第59話 繋がる糸、再び
デルモン家とフェルナン家の関係を調べるため、レオンとアレクシスは、これまで以上に慎重な情報収集を進めることにした。
「表立った調査は、これ以上避けるべきだ」アレクシスは言った。「局長側も、すでに私たちの動きを警戒している」
「では、どう進める?」
「外部からの協力を、もっと活用しよう」アレクシスは言った。「私の方でも、宮廷内の伝手を、慎重に辿ってみる」
レオンもまた、父グランやケイレブといった、南方戦線編で築いた繋がりを、改めて頼ることにした。
『父上
デルモン家という子爵家について、何かご存知でしたら教えてください。フェルナン家との商売上の付き合いがあったようです』
手紙を送ってから数日後、レオンのもとに、思いがけず、ケイレブからの手紙も届いた。バロンの商人ネットワークを通じて、何か情報を得たようだった。
『レオン殿
デルモン家について、こちらでも少し調べてみた。あの家は、表向きは慎ましい子爵家だが、裏では、いくつかの商会に、資金を提供して利益を得ているという噂がある。グラーツ商会も、その一つのようだ。
注意すべきは、デルモン家自体が、フェルナン家の一件で、大きな損失を被った可能性がある、という点だ。もしそうなら、彼らは、お前たちに対して、以前にも増して、強い警戒心を持っているかもしれない』
レオンは、その内容を、すぐにアレクシスに共有した。
「フェルナン家の処分で、デルモン家も、間接的に打撃を受けていた、ということか」アレクシスは、資料を見ながら言った。
「だとすれば、今回の局内での圧力、より個人的な動機がある可能性があるな」
「私怨、ということか」
「かもしれない」レオンは言った。「だとしても、やるべきことは変わらない」
数日後、コレットから、新たな情報がもたらされた。
「ヴァイス殿、経理記録の中に、気になるものを見つけました」
コレットが差し出した書類には、グラーツ商会への支払いに関する、新たな記録が示されていた。
「この支払い、承認者の欄が、局長ではなく、別の名前になっています」
「別の名前?」
「……デルモン子爵、本人の署名です」コレットは、緊張した面持ちで言った。
レオンは、その書類を、食い入るように見つめた。これまで、局長フォーグラーを通じた間接的な繋がりしか見えていなかった不正の構造に、デルモン家本人の、直接的な関与を示す証拠が、初めて見つかった瞬間だった。
「これは、決定的な証拠になり得る」レオンは、興奮を抑えながら言った。
「ですが、なぜ、子爵本人の署名が、こんな記録に残っているのでしょうか」コレットは、疑問を口にした。
「おそらく、局長を通さない、特別な取り決めがあったんだろう」レオンは推測した。「その分、記録として、この一枚が、うっかり残ってしまった」
「危険な発見、ということですね」
「ああ」レオンは、真剣な表情で頷いた。「この記録が、デルモン家に知られれば、確実に、何らかの動きがあるはずだ」
レオンは、この証拠を、慎重に保管することにした。同時に、コレットとミハイル、二人の安全を、これまで以上に気遣う必要があると、改めて認識した。
「デュボワさん、この発見は、俺とアレクシスだけで扱う」レオンは言った。「お前は、これ以上、深入りしないでくれ」
「ですが——」
「これまでの協力だけで、十分すぎるほどの貢献だ」レオンは、はっきりと言った。「これ以上、お前を危険に晒すわけにはいかない」
コレットは、しばらく躊躇した後、静かに頷いた。
「……分かりました。ですが、何か必要なことがあれば、いつでも言ってください」
「ありがとう」
その夜、レオンはアレクシスと共に、新たに見つかった証拠について、今後の方針を話し合った。
「これを、監査部に提出するタイミング、慎重に見極める必要がある」アレクシスは言った。
「早すぎれば、握りつぶされる危険がある。遅すぎれば、証拠が改竄される危険がある」
「その通りだ」アレクシスは、険しい表情で頷いた。「もう少し、補強する証拠が必要だろうな」
レオンは、これまでの長い戦いの経験から、慎重に、しかし着実に、次の一手を見極めようとしていた。
デルモン家という、新たな敵の輪郭が、少しずつ、はっきりと見え始めていた。だが、この戦いが、どこまで広がっていくのか——その全貌は、まだ、レオンにも見えていなかった。
帝都の夜空の下、レオンとアレクシスの調査は、着実に、しかし確実に、核心へと近づいていた。




