↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
帝都・改革編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/116

第54話 書類の中の真実

 翌日から、レオンは本格的に、軍需輸送管理局での調査を進め始めた。


 与えられた仕事は、あくまで「物資調達記録の整理」だった。だが、レオンにとって、それは単なる事務作業ではなかった。士官学校時代から培ってきた分析力を活かし、記録の中に潜む、様々な違和感を、一つずつ洗い出していく作業だった。


「これ、また同じパターンか」


 数日かけて記録を精査したレオンは、いくつかの明確な傾向を見出していた。


 同じ規格の武器が、地域によって、まったく異なる価格で調達されている。ある倉庫は、実際にはほとんど使用されていないにもかかわらず、継続的に維持費が計上されている。そして——書類上は「消費された」とされる物資の量が、実際の部隊の規模から考えて、明らかに過剰な場合がある。


「新任、精が出るな」


 声をかけてきたのは、局内で長年働いているという、中年の文官だった。名をベルナールといった。


「気になる点が、いくつか見つかったので」


「気になる点、ね」ベルナールは、少し意味ありげな笑みを浮かべた。「この局に来て日が浅い者は、皆、最初はそう言うものだ」


「何か、ご存知なんですか」


「知っていても、簡単には言えんよ」ベルナールは、声を落とした。「この局は、長年の慣習で、色々なことが『そういうもの』として、処理されてきた」


 レオンは、その言葉に、南方戦線での経験を重ねずにはいられなかった。


「『そういうもの』というのは、正すべきではない、ということですか」


「正すべきかどうかは、私が決めることじゃない」ベルナールは、慎重に言葉を選んだ。「だが、一つ忠告しておく。この局の記録に、深く踏み込みすぎると、思わぬところから、圧力がかかることがある」


「圧力、というのは?」


「私の口からは、これ以上は言えん」


 ベルナールは、それだけ言うと、自分の仕事に戻っていった。レオンは、その反応に、南方戦線でのラドフォードとのやり取りを、思い出さずにはいられなかった。


 (またか)


 だが、今回のレオンは、以前とは違う慎重さを持っていた。南方戦線での経験——正面から突っ走ることの危うさ、そして、証拠を丁寧に積み重ねることの重要性——それらを、レオンはすでに学んでいた。


 その日の夜、レオンはアレクシスと合流し、局での発見について報告した。


「同じような傾向が、私の方でも見えている」アレクシスは言った。「政務局でも、特定の貴族家が、軍需契約に不自然な影響力を持っているという話を、耳にした」


「フェルナン家のような話が、他にもある、ということか」


「一つや二つじゃないだろうな」アレクシスは、険しい表情で言った。「帝都では、こうした利権が、もっと複雑に絡み合っている」


「南方戦線の時のように、一つずつ、潰していくしかないのか」


「その通りだ。だが、ここでは、相手の数も、規模も、桁違いだ」


 レオンは、その言葉に、改めて気を引き締めた。南方戦線での戦いは、確かに大きな意味を持っていた。だが、それは、この帝国全体が抱える問題の、ほんの一部に過ぎなかったのかもしれない。


 数日後、レオンは、局の中で、一人の若い文官と知り合う機会を得た。


「ヴァイス殿、少しよろしいでしょうか」


 声をかけてきたのは、レオンと同年代と思われる、真面目そうな青年だった。


「何でしょうか」


「私、ミハイル・ローゼンと申します」青年は、丁寧に名乗った。「実は、以前から、局の記録に、いくつか疑問を持っておりまして」


「疑問、というのは?」


 ミハイルは、周囲を気にしながら、声を落とした。


「特定の商会が、この局と、不自然に近い関係にあるように見えるんです」


 レオンは、その言葉に、興味を引かれた。


「その商会の名前は?」


「……ここでは、少し」ミハイルは、慎重な様子を見せた。「もし、よろしければ、場所を変えてお話しできませんか」


 レオンは、その慎重さに、むしろ信頼を感じた。軽率に情報を漏らす人間より、こうして慎重に行動する人間の方が、信頼に足ると、これまでの経験が教えていた。


「分かった。仕事終わりに、話を聞かせてくれ」


「ありがとうございます」


 この出会いが、帝都での新たな調査の、重要な足がかりになるかもしれない——レオンは、そんな予感を抱きながら、その日の仕事を続けた。


 帝都での戦いは、南方戦線とは違う形で、静かに、しかし確実に、動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。