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豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
南方戦域

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第43話 迫る影

 ドノヴァンの行方が分からないまま、三日が過ぎていた。


「何の手がかりもないのか」


 レオンは、焦りを募らせながら、駐屯地内の情報を集め続けていた。


「駐屯地内の捜索は、限界かもしれません」部下からの報告は、芳しいものではなかった。「近隣の集落にも聞き込みを行いましたが、目立った情報は得られませんでした」


 レオンは、拳を握りしめた。


(俺のせいで、あの人が巻き込まれたのか)


 自責の念が、レオンの中で、次第に大きくなっていった。


「レオン」アレクシスが、そんなレオンの様子を見て、声をかけた。「自分を責めすぎるな」


「だが、あの人が情報をくれたのは、俺のためだ」


「彼自身の判断だ」アレクシスは、冷静に言った。「お前が、無理に情報を引き出したわけじゃない」


 その言葉は、慰めというより、事実を淡々と述べたものだった。だがそれが、かえってレオンの心を落ち着かせた。


 その日の夕方、レオンのもとに、思いがけない訪問者があった。


「レオン様、少しお時間よろしいでしょうか」


 訪ねてきたのは、見知らぬ若い女性だった。旅装束に身を包み、どこか緊張した様子を見せている。


「どちら様でしょうか」


「私は、ケイレブの店で働いている者です」女性は、小声で言った。「ケイレブ様から、これを、お届けするようにと」


 女性は、小さな封筒を差し出した。レオンは、警戒しながらも、それを受け取った。


「中を確認しても?」


「はい。急いでいるとのことでしたので」


 レオンは、封筒を開けた。中には、短い手紙が入っていた。


 『レオン殿へ


 急を要する知らせがある。あの倉庫番、ドノヴァンという男、バロンの外れにある、廃屋に監禁されているという情報が入った。詳細は、この者に聞いてほしい。


 だが、これは罠の可能性もある。慎重に行動されたし。


 ケイレブ』


 レオンは、その内容に、息を呑んだ。


「これは、確かな情報なのか」


「私が実際に、その場所を確認したわけではありません」女性は、正直に答えた。「ですが、ケイレブ様の知人の商人から、そのような話を聞いたと」


「詳しい場所は?」


 女性は、バロン郊外の、比較的詳細な位置を説明した。レオンは、それを頭に刻みながら、アレクシスを呼びに向かった。


「ドノヴァン殿の居場所らしき情報が入った」


 レオンから話を聞いたアレクシスは、慎重な表情を浮かべた。


「罠の可能性も、十分にある」


「分かってる。だが、放っておけない」


「軍として、正式に動くべきだ」アレクシスは言った。「私たちだけで、独断で乗り込むのは、危険すぎる」


「正式な手続きを踏んでいる間に、手遅れになるかもしれない」


 二人の間に、久しぶりに緊張した空気が流れた。だが、それは対立ではなく、それぞれが最善を模索する中での、真剣なせめぎ合いだった。


「一つ、提案がある」アレクシスは言った。「まず、少数精鋭で、慎重に現場を確認する。もし本当にドノヴァン殿がいれば、その時点で、正式な救出部隊を要請する」


「先行偵察、ということか」


「そうだ。無謀な突入は避けたい」


 レオンは、少し考えた後、頷いた。


「分かった。俺と——」


「私も行く」アレクシスは、迷いなく言った。「一人より、二人の方が、判断を誤るリスクは減る」


「お前の立場で、危険な真似をしていいのか」


「今更、そんなことを気にする段階じゃないだろう」


 二人は、ハーケンを含む、信頼できる数名の兵士だけを連れ、密かにバロンへ向かうことにした。


 夜通しの移動を経て、翌日の昼過ぎには、目的の廃屋の近くにたどり着いた。


「あそこか」


 ハーケンが、地図と照らし合わせながら、廃屋を指し示した。人気のない、荒れ果てた建物だった。


「周囲を、まず確認しよう」アレクシスは、慎重に言った。「監視の目がないか、見張りがいないか」


 しばらくの偵察の後、廃屋の周囲には、目立った見張りの姿はないことが確認された。


「行くぞ」


 レオンは、緊張しながらも、廃屋に向かって足を進めた。この先に、ドノヴァンの安否、そして、フェルナン家側の動きの実態が、待っているはずだった。


 廃屋の扉に手をかけた瞬間、レオンの心臓は、これまでにないほど、激しく鼓動していた。

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