第3話 たすけておまいら!!!!!
宇宙文明圏が運営する、世界最大の匿名電子掲示板 《NÜ CHANNEL》。
《NÜ》とは宇宙共通語で、「無数の知性が集まり、言葉を交換する共有空間」を意味するらしい。
その発音とサービスロゴが、ひらがなの「ぬ」に似ていることから、こちらではもっぱら「ぬちゃんねる」と呼ばれている。
現代社会では、誰も彼もがぬちゃんねるの利用者――ぬちゃんねらーである。
ぬちゃんねるには、無数の掲示板、通称「板」が存在する。
その数、実に約五十三億。
全宇宙から書き込みが行われているらしいが、この星の通信網からアクセスできる板は100個程度しかない。
俺が開いたのは、そのうちのひとつ――毒男板である。
独身男性や非モテ男性が集う、悲しき場所だ。
俺だって、魔王を倒して凱旋していれば、褒美として姫との縁談くらいはあったはずなのだ。
裏ダンジョンから帰還したら、魔王との戦争どころか宇宙戦争まで終わっていました――では、さすがにあんまりだと思う。
ともかく、いまはスレの仲間たちに助けを求めよう。
新しくスレを立てるほどのことではないので、いつもの相談スレに書き込む。
▼0233 元勇者◆G.Sabe/6rXs
たすけておまいら!!!!!
▼0234 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
また営業失敗したのか
▼0235 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
その話ならもう聞いた
▼0236 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
今度は何を倒したんだ
社会性か?
▼0237 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
世界も自分も救えない元勇者さんこんばんは
▼0238 元勇者◆G.Sabe/6rXs
帰り道に女の子を助けたら連絡先交換しちゃった!
どうすればいい!?
▼0239 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
はい釣り
▼0240 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
ワロスワロス
▼0241 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
女の子 (レッドドラゴン)
▼0242 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
もう少し現実味のある設定にしろ
▼0243 名無しの毒男 ID:Jx2Qe7Tb
元勇者設定だけでも無理があるのに属性を盛るな
▼0244 元勇者◆G.Sabe/6rXs
本当だって!
宇宙人の男に絡まれてた魔族の女の子を助けたんだよ!
▼0245 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
さらに属性を盛ってきた
▼0246 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
元勇者と魔族と宇宙人が出てくる恋愛相談
▼0247 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
情報量が多い
▼0248 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
詐欺かもしれんぞ
▼0249 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
駅前によくいるな
絵を売られるぞ
▼0250 名無しの毒男 ID:Rs4Wc6Hy
え、あれ詐欺だったの!?
昨日買っちゃったよ!?
▼0251 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
>>250
ワロタwwwww
▼0252 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
>>250
うっそだろおまえwwwww
▼0253 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
>>250
アレに引っかかるやついたのかよ
▼0254 元勇者◆G.Sabe/6rXs
無視しないで!
話を聞いて!(´;ω;`)
▼0255 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
顔文字打つ余裕あるのかよ
▼0256 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
そもそも助けたって、どうやったんだよ
▼0257 名無しの毒男 ID:Jx2Qe7Tb
俺たちが宇宙人に勝てるわけないだろ
いい加減にしろ
▼0258 元勇者◆G.Sabe/6rXs
バルーラでびゅーんってやって飛ばしたった
▼0259 名無しの毒男 ID:Mz3Ka7Qf
嘘乙
バルーラとか詠唱長すぎて使えねーから
▼0260 名無しの毒男 ID:Lt8Pe2Vb
俺、元魔法使いだから知ってるけど、バルーラとかレベル40の魔法だからな?
普通の人間はおろか、毒男である俺たちには絶対無理
盛りすぎ
▼0261 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
恋愛相談の前に警察へ相談しろ
くそ……まともに取り合ってくれない!
いや、俺だって、こんな書き込みを見つけたら絶対に同じことを書き込む。
俺たちは同じ穴の貉なのだ。
――ピロン。
そのとき、スマホにメッセージが届いた。
『先ほどは本当にありがとうございました。
よろしければ、改めてお礼をさせていただけないでしょうか?』
「あばばばばっばばばばばばばば」
落ち着け。
まずは、これが現実であることを確認する。
何度読み返しても、文章は消えない。
これだけでは絶対に信じてもらえないだろう。俺は相手の名前などが映らないよう注意しながら、届いたメッセージの本文だけをスクリーンショットにした。
俺がメッセージへ目を奪われている間にも、スレは勝手に進んでいた。
▼0268 元勇者◆G.Sabe/6rXs
連絡きた
お礼したいって
どうしよう手が震えてる
[添付画像を表示]
▼0269 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
▼0270 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
祭りじゃああああああああ!
▼0271 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
落ち着け
まず深呼吸しろ
▼0272 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
レッドドラゴンは素手で倒せるのにメッセージ1通で瀕死になる男
▼0273 元勇者◆G.Sabe/6rXs
なんて返せばいい!?
▼0274 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
ありがとうございます
お礼は現金でお願いします
▼0275 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
お前は黙ってろ
▼0276 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
お気遣いありがとうございます
お気持ちだけいただきます
▼0277 名無しの毒男 ID:Jx2Qe7Tb
それだと完全に断ってるだろ
▼0278 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
普通に
「ありがとうございます。ぜひお願いします」
でいい
▼0279 元勇者◆G.Sabe/6rXs
そんな短くて大丈夫なのか?
▼0280 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
お前に長文を書かせるほうが心配
▼0281 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
営業成績ゼロの文章力を信じろ
▼0282 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
信じられないから短文を勧めてるんだよ
▼0283 元勇者◆G.Sabe/6rXs
送った
▼0284 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
はやい
▼0285 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
こういうときだけ行動力あるな
▼0286 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
返信は?
▼0287 元勇者◆G.Sabe/6rXs
まだ
▼0288 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
送ってからまだ10秒だろ
落ち着け
▼0289 元勇者◆G.Sabe/6rXs
既読ついた
▼0290 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
実況すんなwwwww
再び、スマホが音を立てた。
『それでは、今度のお休みにお食事でもいかがでしょうか?
ぜひ、ご馳走させてください』
俺は何度もメッセージを読み返した。
見間違いではない。
どうやら俺は、あの女性と食事をすることになったらしい。
俺がメッセージを読み返している間にも、スレはさらに流れていた。
▼0297 元勇者◆G.Sabe/6rXs
ご飯に誘われた
▼0298 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
▼0299 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
元勇者の春が始まったああああああ!
▼0300 名無しの毒男 ID:Yw6Pc1Ne
まだお礼の食事だからな
勘違いするなよ
▼0301 名無しの毒男 ID:Bq9Hs4Ld
でも可能性はゼロじゃない
▼0302 元勇者◆G.Sabe/6rXs
どうしよう
王様に謁見に行くより緊張する
▼0303 名無しの毒男 ID:Kp8Lm2Qa
ところで、お前は何を着ていくつもりだ?
▼0304 元勇者◆G.Sabe/6rXs
いつものスーツ
▼0305 名無しの毒男 ID:Vn3Rt7Mx
駄目に決まってるだろ
▼0306 名無しの毒男 ID:Fm5Za8Ku
まず服を買え
俺は、壁際に積まれている伝説の鎧を見つめた。
いつものスーツが駄目なら、こちらはどうだろうか?
ドラゴンの爪を受け止めても破れなかった、信頼できる装備である。
……これでも駄目なのだろうか?




