊急時の優先供給」が、実態として機能していたかどうかを、検証することにした。


「南方戦線での、グラーツ商会製の部品の供給記録、確認してみよう」


 レオンは、改めて、南方戦線時代の記録を取り寄せ、精査を進めた。


「……これは」


 数日後、レオンは、新たな発見に行き着いた。


「どうした」アレクシスが、レオンの様子に気づいて尋ねた。


「グラーツ商会の製品、実際には、南方戦線への供給実績が、ほとんどない」レオンは、資料を示しながら言った。「主に、帝都周辺や、北方戦線向けに、供給が集中している」


「つまり?」


「『緊急時の優先供給体制の維持』という主張自体が、南方戦線に関しては、実態と合わない」レオンは言った。「もし、そうした体制が本当に機能していたなら、最も兵站が逼迫していた南方にこそ、優先的に供給されるべきだったはずだ」


 アレクシスは、その指摘に、確かな手応えを感じた様子だった。


「見事な分析だ。これは、相手の想定していない反論になるかもしれない」


「南方戦線での経験が、こんな形で役に立つとはな」レオンは、少し自嘲気味に笑った。


 この新たな分析結果も、監査部へ、速やかに提出された。


「ヴァイス殿の分析、非常に鋭い」文官は、資料を確認しながら、感心した様子で言った。「これなら、相手の反論の余地を、かなり狭められるだろう」


 数日後、監査院は、正式に、デルモン子爵とフォーグラー局長への、改めての聴取を決定した。


「いよいよ、決着の時が近づいているな」アレクシスは言った。


「ああ」レオンは、これまでの長い戦いを振り返りながら、静かに頷いた。


 その夜、レオンは、ミハイルとコレットにも、この進展を伝えた。


「本当に、ここまで来たんですね」ミハイルは、感慨深げに言った。


「まだ、終わったわけじゃない」レオンは、気を引き締めるように言った。「だが、確実に、前進している」


「デュボワさんの処分についても、何か動きは?」ミハイルが尋ねた。


「監査院から、保護規定の適用について、前向きな検討が進んでいると聞いている」レオンは言った。「この聴取の結果次第で、より明確になるはずだ」


 コレットは、その言葉に、静かに安堵の表情を浮かべた。


「ありがとうございます、ヴァイス殿」


「礼を言われることじゃない」レオンは言った。「お前たちの協力がなければ、ここまで辿り着けなかった」


 帝都の夜、レオンとアレクシス、そして協力者たちの間に、これまでの苦労が、ようやく報われつつあるという、確かな手応えが広がっていた。


 だが、デルモン子爵という相手が、この決定的な局面で、どのような最後の抵抗を見せるのか——その予測は、まだ、誰にもつかなかった。


 聴取の日が、刻一刻と、近づいていた。

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