第11話 変わり始めた指揮
二度の敗北から一週間。レオンの中で、確実に何かが変わり始めていた。
「今日の小演習、ちょっと変えてみようと思う」
少人数での戦術訓練の前に、レオンは仲間たちにそう切り出した。同じ班にはトーマ、ユリウス、それに数名の学生がいた。
「変えるって、何を?」トーマが首を傾げる。
「指示の出し方だ」レオンは地図を広げた。「これまでは、俺がすべての動きを事前に決めて、それを命令する形式だった。今回は、大まかな目標だけ伝えて、細かい判断はお前らに任せる」
「……大丈夫なのか、それで」ユリウスが不安げに尋ねた。
「分からない。だから試す」
レオンは各自に役割と大まかな目標だけを伝えた。「あの丘を確保しろ」「敵の動きを見て、必要なら援護に回れ」——具体的な手順は指定せず、判断の余地を残した形だった。
演習が始まると、最初のうちは戸惑いが見られた。誰も、細かい指示なしで動くことに慣れていなかったからだ。
「レオン、丘の確保、どうやって進めればいい?」
仲間の一人が尋ねてくると、レオンは即答せず、逆に問いかけた。
「お前ならどうする?」
「え……いや、俺は」
「今回は、お前の判断で決めろ。間違ってもいい。俺が全部決めてたら、また同じ失敗を繰り返す」
最初は戸惑っていた学生たちも、次第に自分で考え、判断するようになっていった。完璧な連携とはいかなかったが、以前とは明らかに違う動きが見え始めていた。
「おお、いい感じじゃないか」トーマが指示された持ち場で、臨機応変に動きながら声を上げた。「こういうのも、悪くないな」
演習が終わった後、レオンは仲間たちを集めて簡単な振り返りをした。
「うまくいったところ、うまくいかなかったところ、それぞれ言ってくれ」
「丘の確保は、思ったよりスムーズだったよ」ユリウスが控えめに言った。「自分で判断していい、って言われると、意外と……集中できた」
「逆に、援護のタイミングが分かりにくかった」別の学生が指摘した。「『必要なら』って言われても、どこからが必要なのか、基準が曖昧だった」
「なるほどな」レオンはメモを取った。「権限を渡すのは大事だが、判断の基準までは曖昧にしちゃいけない、ってことか」
小さな演習だったが、レオンにとっては大きな収穫だった。「すべてを自分で決める」から「判断の基準を示した上で、任せる」への転換——それは、ガレスとアレクシスから受けた指摘を、自分なりに消化した結果だった。
その日の夕食時、トーマが茶化すように言った。
「なんか、お前最近、雰囲気変わったよな」
「そうか?」
「前は、自分の頭の中で全部完結してる感じだったけど、最近は俺らの意見、ちゃんと聞くようになった」
「……そう見えるなら、悪くないな」
ユリウスも頷いた。
「正直、最初のレオンは、少し怖かった。何を考えているか分からなくて」
「今は?」
「今は……話しやすい。前より」
レオンは少し照れくさそうに視線を逸らした。
「別に、性格が変わったわけじゃない。ただ、やり方を変えただけだ」
「それを『成長』って言うんだよ」トーマが笑った。
その翌日、教室に貼り出された掲示物が、学生たちの間で話題になった。
「見たか、あれ」
「今度は学年全体を巻き込んだ、これまでで一番大きな演習らしいぞ」
掲示板には、次の大規模演習の告知が張り出されていた。今回は、これまでとは違い、複数の学生が共同で一つの陣営を指揮する形式——いわば「合同指揮」の演習だった。
組分け表を確認したレオンは、思わず目を見張った。
「東軍、共同指揮官——レオン・ヴァイス、アレクシス・フォン・レーヴェン」
「……同じ陣営か」
これまで敵対する立場だった二人が、今度は同じ陣営で指揮を執ることになる。偶然にしては出来すぎている組み合わせだったが、実際にはガレスをはじめとする教官陣が、意図的に組んだ可能性が高かった。
掲示板の前で、アレクシスと目が合った。
「面白い巡り合わせだな」アレクシスが言った。
「お前がそれを言うのは、二度目だぞ」
「今回は、同じ陣営だ。足並みを揃える必要がある」
「……お手柔らかに頼むよ」
レオンは内心で複雑な思いを抱えていた。これまで散々ぶつかり合ってきた相手と、今度は協力しなければならない。しかも、これまでの二度の敗北の反省を踏まえた、真の実力を試される演習になることは間違いなかった。
(俺の兵站と作戦力、アレクシスの統率力——組み合わさったら、どうなる?)
期待と不安が入り混じった感情を抱えながら、レオンは演習の詳細が発表される日を待つことになった。




