第6話 助けて、貴女たち!
マンションのエントランスを抜け、エレベーターで最上階へ上がる。
自宅のドアを開け、1LDKの部屋へ入った。
寝室へ向かい、身につけていた服をベッドの上へ放り投げる。そのまま浴室へ直行してシャワーを浴び、ゆったりとした部屋着に着替えた。
ようやく人心地がつき、リビングのソファへ腰を下ろす。
コンビニで買ってきたカップ酒の焼酎を開け、ぐいっとひと息にあおって――。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
頭を抱え、叫んだ。
自宅へ帰って緊張が解けた途端、自分のしたことが急に恐ろしくなってきたのだ。
助けてもらった相手を、まともな礼もせずに帰す。
それは魔王としての矜持に反する。
それはそうだ。
間違ってはいない。
だが、いまは魔王として振る舞う時代ではない。
ひとりの社会人として、ひとりの女性として振る舞わなければならない時代なのだ。
そんな現代社会において、先ほどの私の行動は――本当におかしくなかったのだろうか?
そもそも、初対面の男性に自分から連絡先を尋ね、あとでお礼がしたいなどと言うのは……。
「し、尻軽な女だと思われるのでは……?」
いまの社会では、どうなのだろう?
大丈夫なのか?
急に不安になってきた。
「大変なことをしてしまったかもしれない……」
私はスマホから、ぬちゃんねる専用ブラウザ『ライブぬちゃん』を起動した。
そう。
魔王である私、ティアアマティア・アザトス・アヴェルナもまた、ぬちゃんねらーなのである。
ライブぬちゃんの画面に表示されたのは、私が普段からその身を置いている板。
開いたのは、独身女性が集う『女性独身板』――通称、独女板である。
▼0596 Miss.名無し ID:Ma8Qv2Ls
助けて、貴女たち!(´;ω;`)
大変なことをしてしまったかもしれない!
▼0597 Miss.名無し ID:Vp3Ne7Ka
まず何をしたのか書きなさいませ
▼0598 Miss.名無し ID:Ht6Bw1Px
会社でも燃やしましたの?
▼0599 Miss.名無し ID:Qr9Lm4Za
どうせ深夜にラーメンを食べたとか、その程度ですわ
▼0600 Miss.名無し ID:Fs2Yk8Mu
内容によっては通報いたしますので、早く吐くのですわ
▼0601 Miss.名無し ID:Ma8Qv2Ls
帰り道に男の人に助けられて、
お礼をしたいからと連絡先まで交換してしまったの!
これ、間違えてない!?
何かおかしくない!?
▼0602 Miss.名無し ID:Vp3Ne7Ka
>>601
kwsk
▼0603 Miss.名無し ID:Ht6Bw1Px
そんな都合よく助けてくれる男がいるわけないですわ
嘘乙
▼0604 Miss.名無し ID:Qr9Lm4Za
命の恩人なら、お礼くらいするのは当然ですわ
▼0605 Miss.名無し ID:Fs2Yk8Mu
お礼を口実に、男とお近づきになりたいだけではなくて?
▼0606 Miss.名無し ID:Zn5Rc3Ve
顔がよろしかったに一票ですわ
▼0607 Miss.名無し ID:Ht6Bw1Px
助けられた拍子に胸がキュンとしたのでしょう?
薄汚い恋愛脳ですわね
▼0608 Miss.名無し ID:Ma8Qv2Ls
>>602
言葉のままですわ!
しつこく粘着してくる男がずっとついてきて、
無理やりホテルへ連れ込まれそうになりましたの!
そんなとき、その男を吹き飛ばして助けてくださった男性がいましたの!
▼0609 Miss.名無し ID:Zn5Rc3Ve
白馬の王子様かよ
▼0610 Miss.名無し ID:Vp3Ne7Ka
コテハンをつけろ
▼0611 Miss.名無し ID:Fs2Yk8Mu
IDで検索して流れを見るのが面倒ですから、
早くコテハンをつけるのですわ
▼0612 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
こ、これでよろしくて!?
▼0613 Miss.名無し ID:Ht6Bw1Px
なんでそんなコテハンにしましたの!?
▼0614 Miss.名無し ID:Zn5Rc3Ve
王子様を意識してんじゃねーですわよ!
▼0615 Miss.名無し ID:Qr9Lm4Za
助けてくれた男性のお顔はよろしくて?
▼0616 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
前髪で目元が隠れていたので、よく分かりませんでしたわ
スーツも靴もくたびれていましたし、
身なりはあまり整っていませんでしたけれど……
▼0617 Miss.名無し ID:Fs2Yk8Mu
けれど?
▼0618 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
声は、とても優しかったですわ
▼0619 Miss.名無し ID:Zn5Rc3Ve
声に落ちてるじゃねーかですわ
▼0620 Miss.名無し ID:Ht6Bw1Px
もう惚れていらっしゃるのでは?
▼0621 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
違いますわ!
私はただ、純粋に感謝しているだけですの!
▼0622 Miss.名無し ID:Vp3Ne7Ka
それで、連絡先はどちらから尋ねましたの?
▼0623 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
私からですわ
▼0624 Miss.名無し ID:Fs2Yk8Mu
積極的で草ですわ
▼0625 Miss.名無し ID:Zn5Rc3Ve
お礼をしたいと言って交換したなら、
連絡しないほうが失礼ではなくて?
▼0626 Miss.名無し ID:Qr9Lm4Za
普通にお礼のメッセージを送ればよろしいですわ
▼0627 Miss.名無し ID:Ht6Bw1Px
男は女性から連絡が来ただけで勘違いしますわよ
▼0628 Miss.名無し ID:Fs2Yk8Mu
では、どうしろとおっしゃいますの?
▼0629 Miss.名無し ID:Ht6Bw1Px
感謝だけ伝えて、その後は音信不通ですわ
▼0630 Miss.名無し ID:Zn5Rc3Ve
恩知らずすぎて草ですわ
▼0631 Miss.名無し ID:Vp3Ne7Ka
菓子折りでも送ればよろしいのでは?
▼0632 Miss.名無し ID:Qr9Lm4Za
住所を尋ねるほうが怖いですわよ
▼0633 Miss.名無し ID:Fs2Yk8Mu
お食事をご馳走するのが無難ではなくて?
▼0634 Miss.名無し ID:Ht6Bw1Px
二人きりで食事など、完全にデートですわ
▼0635 Miss.名無し ID:Zn5Rc3Ve
命を助けてもらっておいて、
男に勘違いされたくないから何もしないというのも薄情ですわね
▼0636 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
意見がバラバラで、余計に分からなくなりましたわ!
▼0637 Miss.名無し ID:Vp3Ne7Ka
まずはお礼のメッセージだけ送りなさいませ
食事については、その後で考えればよろしいですわ
▼0638 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
もう安価にしますわ!
>>0642の内容をそのまま送りますわ!
▼0639 Miss.名無し ID:Fs2Yk8Mu
命の恩人へ送る文章を安価で決めるんじゃねーですわ!
▼0640 Miss.名無し ID:Ht6Bw1Px
今夜は貴方のことを考えて眠れそうにありません
▼0641 Miss.名無し ID:Zn5Rc3Ve
好きです
結婚してくださいませ
▼0642 Miss.名無し ID:Qr9Lm4Za
先ほどは本当にありがとうございました。
よろしければ、改めてお礼をさせていただけないでしょうか?
▼0643 Miss.名無し ID:Vp3Ne7Ka
まともですわ!
▼0644 Miss.名無し ID:Fs2Yk8Mu
奇跡が起きましたわね
▼0645 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
送りましたわ!
▼0646 Miss.名無し ID:Zn5Rc3Ve
行動が早すぎますわ!
▼0647 Miss.名無し ID:Ht6Bw1Px
もう少し推敲しろですわ!
▼0648 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
既読がつきましたわ!
▼0649 Miss.名無し ID:Vp3Ne7Ka
逐一報告しなくてよろしくてよ
しばらくして、彼から返信が届いた。
『ありがとうございます。ぜひお願いします』
断られなかった。
その事実に安堵すると同時に、今度は何をもってお礼とすればよいのかという、新たな問題が生まれてしまった。
▼0656 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
ぜひお願いします、と返ってきましたわ!
お礼は何にすればよろしいの!?
▼0657 Miss.名無し ID:Zn5Rc3Ve
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
▼0658 Miss.名無し ID:Fs2Yk8Mu
食事ですわ!
食事へ誘うのですわ!
▼0659 Miss.名無し ID:Ht6Bw1Px
だから、それではデートになってしまいますわよ
▼0660 Miss.名無し ID:Qr9Lm4Za
お礼としてご馳走するだけなら問題ありませんわ
深く考えすぎですの
▼0661 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
私は純粋に感謝を伝えたいだけですわ!
▼0662 Miss.名無し ID:Vp3Ne7Ka
でしたら、そう分かるように書けばよろしいのです
▼0663 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
では、もう送りますわ!
▼0664 Miss.名無し ID:Fs2Yk8Mu
待ちなさいませ
まず文面をこちらへ見せるのですわ
▼0665 白馬のお姫様◆M.MaO/LuCi
送りましたわ!
▼0666 Miss.名無し ID:Zn5Rc3Ve
行動が早すぎるって言ってんですわよ!
私が彼へ送ったメッセージは、次のようなものだった。
『それでは、今度のお休みにお食事でもいかがでしょうか?
ぜひ、ご馳走させてください』
送ってから、また不安になってきた。
だが、もう取り消すことはできない。




