表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/6

第三話 少しずつ縮まる距離

共同生活には、パターンがあった。


朝食は別々。昼は書庫かそれぞれの部屋。夕食だけ同じ食卓で、ただし会話はほぼない。週に一度、社交的な予定があれば連れ立って出かけ、必要な場面では婚約者として振る舞い、帰宅後は解散する。


リリアナはこれを「悪くない」と思っていた。


前世のブラック企業では、いつも誰かの視線や評価を気にして生きていた。ここでは、シュトラウスはリリアナに何も求めない。感情も、愛情も、機嫌のいい顔も。ただ「そこにいること」だけを求める人間と暮らすのは、思いのほか楽だった。


ただ一つ、気になることがあった。


書庫でのことだ。


リリアナが読んでいると、シュトラウスが時々、何かを言う。「その著者の別の本が三番棚にある」とか、「そこの記述は改訂版で訂正されている」とか。助言とも雑談とも言えない、短い言葉だ。


最初は偶然かと思っていたが、三週間目には、これが彼の中の一種のコミュニケーション様式なのだとわかってきた。


感情を乗せない。必要なことだけ言う。ただし、相手が何を読んでいるかは見ている。


リナの前世の感覚が囁いた。この人は、人に興味がないのではなく、表現の仕方がわからないだけかもしれない。


ある夜、夕食後に書庫に行くと、シュトラウスが珍しくソファに座って本を読んでいた。


リリアナは邪魔しないよう静かに棚へ向かった。


「今日の夜会で何かあったか」と彼が言った。


リリアナは驚いて振り返った。今日の夜会には一緒に行っていない。彼は別の用があって欠席していた。


「フォルスター侯爵夫人に囲まれました」とリリアナは正直に答えた。「閣下との婚約について、根掘り葉掘り聞かれて」


「何と答えた」


「穏やかな方だと申しました」


シュトラウスが、本から目を上げた。


「穏やか」


「嘘ではありません。怒鳴られたことも、責められたことも、一度もないので」


彼はしばらくリリアナを見ていた。それから、視線を本に戻した。


「そうか」


それだけだった。ただ、その夜書庫を出るとき、リリアナは何となく、彼が少しだけ机に向かう姿勢を緩めたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ