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豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
南方戦域

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第49話 崩れる砦

 アレクシスが南方戦線に戻ったのは、それから三日後のことだった。


「レーヴェン家として、正式に支持を得た、というのは本当か」


 レオンは、アレクシスから直接その話を聞き、思わず確認した。


「ああ」アレクシスは頷いた。「父は、フェルナン家の不正を、以前から問題視していたようだ。今回の件を、決着をつける好機と見ている」


「これで、状況は大きく変わるな」


「監査部にも、すでに報告は届いているはずだ」


 案の定、それから状況は、これまでにない速さで動き始めた。


「レーヴェン伯爵家からの正式な支持表明を受け、監査院は、フェルナン家に対する調査を、さらに強化することを決定した」


 監査部からの通達に、駐屯地内も大きくざわついた。


「本当に、あの家が、処分されるかもしれないのか」


「これまでの噂が、ようやく表に出るってことか」


 様々な憶測が飛び交う中、レオンとアレクシスは、監査部からの追加の聴取に応じるため、司令部へと向かった。


「レーヴェン家の支持表明、大きな後押しになった」対応した文官は、以前より明らかに前向きな様子を見せていた。「これで、フェルナン家側も、これまでのような、単純な握りつぶしはできなくなるだろう」


「フェルナン家の反応は?」レオンは尋ねた。


「動揺しているようだ」文官は言った。「これまでの反論、そして道路整備の矛盾——それらに加えて、有力貴族家の支持を受けた告発となれば、さすがに軽視できない」


 その言葉通り、数日後、フェルナン家側から、これまでとは異なる反応が示された。


「フェルナン家が、道路整備の一件について、一部の不備を認める声明を出しました」


 その知らせに、レオンとアレクシスは、思わず顔を見合わせた。


「認めた、ということか」


「完全な不正の認定ではありません」文官は、慎重に説明した。「あくまで、『管理上の不備があった』という、限定的な認め方です」


「それでも、一歩前進だな」レオンは言った。


「そうだ。だが、これで終わりではない」アレクシスは、油断なく言った。「フェルナン家は、これを、トカゲの尻尾切りのように使ってくる可能性がある」


「尻尾切り、というのは?」


「末端の担当者に責任を押し付け、当主自身の関与は否定する、ということだ」


 その予測は、的中することになった。


 数日後、正式な発表があった。


「フェルナン家、南方戦線における輸送不正について、領地内の管理責任者の独断であったとして、その責任者を処分すると発表」


 この発表に、レオンは、強い憤りを覚えた。


「ラドフォード殿のことか」


「おそらくな」アレクシスも、苦い表情を浮かべた。「フェルナン家は、実務を担当していた人間に、すべての責任を負わせるつもりだ」


「当主自身の関与は、認めないということか」


「そのようだ」


 レオンは、この結果に、強い不満を感じた。父グランが、かつて多くのものを失ってまで告発しようとした不正——その根本にある、フェルナン家の責任が、うやむやにされようとしていた。


「これで、終わらせるつもりはない」レオンは、決意を新たにした。


「私も同感だ」アレクシスも頷いた。「だが、これ以上、どう追及するかが問題だ」


 二人は、改めて、証拠を見直すことにした。ラドフォードだけの独断ではなく、フェルナン家の当主自身が、この不正に関与していたことを示す、より直接的な証拠が必要だった。


「父から受け取った書簡、もう一度確認しよう」レオンは提案した。


 二人は、これまで手にしていた証拠の中から、フェルナン家当主の関与を示す部分を、改めて丁寧に洗い出していった。


「……あった」


 レオンは、書簡の一つに、注目すべき記述を見つけた。


「これは?」


「輸送費の増額について、『当主様のご承認をいただいた』という一文がある」レオンは、その部分を指し示した。「これなら、末端の判断ではなく、当主の承認があったことを、直接示せる」


「これを、監査部に提出しよう」アレクシスは、すぐに言った。「トカゲの尻尾切りは、させない」


 新たな証拠は、すぐに監査部へと提出された。その反響は、これまで以上に大きかった。


「当主の直接的な承認を示す証拠、これは、決定的だ」


 文官は、その書簡を確認しながら、確かな手応えを見せた。


「これで、フェルナン家も、言い逃れができなくなるだろう」


 レオンは、この結果に、これまでの長い戦いが、ようやく核心に近づいていることを、確かに感じていた。


 だが同時に、これほどの証拠を突きつけられたフェルナン家が、次にどのような手段に出るのか——その不安も、レオンの中に、確かに存在していた。


 南方の空に、決着の時が、静かに近づいていた。

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