神は死なないんだよ
神さまが引き起こした事故によって死亡した私たちは、別の世界に転生することになった。
小さな(体格の)女の子になりたいって要望を伝えたのに、一寸法師なみに(サイズの)小さな女の子に転生させられてしまった。
次々と襲いかかって来る虫や小動物を撃退し、苦労の末に手にした打出の小槌は、呪いと引き換えに一時的に願いが叶うという、質の悪いレプリカだった。ぴえん。
神さまへの生贄になりかけていた小梅という少女を助けたが、おじさんにしか見えない神さまに目をつられて、神さまと戦う羽目に。
まったく、こんなの命がいくつあっても足りないよ。絶対に転生やり直してもらうんだから!
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ユイは確信していた。
あれだけ念入りに止めを刺しても、間違いなくあの男は復活してくると。
かなりの数の虫の命を奪ったが、人型生物の命を奪うことにはまだ抵抗がある。
ユイは、ヒロアキに対して生理的に受け入れられないものがあるため、幾分遠慮がないが、それでも全く抵抗がないわけではない。
ではなぜ、あそこまでバラバラにしてしまったのかというと、殺している実感がないのだ。
異世界だからというわけではなく、この男に対してだけ、実感がない。
事実、いくら斬っても、虫を殺した時のように、魂が抜ける様子がなかったため、ついやり過ぎてしまったのだ。
だから、時間はそれほどない。とユイは考えていた。
マサムネを送還し、部屋を出てすぐ真向かいの扉を開けると、同じような座敷牢があり、その中に小梅がいた。
(隣だった。ラッキー)
ユイは拝借したヒロアキの手を使って指紋認証の鍵を開けた。
小梅は牢から出るとユイにしがみついてきた。
「怖かったぁぁ…ありがとう…ございます」
「大丈夫よ」
ユイは小梅を抱きしめた。
前世のあの時になぜこんな風に行動しなかったのかと後悔の念が脳裏に浮かんだが、今するべきことを思い出し、すぐに行動に移した。
「脱出するよ」
廊下に出て改めて建物を観察する。
長い廊下の突き当たりの1番奥に自分たちはいた。
扉はユイがいた部屋と小梅がいた部屋の二つだけだ。
つまりユイたちが向かうのは長い廊下の反対側しかない。
ユイたちは長い廊下を走って、扉を開けた。
そこは円形状の部屋でかなり広かった。
一見するとリビングとダイニングのように見える。
人影はない。
中央に移動して部屋を見渡す。
自分たちが入ってきた扉と同じような扉が一定間で並んでいる。全部で4箇所、丸い部屋なので4方位とい言い方でもいいかもしれない。
1方位だけ扉の意匠が違う。
(あそこが出口か?)
その予想はおそらく正しい、ユイは確信めいたものを感じていた。同時にもう一つの推測もおそらく正しいことも。
(残りの2つの扉の先は、今来た場所と同じく、長い廊下と座敷牢の部屋が2つあって、中に捕らえられた少女がいるのかもしれない)
一瞬迷ったユイだったが、全ての部屋をまわることにした。
ヒロアキの右手を使って、扉を開けてみる。
案の定、同じ構造だった。長い廊下の先に扉が2つあった。
どちらも開けてみたが、誰もいなかった。
円形に部屋に戻り、もう一方の扉を開けてみる。こちらも同じ構造だった。廊下を進んで同じように中をみると、片方は無人だったが、もう片方には小梅より少し年上の少女がいた。
「…誰ですか? ヒロアキさまじゃないですよね?」
少女はユイの気配に反応して聞いてきた。
盲目のようだ。
「私はユイ、ヒロアキに無理矢理ここに連れてこられたの」
「まあ。私は千春です。生贄としてここに来ました」
盲目の少女は愉快そうに笑った。
「ヒロアキをぶっ飛ばしたので、この隙に逃げるんだけど、一緒に行く?」
「まあ、お強いんですね。それでヒロアキさまは生きていらっしゃるのですか?」
「アレは切り刻んでも死なないんだよね。殺し方知ってる?」
少女は更に愉快そうに笑った。
「まあぁ、本当に面白い方ですね。是非一緒に逃げたいのですが、ヒロアキさまが生きているなら、ダメです」
「どうして?」
「私が逃げたら、家族や領民が酷い目に遭わされるので」
「…」
ユイは烈しい怒りを覚えていた。
ヒロアキにも千春の家族にもこの世界にも。
(こんな小さな女の子に…!)
しかしユイには止めの刺し方が思いつかなかった。
どうしようかと思っていると少女が言った。
「私はここに残ります。どうぞ行ってください」
そう言って千春は微笑んだ。
千春の言葉は、ユイに苦い思いをさせた。
どう見てもここから逃げ出して家に帰りたいに違いない。
ヒロアキに止めを刺すことが出来ないユイと、家族と、領民を慮っての言葉であることは間違いなく、あまりに不憫だった。
「わかった」
(必ず迎えに来るから)
言葉には出来なかったが、そう心に誓った。
小梅は千春をハグしていた。
ユイと小梅はダイニングに戻り、1つだけ意匠の違う扉を開けようとしたが、鍵が違ってヒロアキの指では開けられなかった。
残る一つの扉を開けて進んだ。その先は玄関ホールだった。
玄関を開けて外に出る。
ここはいわゆる「離れ」だったようだ。
本邸らしき建物が見える。
2人は敷地の外を目指して移動したが、門を抜けてみて、絶句した。
地面はそこで途切れていた。その先は白い霧があり、その先は青い空だった。
ここは空に浮かぶ雲の上だった。
「神さま半端ない」
「ユイおねぇちゃん…」
「小梅、どうしよう…」
2人は困り果てた。
正直どうしようもない。
ここからは逃げられない。
ユイたちは屋敷に戻ることにした。
転移装置があるかもしれないし、なければヒロアキを脅して言うことを聞いてもらうしかない。
屋敷に迎って歩いていると、おかしな物体が目の前に転移してきた。
宙に浮いていて人の形をしているが、あちこちが欠けている。
左肩がないために左腕は胴体と繋がっていない。
右腕は手首から先がなかった。
両膝から下も無かった。胴体も所々欠けていた。
顔を見るとヒロアキのようだと分かるが。下顎がなかった。
控え目に言って、空飛ぶゾンビというところだった。
空飛ぶゾンビは念話で話しかけてきた。
《生きてたんだ。やっぱり》
《神は死なないんだよ。それより、俺の身体があちこち足りない!どこにやった!》
《神さまなんだったら、自分でどうとでもできるでしょ》
《貴様》
ヒロアキは怒っていたが、焦ってもいた。
ヒロアキの使う回復魔法は、身体の部位が欠損していても整復して治すことができるが、部位が存在していたら、復元しないという特徴がある。
つまり欠けている部分は、近くにはないが、何処かにはあるということだ。
そしてその犯人はユイしかいない。
「まあまあそんなに怒らないで。私たちを地上に返してくれたら、ありかを教えるわ」
「ふざけるな」
「結局、もう一戦やるしかないわけね」
「そういうことだな。ぶちのめして従順にしてやる」
ヒロアキが風の魔法を使って、自分を中心に竜巻を発生させた。そこから風による斬撃を飛ばしてきた。
ユイは風圧に耐えつつ、斬撃を弾いて、考えていた。
(風が強過ぎて、鎖も手裏剣も使えないなぁ。まずいぞこれは)
そんな中、一際大きな斬撃がユイに飛んできた、その時だった。
ユイ視点からは急に風に対抗できなくなり、飛ばされてしまった。
ヒロアキ小梅の視点からは、ユイが急に消えたように見えた。
実際には、ユイの体が1mm未満まで小さくなってしまったのだった。つまり、打出の小槌の効力が切れ、代償を払う時間になったのだった。
(しまったぁぁぁ! 小梅、ごめん! あぁぁぁ、どうしよう!)
ユイは、小梅を1人雲上の屋敷に残して、雲から落ちてしまった。
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