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豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
士官学校編

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第20話 三日間の戦い

 演習初日、東軍と西軍は、それぞれの陣地に展開した。演習場は、これまでで最も広大な範囲——丘陵、森林、川、平地が複雑に入り組んだ地形が用意されていた。


「第一日目の目標は、偵察による情報収集と、初期配置の確定だ」


 レオンは、集めた部隊にそう告げた。焦って動くのではなく、まず情報を集める——これも、これまでの失敗から学んだ教訓の一つだった。


 偵察部隊からの報告が、次々と入ってくる。


「西軍、本陣を中央の丘に構築。周囲に均等な守備部隊を配置している模様です」


「……均等配置、か」レオンは地図を見つめた。「アレクシスらしいな。柔軟性を重視した布陣だ」


「攻めどころが見えませんね」トーマが眉を寄せた。


「まだ焦る必要はない。相手が均等に構えているなら、こちらは的を絞って揺さぶりをかける」


 レオンは、ユリウスの部隊に指示を出した。


「ユリウス、お前の部隊で、西軍の東側を軽く攻撃してくれ。本気で突破する必要はない。相手の反応を見るための陽動だ」


「……分かった。やってみる」


 初日の夕方、ユリウスの部隊が西軍の東側に小規模な攻撃を仕掛けた。西軍はすぐに反応し、東側に部隊を集中させ始めた。


「報告! 西軍、東側の防衛を強化しています!」


「……食いついたな」レオンは小さく笑った。「アレクシスらしい、堅実な反応だ」


 だがその夜、レオンのもとに意外な報告が届いた。


「西軍、東側に集めた部隊、一部が引き返しているようです」


「……気づかれたか」


 レオンの陽動は、あくまで様子見のためのものだった。だが、アレクシスはその意図をすぐに見抜き、過剰な反応を控えたようだった。


 (さすがだな。無駄な兵力の移動はしない、か)


 二日目、戦況はより本格的な展開を見せ始めた。


「東軍、北側の川沿いから前進を検討中との情報が入りました」


 レオンのもとに届いた偵察報告に、レオンは首をひねった。


「北側の川沿い……あそこは、渡河に時間がかかる。わざわざそこを選ぶ理由がない」


「フェイクの可能性は?」トーマが尋ねた。


「十分ある」レオンは頷いた。「アレクシスが、俺たちに『北側を警戒させる』ために、あえて流した情報かもしれない」


 レオンは、その情報を鵜呑みにせず、南側への警戒も同時に強化することにした。


 案の定、その日の午後、実際に動いたのは西軍の南側部隊だった。


「報告! 西軍、南側から本格的な攻勢を仕掛けてきています!」


「読み通りだ」レオンは即座に指示を出した。「南側の防衛部隊、既定の配置で迎え撃て。ユリウス、お前の部隊で側面から援護してくれ」


「了解!」


 南側での戦闘は、一進一退の攻防となった。レオンの部隊は、事前に共有していた判断基準に従って、現場の判断で柔軟に対応していた。


「東軍、南側でよく持ちこたえています!」


 伝令の報告に、レオンは頷いた。だが、油断はできなかった。西軍は、統率の取れた動きで、着実に圧力をかけ続けていた。


(このまま消耗戦になれば、どちらが先に崩れるか——)


 二日目の夜、レオンは疲労の色を見せながらも、地図を前に考え続けていた。


「レオン、少し休んだ方がいい」トーマが心配そうに言った。


「あと少しだけ」


 レオンは、これまでの戦況を振り返っていた。アレクシスの動きには、一貫した特徴があった。無駄な兵力移動を避け、常に組織全体の統率を重視する——それは、堅実だが、同時に一つの弱点でもあった。


(統率を重視するあまり、判断のスピードが、一段階遅れる瞬間がある)


 共同指揮演習で見てきたアレクシスの指揮スタイルを思い出しながら、レオンは、その隙をどう突くかを考え続けた。


 三日目、演習は最終局面を迎えていた。


「レオン、南側の戦線、これ以上は持ちこたえられそうにありません」


「分かってる」レオンは頷いた。「予定通り、囮の役割は十分に果たした」


「囮……?」


「これまでの二日間、南側での攻防に、西軍の主力をかなり引きつけている」レオンは地図を指し示した。「その間に、別動隊を北側から迂回させていた」


 実は、二日目の夜のうちに、レオンは少数精鋭の部隊を密かに北側へ迂回させていた。渡河に時間がかかることを逆手に取り、西軍がまさか本気でその道を選ぶとは思っていない隙を突く作戦だった。


「西軍本陣、手薄になっているはずだ。今なら、突破できる」


「レオン、それは危険な賭けじゃないか?」ユリウスが心配げに尋ねた。


「賭けだ。だが、根拠のない賭けじゃない」レオンは言った。「アレクシスの性格上、南側の攻防に集中している間、本陣の防衛を極端に薄くすることはない。だが、三日目のこの段階なら、疲労と消耗で、判断の余裕が減っているはずだ」


 北側に迂回させていた部隊から、報告が届いた。


「西軍本陣付近に到達! 守備は手薄です!」


「……いける」


 レオンは、最後の指示を出した。


「南側の部隊、これ以上の消耗を避けて、防衛に専念しろ。北側の別動隊、本陣への突入を許可する」


 演習場に、緊張が走った。三日間の戦いの結末が、この瞬間に懸かっていた。

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