第107話 和平への道
東方への、正式な和平使節団の派遣が、決定されたのは、それから間もなくのことだった。
「今回は、以前とは、違う規模の、交渉になる」
ヴェルニエ局長——今や、軍備・外交調整局の、重要な位置を占めるようになっていた——が、レオンとアレクシスに、改めて、方針を示した。
「国境線の、正式な画定、そして、両国間の、恒久的な、対話の枠組み——それらを、具体的に、取り決めることになる」
レオンは、この、重要な交渉に、改めて、同行することになった。
「新たな、リュネス帝国の指導者——ガルベイン将軍の、後を継いだ、人物は、どのような方針を、お持ちなのでしょうか」レオンは、尋ねた。
「それが、興味深いところでな」ヴェルニエは、答えた。「あの、暗殺事件の後、国内の混乱を、収拾するため、むしろ、以前よりも、対話を重視する、穏健な人物が、実権を、握ることになったらしい」
「過激派による、暗殺が、かえって、穏健派の、支持を、強める結果に、なったということですか」
「皮肉な話だがな」ヴェルニエは、苦い笑みを浮かべた。「だが、この国にとっては、幸いな、巡り合わせだったのかもしれない」
数週間後、レオンは、再び、東方の国境を越え、リュネス帝国の、新たな代表団との、交渉の場に、臨むことになった。
「改めて、お目にかかる」
新たな、リュネス帝国側の代表——以前の、暗殺されたガルベイン将軍の、副官を、務めていたという人物だった——が、慎重な、しかし、確かな誠意を込めて、挨拶した。
「此度は、改めて、両国の、未来に向けた、建設的な、対話を、お願いしたい」ヴェルニエが、応じた。
交渉は、これまでの、様々な困難を、乗り越えてきた、確かな、信頼関係の積み重ねの上に、着実に、進められていった。
「国境線については、現状の位置を、基本としつつ——」レオンは、これまでの、地理的な分析を、改めて、提示しながら、説明した。「双方にとって、合理的な、調整が、必要な区間について、個別に、協議を、進めていければと、考えております」
この、具体的かつ、現実的な提案に、リュネス帝国側も、前向きな、反応を、示した。
「哨戒部隊間の、連絡体制——これまで、機能してきた、仕組みを、改めて、正式な、国際的な、取り決めとして、整備することを、提案したい」レオンは、続けた。
「過激派による、妨害を、防ぐための、仕組みも、必要だろうな」リュネス側の代表が、慎重に、付け加えた。
「両国の、穏健な勢力が、協力して、こうした動きを、監視する——以前、構築しかけた、枠組みを、改めて、強化していければと、考えています」
数ヶ月にわたる、丁寧な交渉を経て、ついに、両国間で、正式な、和平条約が、締結されることになった。
「ついに、ここまで、辿り着いたな」
調印式を終えた後、アレクシスが、感慨深げに、レオンに、言った。
「長い、道のりだったな」レオンも、静かに、頷いた。
この和平条約の締結は、帝都にも、大きな、安堵と、歓迎の空気を、もたらすことになった。
「この成果、帝国の歴史に、大きく、刻まれることになるだろう」
皇帝からの、そんな、賛辞の言葉も、レオンのもとに、届けられた。
だが、レオンにとって、この成果は、決して、終わりを、意味するものではなかった。
「この和平を、本当の意味で、確かなものにするには——」レオンは、帝都に戻ってから、改めて、アレクシスに、自分の考えを、伝えた。「帝国内部の、根本的な、改革が、必要だ」
「皇帝陛下も、同じお考えを、示されていたな」アレクシスも、頷いた。
東方との、和平という、大きな成果の先に、レオンたちの前には、帝国そのものの、未来を、形作る、新たな、長い戦いが、待ち構えていた。
軍需産業に関わる、人々の生活。貴族社会の、構造そのもの。そして——これから先、二度と、同じ過ちを、繰り返さないための、制度的な、仕組み。
(これが、本当の意味での、始まりなのかもしれないな)
帝都の空の下、レオンは、これまでの、すべての戦いの、確かな、意味を、改めて、噛み締めながら、次なる、大きな課題へと、視線を、向け始めていた。
最後の戦争は、ようやく、その、長い、幕を、閉じようとしていた。だが、帝国の、本当の意味での、変革への道は、まだ、始まったばかりだった。




