第110話 それぞれの道
軍需契約の透明化に関する法案の可決から、半年が過ぎていた。
帝国内の改革は、着実に、しかし、ゆっくりとしたペースで、進み続けていた。レオンとアレクシスの日々は、相変わらず、多忙を極めていたが、その合間に、これまでの、かけがえのない仲間たちとの、再会の機会も、少しずつ、訪れるようになっていた。
「レオン!」
ある日、局を訪れたのは、久しぶりの、トーマだった。西方国境での、輸送部隊での勤務を終え、帝都での、新たな任務に、配属されたという。
「トーマ、元気そうだな」
「お前こそ、相変わらず、忙しそうじゃないか」トーマは、以前と変わらぬ、人懐っこい笑顔を、見せた。「帝国全体の、改革を、担ってるって、本当か?」
「大げさだな」レオンは、苦笑した。「アレクシスと、ヴェルニエ局長、それに、多くの人々の、協力があってこそだ」
「謙遜するなよ」トーマは、肩を叩きながら、言った。「お前が、ここまで、来られたのは、お前自身の、努力の、結果だろ」
トーマは、西方での、輸送部隊の経験を活かし、帝都では、各地の、情報伝達と、人事の調整を担う、新たな部署に、配属されることになっていた。
「お前の、人を見る目——それが、ようやく、本格的に、活かされる場所に、来たんだな」レオンは、素直に、そう、言った。
「お前の、数字を見る目と、俺の、人を見る目——やっぱり、組み合わせると、強いんだよな」トーマは、小さく、笑った。
その数日後、ユリウスも、南方戦域から、一時的に、帝都へと、呼び戻されることになった。
「ユリウス、久しぶりだな」
「レオン」ユリウスは、以前にも増して、堂々とした、落ち着いた佇まいを、見せていた。「南方戦域での、部隊指揮を、任されるように、なった」
「部隊指揮、か」レオンは、感慨深げに、言った。「あの、気弱だった、お前が」
「君のおかげだよ」ユリウスは、静かに、言った。「貴族だから、敵だという、考えを、君は、最初から、持っていなかった。それが、僕に、どれだけの、勇気を、与えてくれたか——君自身は、きっと、分かっていないだろうけどね」
レオンは、その言葉に、これまでの、長い道のりを、改めて、噛み締めていた。士官学校時代の、あの、いじめの場面——あの日の、小さな行動が、こうして、確かな形で、仲間たちの、人生に、影響を、与えていた。
ある日、レオンは、懐かしい顔とも、再会する機会を得た。
「ガレス教官」
帝都を、視察のために訪れていた、ガレス・クロウ——今では、士官学校の、新たな、教育方針の策定にも、関わっているという——が、レオンのもとを、訪ねてきた。
「久しぶりだな、ヴァイス」ガレスは、相変わらずの、厳しい、しかし、どこか、温かみのある、表情で、言った。
「教官の、おかげです」レオンは、深く、頭を下げた。「あの頃、教わったこと——それが、今の、俺の、すべての、基盤になっています」
「『戦場では、お前の計算通りには、動かない』——あの言葉、覚えているか」ガレスは、少し、意地悪な笑みを、浮かべながら、言った。
「忘れるはずが、ありません」レオンは、小さく、笑った。「今でも、何度も、思い知らされています」
「まあ、今のお前を、見れば——あの頃の、生意気な、新入生が、ずいぶんと、成長したものだと、思うがな」
ガレスは、改めて、士官学校での、新たな教育方針について、レオンに、相談を持ちかけた。
「これからの、士官学校では、兵站と、外交の両方を、より重視した、教育を、取り入れていきたいと、考えている」ガレスは、言った。「お前の、これまでの、経験を、ぜひ、カリキュラムの、設計に、活かしたい」
「光栄です」レオンは、迷いなく、頷いた。
この日、レオンは、改めて、士官学校時代から、積み重ねてきた、すべての、絆と、経験が、今、こうして、次の世代へと、確かに、受け継がれていこうとしていることを、実感していた。
その夜、レオンは、トーマ、ユリウス、そして、ガレス——久しぶりに集まった、仲間たちと、共に、食事を囲む、機会を持った。
「こうして、また、みんなで、集まれるとはな」トーマが、感慨深げに、言った。
「士官学校での、あの頃から、本当に、遠くまで、来たものだな」ユリウスも、しみじみと、言った。
レオンは、この、かけがえのない仲間たちとの、時間を、改めて、噛み締めていた。士官学校での、学び。南方戦線での、実戦と、絆。帝都での、改革。そして、この、最後の戦争——それらすべての経験の中で、育まれてきた、この、確かな繋がり。
(一人じゃ、ここまで、来られなかった)
レオンは、改めて、そう、実感していた。
帝都の夜は、穏やかに、更けていった。だが、レオンの前には、まだ、帝国全体の、改革という、長く、困難な、道のりが、続いていた。
それでも、この、かけがえのない、仲間たちと共に、歩んでいける——その、確かな、安心感を胸に、レオンは、次なる、課題への、静かな、決意を、新たにしていた。




