第4話 着ていく服がない
伝説の鎧――と、そのまま書き込むと正体を特定されてしまいそうなので、「鋼の鎧では駄目か」とぼかしてスレで尋ねてみた。
結果、毒男たちから総スカンを食らうことになった。
「なんでまだ鎧なんか持っているんだ」
「どうして防御力を上げる方向へ舵を切るんだ」
「そんなところまで勇者ロールしなくていいぞ」
などと、散々な言われようだった。
しかし、本当にすごいことになってしまった。
あの女性と、二人で食事。
考えれば考えるほど、何をどうすればいいのか分からなくなってくる。
とりあえず、着ていく服を決めなければならない。
だが、正直なところ、人前に着ていけそうな服が仕事用のスーツと鎧しかないのだ。
俺はアイテムボックスを開き、中身を確認する。
《かわのよろい》。
《てつのよろい》。
《はがねのよろい》。
《ミスリルメイル》。
《ドラゴンメイル》。
鎧だけは、いくらでも入っている。
冒険で手に入れた装備は、なるべく店へ売らずに貯め込む派だったのだ。
いつ必要になるか分からないし、後になって入手できなくなる可能性もある。持てるだけ持っておいて損はない。
だが、ここにあるものは、すべて戦うための装備だ。
デートで防御力や属性耐性を上げても仕方がない。
必要なのは、かっこよさを上げるための装備である。
「……待てよ」
かっこよさなら、心当たりがある。
《プラチナシリーズ》で全身を固めれば、いけるのではないだろうか。
▼0524 元勇者◆G.Sabe/6rXs
プラチナシリーズで全身を固めればいけるんじゃないか?
▼0525 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
いけるわけねーだろ!
▼0526 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
むしろ、なんで持ってるんだよ
3年前はどんな立場だったんだよお前
▼0527 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
マジで勇者とかwwwww
▼0528 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
あるあ……ねーよwwwwwwww
▼0529 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
勇者が毒男とか夢も何もないわ
▼0530 名無しの毒男 ID:Jx2Qe7Tb
かっこよさコンテストに出るんじゃないんだぞ
▼0531 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
防御力を上げるな
女受けを上げろ
▼0532 元勇者◆G.Sabe/6rXs
かっこよさコンテストでは、これ一式で優勝できたんだぞ?
▼0533 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
そのコンテストの審査基準が間違ってる
▼0534 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
いいから普通の服を買え
▼0535 元勇者◆G.Sabe/6rXs
普通の服って防御力いくつ?
▼0536 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
ゼロだよ
▼0537 元勇者◆G.Sabe/6rXs
防御力ゼロの装備で外に出ろと?
▼0538 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
防御力はいらねぇっていってんだろ!
▼0539 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
服を防具として考えるのをやめろ
なんだよ。
そこまで言わなくてもいいじゃないか。
《プラチナシリーズ》は、かっこよさコンテストで優勝した実績のある装備だぞ。
防御力だけでなく、魅力補正までついている。
これ以上、デートに適した装備があるとは思えないのだが。
▼0540 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
お前一人で選ぶと鎧を買って帰ってきそうだな
▼0541 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
服屋に行って店員に全部選んでもらえ
▼0542 元勇者◆G.Sabe/6rXs
知らない人に話しかけるのは難易度が高い
▼0543 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
営業職だろお前
▼0544 元勇者◆G.Sabe/6rXs
だから営業成績ゼロなんだよ
▼0545 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
悲しい説得力を出すな
◇
その後も、スレでは作戦会議が延々と続いた。
そして現在。
俺は《ニオン》という大型ショッピングモールに来ている。
まずはインフォメーションで館内案内図を確認し、写真を撮ってスレへ貼りつけた。
▼0023 元勇者◆G.Sabe/6rXs
どこに行けばいい?
[案内図URL]
いつの間にか、相談スレは新しいものへ変わっていた。
俺の相談だけでスレを占領しているような気もするが、わざわざ専用スレを立てるほどのことではないだろう。
▼0024 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
2階中央の店
▼0025 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
間違っても防具屋には行くなよ
▼0026 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
店に入ったら店員に
「食事に着ていく服を一式お願いします」
とだけ言え
▼0027 元勇者◆G.Sabe/6rXs
本当にそれだけでいいのか?
▼0028 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
余計なことを言うと鎧を勧められかねない
黙って従え
届いたレスに従い、指定された店へ向かう。
自分で考えなくていい。
とても楽だ。
問題は、店員に話しかけられるかどうかだった。
「いらっしゃいませ。本日は何をお探しでしょうか?」
店へ入るなり、笑顔の店員が近づいてきた。
逃げ出したくなる気持ちを抑え、先ほど教えられた言葉を唱える。
「しょ、食事に着ていく服を……一式、お願いします」
言ってから、本当にこれでよかったのかと不安になる。
しかし、かつて防具屋でも、似たような呪文を使っていたことを思い出した。
『最強装備でお願いします』
なるほど。
確かに、これは信頼できる呪文だ。
属性耐性まで考慮してくれない場合があるのは難点だが、現在の装備より強い品が店に並んでいるか確かめるには便利だった。
新しい街へ到着するたびに唱えていたことを思い出し、つい笑みがこぼれる。
「お食事ですか。かしこまりました」
店員はにこにこと笑いながら、次々に商品を運んできた。
白いシャツ。
濃紺のジャケット。
チャコールグレーのパンツ。
黒い革靴に、シンプルな腕時計。
何度か試着を繰り返した末、服から靴、アクセサリーまで一式が揃った。
そして――月給の三分の一が消し飛んだ。
財布に甚大なダメージである。
髪型についてまで細かな指定を受けたので、忘れないように写真を撮らせてもらった。
これなら自分でも再現できるだろう。
器用さもカンストしているのだ。
◇
そんなわけで自宅へ戻り、さっそくスレを開く。
▼0119 元勇者◆G.Sabe/6rXs
服買ってきた!(/・ω・)/
▼0120 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
いちいち癪に障る顔文字をやめろ
▼0121 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
乙
写真うp
▼0122 元勇者◆G.Sabe/6rXs
特定されちゃうからやだ(〃ノωノ)
▼0123 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
うぜぇwwwww
▼0124 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
だからお前は毒男なんだよ
▼0125 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
本当にうざいなこいつ
▼0126 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
服だけでもうp
▼0127 元勇者◆G.Sabe/6rXs
[画像URL]
▼0128 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
いいじゃん
▼0129 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
悪くない
▼0130 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
これ着こなすの、スタイルよくないと無理じゃね?
▼0131 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
ところで、全部でいくらした?
▼0132 元勇者◆G.Sabe/6rXs
月給の3分の1
▼0133 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
店員に予算を伝えなかったのか?
▼0134 元勇者◆G.Sabe/6rXs
お前らが全部任せろって言ったんだろ!
▼0135 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
営業成績ゼロのくせに客としては上客で草
▼0136 名無しの毒男 ID:Jx2Qe7Tb
服はそれでいい
会話にはマジで気をつけろよ
▼0137 元勇者◆G.Sabe/6rXs
どうして?
▼0138 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
営業成績ゼロだから
▼0139 元勇者◆G.Sabe/6rXs
何回それで殴るんだよ!
▼0140 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
まず自分ばかり喋るな
相手の話を聞け
▼0141 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
相手の話を否定しない
分からないことは素直に聞く
これだけ覚えろ
▼0142 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
服とか髪型を褒めろ
いきなり身体の話はするなよ
▼0143 元勇者◆G.Sabe/6rXs
角を褒めるのは?
▼0144 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
種族的にどう受け取られるか分からないからやめとけ
▼0145 名無しの毒男 ID:Jx2Qe7Tb
レベルやステータスを聞くのも禁止
▼0146 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
鑑定スキルを使うのも禁止
▼0147 元勇者◆G.Sabe/6rXs
勝手に人を鑑定したりしないぞ
▼0148 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
鎧で食事に行こうとしたやつの常識は信用できない
▼0149 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
人間と魔族が戦争していた頃の話も避けろ
政治と戦争の話は事故のもとだ
▼0150 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
困ったら相手に質問しろ
好きな食べ物とか、普段何をしてるとかでいい
▼0151 元勇者◆G.Sabe/6rXs
どうしても困ったら?
▼0152 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
トイレに行って、ここで相談しろ
▼0153 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
食事中くらい掲示板から離れろ
▼0154 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
こいつを一人で戦わせるほうが危険だろ
▼0155 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
緊急時だけだぞ
逐一実況するなよ
毒男たちから送られてきた注意事項を、ひとつずつ頭へ叩き込む。
服も買った。
靴も買った。
髪型の整え方も覚えた。
会話で気をつけるべきことも教わった。
「よし、とりあえずこれで準備は万端だ……困ったら、みんなに頼ろう!」
俺には、みんながついている!




