降臨
神さまが引き起こした事故によって死亡した私たちは、別の世界に転生することになった。
小さな(体格の)女の子になりたいって要望を伝えたのに、一寸法師なみに(サイズの)小さな女の子に転生させられてしまった。
次々と襲いかかって来る虫や小動物を撃退し、苦労の末に手にした打出の小槌は、呪いと引き換えに一時的に願いが叶うという、質の悪いレプリカだった。ぴえん。
神さまへの生贄になりかけていた小梅という少女を助けたが、再度降りかかる災厄をキャッチしてしまい、その渦中へ飛び込んで行くことになった。
鬼の里の長アイリスは、倒しても倒しても復活し、その度に若返って強くなっていく。
打出の小槌を使い一時的に普通の大きさになった私は仲間と協力してなんとかアイリスに勝利した。
こんなの命がいくつあっても足りないよ。絶対に転生やり直してもらうんだから!
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アイリスは敗北した。
もし、もう一度回復してもらって、もう一段強くなれたとしても、届かない。
そう自覚してしまった。
存在をなんとなく感じてはいたが、突然姿を現した日本刀使いの少女。彼女とレオナルドのコンビネーションには手も足も出なかった。
またどこに隠れているか分からないが、副官と同レベルの回復術士もいるはずだ。そしてあの虎にようなやたら速くて強い召喚獣。
アイリスはこのパーティー相手に勝機を見出すことが出来なかった。
ユイがレイジの指示を受けて、アイリスに話をする。
「鬼の里は、北の領主から、生贄の回収の依頼を受けたが、生贄はいなかった。これで話を合わてもらうよ。出来る?」
「なるほど、そういうシナリオか。逆らえば殺すか?」
「そう。アイリスは今から人質。副官さんは劉星さんと一緒に神さまに説明してもらうね」
アイリスはレイジたちの考えを理解した。
北の領主一族の頭がおかしいと主張するのは、自分たちと同じだ。違いは生贄にされた少女の扱いだ。
「ちゃんとここまで届けましたよ」か「そんなの初めからいなかった」かの違いだ。ただ神に嘘はばれる。
ユイがレイジから説明を受けて補足した。
「生贄は神に預ける人質の意味もあるけど、領主一族は小梅が死んでもなんとも思わない。だから小梅は生贄じゃない。つまりあそこに生贄はいなかったということ。レオナルドもわかった?」
レオナルドは手を叩いて、合点がいったと意思表示した。
「じゃあ、レオナルドは『そのように』副官さん報告して」
レオナルドは理解するのに少し時間がかかったが、なんとか意図を理解して副官に報告した。
「アレックス、北の領主邸に生贄はいなかっただ」
「報告、確かに受けました」
副官もレイジの意図を理解してこの茶番に乗っかることにした。
「アイリスさま、北の領主邸には生贄はいなかったと報告がありました」
「う、うむ」
レイジは、これでシナリオのアリバイ補強は完了であると考えた。
「じゃあ、劉星さんと副官さん残して、私たちはこの街から撤収しよう」
ユイの言葉に従って、アレックスは鬼代表として東の領主邸へ、アイリスは拘束されてレオナルド一行と共に街の外へ、それぞれ向かった。
神さまがいつ来るのか、そもそも来るのかも分からないが、劉星とアレックスは待つしかない。
圧倒的権力者に対して、おかしなチクリを入れられたのだ。弁明する立場としては黙って待機するしかない。
二人はお互いに顔を見たことがある程度の間柄だったが、劉星は気の進まない仕事をする仲間に酒を勧め、アレックスはそれを喜んで受けた。
トップとしての愚痴と副官としての愚痴が思いの外噛み合って楽しくお酒を飲めたようで、割と気が合う二人だった。
結局この日、この後は何も起きなかった。
翌日は2人とも少し遅めの起床だったが、朝食後は領主部屋過ごしていた。
昼過ぎに、その時は来た。
ソレは驚くほど気楽に空から降りて来た。
バチが当たらない立場からあえて率直に言わせてもらえば、ソレは腹の出た中年のオジサンだった。
しかも、裸足にサンダル履き、紺色のジャージ素材の短パン、サイズのデカい緑色のTシャツ。不精髭に寝癖のついた頭髪と、だらしないどころの話ではない。
まるで、オジサンが起き抜けに、マンションの上の階から1階のコンビニに降りて来たような格好である。
そのオジサンは領主邸の玄関からスタスタと中に進み、迷うこともなく、東の領主の前に来た。
東の領主とアレックスは跪いた。
「お疲れ、北の領主の件で出せって言った生贄がどうしたとか手紙が来てたんだけど、知ってる?」
「は、恐れながら申し上げます」
「そういうのはいいから、端的に」
「はい。承知致しました。先日亡くなった北の領主の息子が、そのような失礼な手紙を書いたことは存じております。領主としての教育を受けていない者が書いた手紙ですので、様々な事柄を自分たちに都合よく捉えた内容かと存じます」
「死んだの? 北の奴」
「はい。事故と聞いております」
「ふーん。後継者の申請も審査してないよなぁ」
「そうでしたか」
「うん。そんで生贄がここにいるって話だけど?」
「その件ですが、北の領主は生贄を用意出来ていなかったと聞いております。今も一族全員揃っておりますし」
「あ? 本当か? …本当みたいだな」
オジサンはアレックスを見て、
「お前、鬼の里の奴だな? 北の領主から回収頼まれたんだろう? 身内を回収ってのも変だがなぁ どうなんだ?」
「はい、実際に北の領主邸まで回収に行った鬼からは『生贄はいなかった』と報告を受けております」
「…嘘は言ってねーなぁ…」
((レイジの読み通りの展開))
2人は感心した。
「生贄用意してねーし、死んだし、後継者いないし…ダメだな。よし、劉、北も面倒見とけ」
「かしこまりました」
領地が倍になったが、表情を変えず頭を下げた。
「じゃ、この件は終わり。劉、女。」
「どうぞこちらへ、奥の部屋で待たせてあります」
オジサンは機嫌よく、奥へ歩いて行った。
少しして振り返り、アレックスに言った。
「おい鬼、北の領主だった奴の一族だが…」
「はい、里の者が全員回収してこちらに向かっております」
「おけ」
オジサンはさっきより更に少し機嫌よく歩いて行った。
2人は冷や汗を拭って、ため息を吐き、少しだけ笑った。
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