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俺を踏み台にしたっスか?!

神さまが引き起こした事故によって死亡した私たちは、別の世界に転生することになった。

小さな(体格の)女の子になりたいって要望を伝えたのに、一寸法師なみに(サイズの)小さな女の子に転生させられてしまった。

次々と襲いかかって来る虫や小動物を撃退し、苦労の末に手にした打出の小槌は、呪いと引き換えに一時的に願いが叶うという、質の悪いレプリカだった。ぴえん。

神さまへの生贄になりかけていた小梅という少女を助けたが、おじさんにしか見えない神さまに目をつられて、神さまと戦う羽目に。


まったく、こんなの命がいくつあっても足りないよ。絶対に転生やり直してもらうんだから!


ーーーーーーーーーーーーーー


「小梅を助けなきゃ」


などと言っているが、ユイは現在、大空を自由落下中である。

人に心配の前に自分の心配をするべきなのだが、ユイにはさっさと屋敷に戻って小梅をあの変態から守らなきゃという気持ちでいっぱいである。

だが、ハッキリ言って、現状を打開する有効な手がない。


しかし、僅かだが希望はあった。

知っての通り、打出の小槌のレプリカは願いを一定時間だけ叶えてくれるが、その効力が切れると、願いの代償として逆の効果が発生する。

打出の小槌で身体を大きくしていたユイは、その代償として、1ミリ以下まで小さくなっている。体重は0.05g程度である。

ティッシュペーパー1枚が約0.5gであるから、相当に軽い。


この軽さが希望である。

ここまで軽くなると空気抵抗が落下運動に対して文字通り抵抗する。

そんなわけでずいぶん時間が経過しているが、実はあまり高度は落ちていない。


そしてもうひとつの幸運は、小さいということだ。

小さ過ぎて鳥に狙われない。元の大きさ、つまり3センチほどであれば鳥に狙われる公算が高かったが、現在の大きさならその点は安全と言える。


もっとも、自分がまずい状況にあることも、いくつか幸運が起きていることも、まるで頭にないユイにはそんな理屈は関係のないことで、彼女は必死に空中を泳いでいる。

クロールでずいぶん頑張っている。


「進まない!」


叫びながらバタフライに切り替えたが、効果はない。


「じゃあ、『伸し』だ」


ユイは日本泳法の『二重伸し』切り替えた。なんと少し行きたかった方向に寄って行った。


「いけるじゃん!さすが日本泳法!」


ユイは日本泳法を絶賛して、いい気になって天空に浮かぶの屋敷に向かって泳いだ。

実際のところは日本泳法がすごいのではなく、身体を伸ばしている時間が長いことが幸いしているだけである。

手足が伸びている時だけ、行きたい方向の少し下に向かって滑空していた。


ともあれ、ユイは屋敷の真下まで来た。

上昇気流が発生しているが、蚤なみのユイの落下エネルギーと釣り合う程度の弱いもので、なんとか高度が維持されている状態でだった。


鎖を上方に向けて放ったが全く届かなかった。


「うーん…」


上に向かって泳いでみる。

空気抵抗が減って、かえって高度が下がった。

慌てて、手足を広げて横になった。


「抵抗がもう少し大きければ上がれるかも。パラシュートが欲しいよね…そうか! 道着か!」


ユイは道着の上着を脱いで、白いスポーツブラ姿になった。Fカップの乳房がグッと寄せられてより強調された谷間が美しい。

大きく広げた両手で、道着の対角線上にある袖の端と裾の端を持って、道着を広げると、風を受け止めて、ゆっくりとユイを上昇させた。


「やった! 小梅、今行くからね」


じんわり、じんわりと高度を上げていくユイ。性格上焦ったくて仕方ないのだが、じっと待っている。

もう少し上がれば鎖鎌が届くかもしれないというところで、上昇が止まってしまった。

どうするか悩んでいると、脳に声が響いた。


《これはまたどういう状況なんスか?》


転生の神が意識を載せた銀色のカラスがユイの近くを旋回しながら尋ねてきた。


「ちょうどいいところに! あそこまで乗せて行ってよ」


ユイはこれ幸いと頼んだ。


《いやいや、手を貸すわけにはいかないスよ。それはまずいっス》


転生の神は断ったが、警察勤めだったユイからすれば、立場上出来ないという返事は何度も聞いた台詞である。

対して気にも止めず、カラスが旋回で近づくタイミングに合わせて鎖鎌を絡ませた。

素早く鎖を収縮させて背に乗り、抗議を聞き流して十字手裏剣を投げる。

戻ってきた十字手裏剣を躱す為にカラスが高度を上げると、狙いすましたかのように、屋敷の壁に鎖鎌を刺して、屋敷へと飛び移った。


《踏み台にしたっスか?! てか手裏剣危ないっス!》


「あ、ごめんなさい。『偶然』鎖鎌が引っかかってしまって、迷惑かけちゃったね」


《!…》


「あと、慌ててしまって、『誤って』投げてしまった手裏剣が当たらなくてよかった」


《…》


「ごめんね」


銀色のカラスは抗議の言葉を飲み込んで、


《状況は説明してもらっていいスか?》


と絞り出した。


「もちろん、全部話すよ」


ユイは前回別れてからのことを説明しながら、小梅を探した。

ユイの今の身長は、打出の小槌(レプリカ)を使って身体を大きくした反動で、1mにも満たない。

換気口のルーバーの間を屈むこともなく抜けて屋敷に侵入し、壁紙の模様の凹凸を足掛かりに、天井と壁の間を飾り付けいるモールにしがみついた。

モールの模様を足場に少し上ると、モールの溝の中に身体を滑り込ませると、溝の中を走って移動する。


カラスは屋敷の上空を旋回して、ユイと念話している。

一通り話を聞いたカラスは言った。


《そのヒロアキって人は、神なんスかね? 違うような気するっスね。そんな神は私は知らないっス》


(あ、やっぱり、そう思う? 超常的な能力というか権限は持ってるんだろうけど、アイツえらいダメ人間な感じがするんだよね)


《どうする気なんスか?》


(小梅の救出が第一。他はそのあと考えるよ。あんなゲスの好きなようにはさせないから)


ユイという名の蚤みたいな生物は、ヒロアキの屋敷の玄関ホールの天井近くを高速で移動して、鍵付きの扉も隙間をすり抜けて、座敷牢のある方へとどんどん進んでいった。


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