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豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
南方戦域

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第51話 下された裁き

 フェルナン伯爵への聴取から、二週間が過ぎた。


 監査院による審議は、慎重に進められていた。その間、レオンとアレクシスは、南方戦線の通常業務——撤退後の部隊再編と、防衛体制の構築に、改めて集中することになった。


「審議、まだ結論は出ないのか」


 レオンは、待つことへの焦れを、隠せずにいた。


「これほどの案件だ。簡単には決められないだろう」アレクシスは、冷静に言った。「拙速な判断は、かえって、後々の反論の余地を残す」


「分かってはいるんだが」


 その待機の期間中、レオンは、駐屯地での日常業務に、改めて向き合っていた。輸送計画の見直し、物資の管理——それらは、これまでの調査の陰に隠れがちだったが、兵站担当としての本来の役割だった。


「新しい輸送ルート、定着してきましたね」


 部下からの報告に、レオンは頷いた。ラドフォードが去った後、輸送管理の体制は、レオンの主導で、着実に改善が進んでいた。


「これからも、油断せずに進めよう」


 そんなある日、ついに監査院からの正式な通達が届いた。


「フェルナン家に対する処分が、決定しました」


 その知らせに、レオンとアレクシスは、すぐに詳細を確認するため、司令部へと向かった。


「処分内容は、以下の通りだ」高官が、正式な文書を読み上げた。「フェルナン家当主、爵位を一段階降格。加えて、不正によって得た利益の返還、及び、今後五年間、軍需関連の取引からの除外を命じる」


 レオンは、その内容を、静かに聞いていた。完全な断罪とは言えないかもしれない。だが、これまでの帝国の歴史の中では、異例とも言える、明確な処分だった。


「思ったより、厳しい処分だな」アレクシスが、小声で言った。


「レーヴェン家の支持と、明確な証拠——それらが、大きく影響したんだろう」レオンは答えた。


「今回の件、両名の功績は、記録に残す」高官は、レオンとアレクシスに向けて言った。「不正を正すという、軍人としての務めを、見事に果たした」


 その言葉に、レオンは、これまでの長い戦いを、改めて振り返っていた。士官学校時代の最初の違和感、南方戦線での実戦、父の過去、そして——母の死の真相に繋がる、長い調査。


 (やっと、ここまで来たか)


 完全な満足感には、まだ届かない。母の死の完全な真相は、明らかにならなかった。だが、少なくとも、この不正の仕組みは、正式に断罪された。


「ラドフォード殿については、どうなりますか」レオンは尋ねた。


「実行犯としての責任は、免れない」高官は言った。「だが、上位者からの指示があったことも考慮され、処分は、比較的軽いものになる予定だ」


 レオンは、その結果に、複雑な感情を抱いた。ラドフォードもまた、この歪んだ仕組みの中で、上からの圧力に従わざるを得なかった、一人の犠牲者だったのかもしれない。


 司令部を出た後、レオンとアレクシスは、久しぶりに、肩の力を抜いた様子で、駐屯地への道を歩いていた。


「終わったな」レオンは、感慨深げに言った。


「一つの区切りは、ついた」アレクシスは、慎重に言葉を選んだ。「だが、これで、帝国全体の問題が、解決したわけじゃない」


「分かってる」レオンは頷いた。「フェルナン家は、あくまで、氷山の一角だ」


「他にも、同じような不正が、あちこちに存在するだろう」


 二人は、これまでの戦いが、決してこの帝国全体の問題を、根本から解決するものではないことを、改めて認識していた。


「それでも」レオンは、静かに、しかし確かな決意を込めて言った。「一つずつ、正していくしかない」


「そうだな」アレクシスも、同意を示した。


 その夜、レオンは、久しぶりに、心穏やかな気持ちで、父への手紙をしたためた。


 『父上


 フェルナン家への処分が、正式に決定しました。母さんの死の完全な真相には、届きませんでした。ですが、この不正が、代々続いてきたものだったことは、明らかになりました。


 父上が、若い頃に成し遂げられなかったことを、俺なりの形で、成し遂げることができたと思います。


 ありがとうございました』


 筆を置いたレオンは、窓の外に広がる、南方の夜空を見上げた。


 長い戦いの末に得た、一つの決着。だが、レオンの中には、これで終わりではないという、確かな予感もあった。


 この帝国には、まだ多くの歪みが残っている。今回の一件は、その歪みの一つを、正すことができただけに過ぎない。


 (これからも、続いていくんだろうな)


 その予感は、レオンにとって、決して重荷ではなかった。むしろ、士官学校での日々から、南方戦線での実戦を経て、確かな成長を遂げてきた自分自身への、静かな自信でもあった。


 南方戦線編は、こうして、一つの大きな区切りを迎えようとしていた。

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