第109話 抵抗の声
改革の具体的な制度設計が進むにつれ、これまで、水面下に留まっていた反発が、次第に、表面化し始めていた。
「軍需契約の、透明化——これは、我々、貴族の、伝統的な、特権を、根こそぎ、奪うつもりか」
ある日、軍務省で開かれた、説明会の場で、一人の、年配の貴族が、強い口調で、そう、声を上げた。
「特権を、奪うつもりは、ありません」レオンは、冷静に、応じた。「ただ、不正な利益を、生み出す、仕組みそのものを、なくしたいだけです」
「不正と、正当な、慣習を、一緒くたに、するな」別の貴族も、加勢するように、言った。「我々の家は、代々、帝国軍に、物資を、供給してきた。それは、正当な、商いだ」
「正当な、商いであれば」レオンは、はっきりと、言った。「透明化された、制度の下でも、何ら、問題なく、続けられるはずです」
この、地道な、しかし、根気のいる説明と、説得の繰り返しが、レオンとアレクシスの、日々の、大部分を、占めるようになっていた。
「思ったより、手強いな」
ある日の夜、局での仕事を終えた後、レオンは、疲れた様子で、アレクシスに、そう漏らした。
「当然のことだ」アレクシスは、冷静に、言った。「これまで、何十年、何百年と、続いてきた仕組みを、変えようとしているんだ。簡単に、受け入れられるはずがない」
「お前の方は、どうだ」
「議会の、権限拡大について、賛成する貴族も、少なくない」アレクシスは、言った。「特に、中小の貴族家——大きな、既得権益を、持たない者たちは、むしろ、この改革に、期待を寄せている」
「立場によって、反応が、分かれる、ということか」
「そうだ」アレクシスは、頷いた。「だからこそ、すべての貴族を、一括りに、敵と、見なすべきじゃない」
レオンは、その言葉に、これまでの、長い経験——ユリウスとの出会い、フェルナン家との戦い、そして、この帝都での、様々な人々との、関わり——それらを、改めて、思い起こしていた。
数週間後、レオンとアレクシスは、改めて、改革に賛同する、貴族や、有力な商人たちを、一つの、協議の場に、集めることにした。
「私たちは、すべてを、一度に、変えようとしているわけでは、ありません」レオンは、集まった、様々な立場の、人々に向けて、改めて、説明した。「段階的に、着実に、そして——皆様の、具体的な、懸念にも、真摯に、向き合いながら、進めていきたいと、考えています」
この、丁寧な姿勢は、少しずつ、反発していた人々の、態度を、軟化させていった。
「正直、最初は、懐疑的だった」ある、中規模の商会の、当主が、会の終わりに、レオンに、そう、打ち明けた。「だが、あなたの、説明を、聞いていると——これは、単なる、理想論ではなく、現実的な、改善策なのだと、理解できた」
「ありがとうございます」レオンは、深く、頭を下げた。
この地道な、対話の積み重ねは、やがて、確かな、成果として、現れ始めた。
「軍需契約の、透明化に関する、第一段階の、法案——議会での、採決に、持ち込める、見通しが、立った」
ある日、ヴェルニエが、そう、報告した。
「本当ですか」レオンは、確かな、手応えを、感じた。
「反対する声も、まだ、残っている」ヴェルニエは、慎重に、付け加えた。「だが、賛成する勢力も、着実に、増えている」
数週間後、この、第一段階の法案は、議会での、長い議論を経て、ついに、正式に、可決されることになった。
「やったな」
この知らせを受けたレオンとアレクシスは、これまでの、長い努力が、ようやく、一つの、確かな形となったことに、深い、達成感を覚えていた。
「これは、始まりに過ぎない」アレクシスは、しかし、気を引き締めるように、言った。「これから、さらに、多くの、法案を、通していく必要がある」
「分かってる」レオンは、頷いた。「一歩ずつ、だ」
帝都での、この、新たな、長い戦いは、着実に、しかし、確かに、前進を続けていた。
皇帝から投げかけられた、あの問いへの、具体的な、答え——それが、今、帝国の、新たな、制度として、少しずつ、形になり始めていた。




