3話
魔大狼、討伐済みの第5階層ボス。一角狼よりもさらに一回り大きく、気性は非常に荒い。
討伐されたはずの魔大狼が今、目の前にいる。原則ボスモンスターは復活しないはずだが……
一瞬、何故?と考えてみたが分かるわけもなく、戦って生き抜く方法を考える。
「轍、前へ!」
「おう!」
確かこの魔大狼と戦ったのは初めてのボス討伐の時。あの時は30人程で囲んで倒した。
……今は三人しかいないがな。
轍が鋼化して突っ込んで来るトラック程のサイズはある魔大狼を受け止めようとする。
「……は?」
魔大狼が衝突した瞬間、空中に投げ出される轍。
俺は即座に魔大狼の足元に回り込みルーンナイフで右の前足を切付ける。
プシューッ
切り傷が泡を噴く。
このナイフに刻まれているのは毒属のルーン。少しでもかすれば猛毒が体中に回って即死……するはずなんだが、即死どころか怒り狂って先程よりも顔が怖くなっている。
「二人とも目を閉じて!」
俺は足元を離れてリュックの右ポケットから閃光弾を取り出してピンを抜き、魔大狼の顔めがけて投げる。
目を空けてみると目を閉じて暴れまわっている魔大狼……。
俺は後ろを振り返る。近藤さんが轍に応急処置をしている。衝突した部分から血が流れている。
(肋骨が折れていそうだな……)
あのレベルの怪我を治せるポーションや薬草は持ち合わせていない。早く帰還してちゃんとした手当てを受けないと手遅れになるかもしれないな。
「近藤さん、轍を連れて先に行って下さい!ここは俺が食い止めます。」
「で、でも……」
「戻ったら早めに部隊を呼んできて下さいよ!」
冗談めかして言ってみるが正直部隊が来るまで生きているか分からない。
「……ごめん…ね」
近藤さんは轍の傷を刺激しない様に、それでいて素早くこの場を離れていった。
「……さて、いけるか?」
閃光弾の効果が切れてこちらを睨んでいる魔大狼。
これは流石に能力を使わないと勝てないな。
俺が近藤さん達を先に行かせたのは轍のためでもあるが、自分の能力を知られたくないからでもある。
「加速・2倍」
俺は振りかざされる魔大狼の拳を避ける。
そのまま俺は魔大狼の後ろに回り込み左後ろ足に触れる。
「減速・0.5倍」
魔大狼の動きが鈍くなる。今度は前の方に回り、グレネードを取り出す。
今の魔大狼は先程の速度の約四分の一で動いている様に俺には見える。この速度なら逃げ切ることは容易……。
だが俺は奴の前でピンを抜き、大きく開いた口の中に投げ込む。
3秒後、爆発。
魔大狼の頭は吹き飛び、アイテムがドロップする。
『魔大狼の角』
これで集まった角は先に集めてあった角と合わせて十本。
タスク終了だな……。
魔大狼がそれほど速いモンスターじゃなくて助かった。
俺の能力は速度の操作。触れた物や自分を加速、減速させることができる。今のところ加速の上限は2倍まで、減速の上限は0.5倍まで。ショボいと思うかもしれないが案外使い勝手が良い。
先程言ったように相手に最大の減速、自分に最大の加速をかけることができれば、実質相手との速度の差は4倍分。分かりやすく言うと自転車と歩き程の差がある。さらに言うなら、相手が一回行動をしている内に俺は4回行動できる。
チート、という訳ではないしその他の能力に比べると魅力は落ちる。だが、俺にはこれくらいの能力が会っている。
ちなみに俺の能力はまだ誰も知らない。リベラトルに入る時の能力試験では「ナイフを上手く使う」能力と説明した。
アイテムを回収し、俺が神結晶の元へ歩いていると途中でリベラトルの救援部隊と出会った。
事前に飲んでおいた偽装用の衰弱ポーションの効果でフラフラしていたので、俺はそのまま担架に乗せられて一番ゲートに近い基地・三宿駐屯地にあるリベラトル中央病院に運ばれた。
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リベラトル中央病院にて、
「田中君、田中君!」
「おい轍、起きろ」
近藤さんは田中轍の肩を必死に揺らしながら声をあげる。俺も続けて言ってみるが効果はない。
衰弱ポーションの効果が切れて無事動けるまでなった俺が最初に伝えられたのは轍が生死を彷徨っていたこと。
骨の一部が内蔵に刺さり、死ぬ寸前だったがリベラトル屈指の腕利きヒーラー達が集まるこの病院に運ばれたお陰で傷や内蔵の損傷、骨折はほぼ治った。
だが、轍は起きなかった。いつ起き上がってもおかしくないはずなのに少なくともこの3日間、轍は目を覚ましていない。
もう25歳、れっきとした大人なはずなのにあいつには常に子供らしさが溢れていた。たまに煩わしく思っていたあの大きく元気な声も、聞こえないと中々寂しくなってくる。
近藤さんはずっと俯いている。年長者であり、一番強い。そして何より面倒見の良い近藤さんだ……恐らく自分の事を責めているのだろう。
だが、今回の事態は誰も予知でできなかった。むしろボスモンスター相手に三人で生還できただけ奇跡と言っても過言ではない。




