鬼を全滅させるよ
神さまが引き起こした事故によって死亡した私たちは、別の世界に転生することになった。
小さな(体格の)女の子になりたいって要望を伝えたのに、一寸法師なみに(サイズの)小さな人間に転生させられてしまった。
次々と襲いかかって来る虫や小動物を撃退し、苦労の末に手にした打出の小槌は、呪いと引き換えに一時的に願いが叶うという、質の悪いレプリカだった。ぴえん。
せっかく助けた小梅という少女に再度降りかかる災厄をキャッチしてしまい、その渦中へ飛び込んで行くユイたち。
絶対に転生やり直してもらうんだから!
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ユイはアイリスの背骨と背骨の隙間を目掛けて、太刀を突き刺して、水平に薙いだ。
アイリスは体に異常を感じ、なんとかしようとするが、うまく制御出来ずに落馬した。
「私はあとから行く。お前たちは先に行け。行って生け贄とレオナルドを確保しろ」
アイリスはそう言って他の鬼馬に進めと命じた。
ユイはその言葉で他の鬼たちが出発した直後にアイリスの喉を斬り、顔を駆け上がって、鼻の穴に向かってマサムネを召喚した。マサムネはアイリスの鼻の穴の中を奥に進み、横穴を掘って脳への侵入を試みる。アイリスの鼻から血が流れ出る。
更にアイリスの右目に刀を突き刺して、ユイはアイリスから離れた。
アイリスの乗っていた馬に鎖鎌を使って飛びついてよじ登り、ユイの懐にいるレイジが言語の守りを使って馬に話しかけた。
「他の馬を追え」
アイリスの馬はレイジの言葉を理解して走り出した。
やがて馬は前を走る集団に追いついた。
その頃、アイリスは半分の視界を失い、声を失い、鼻の奥を正体不明の生物に侵略されている。
背骨の間に入れられた刀のせいで、左半身がうまく動かせない。
(突然なんなんだ? もしかして死ぬのか?)
鼻の奥を掘り進めていたマサムネがトンネル貫通させた。
(!どうやら本当に死ぬらしいな)
アイリスは死期を悟った。
マサムネはひとしきり脳内で暴れてから、送還されていった。
鬼の集団に追いついたユイたちは、最後尾の鬼に乗り移り、アイリスにしたように、刀を背骨の間に刺し込み、横に薙いだ。
まもなく鬼は落馬した。アイリスの時とは違い、落馬したら放置である。
レイジは馬に次の獲物に寄るように指示した。
ユイたちはこれを繰り返し、鬼たちが東の領主邸に着く頃には鬼は2人しか残っていなかった。
生き残った先頭の2人は、自分たち以外いないことに驚愕したが、歯を食いしばって、東の領主邸にいる生贄を拐いに向かった。
しかし当然警備はいる。本来なら数で押し切る予定だったのだが、2人では逆に数で制圧されてしまった。
ユイたちは、その脇を抜けて小梅の部屋に急いだ。
小梅は無事だった。
まだ小梅に何も異変が届いてはいないが、レオナルドはしっかり護衛していた。
「レイジさま! もうお戻りなったのですか?」
「早過ぎだで」
2人はレイジの帰還に驚いた。つい数日前に出ていったばかりだったのだから、当然である。
因みにレイジは先程打出の小槌に副作用が終わって、元の大きさに戻っている。
「お前らが狙われてるんだ」
「狙われてる?」
「そうだ。すぐに領主に会いたい」
「レイジさまがお会いになるんですか?」
「ああ、紹介してくれ。大事な話なんだ」
2人はすぐに行動してくれた。
鬼の侵入者を取り押さえて騒然とする邸内を走って領主の下へ向かった。
領主は警備責任者か報告を受けている所だった。
「劉星さま」
「小梅か、今立て込んでおる。部屋に戻っていなさい」
「その鬼の件でお話しなければならないことがございます」
「「!」」
小梅は今話してる重要な話が鬼の襲来だと知っていて話があることを端的に伝えた。
警備責任者と領主は驚いたが、話を聞くべきだと判断した。
部屋の扉を閉めて、小梅に話を始めるように促した。
小梅はユイとレイジを懐から出して、領主に紹介した。
領主は少し驚いた様子だったが、小人のしかも10歳の外見のレイジの話に真剣に耳を傾けた。
この世界に人々は小人を見ても驚きはするが割と普通に対応する人が多いのだろうか?
レイジは手短にここまでの経緯を説明した。
劉星は何ヶ所か驚く話もあったが、全体の流れを理解をした。
「鬼たちはここを制圧して、小梅を拐うつもりでした。人数が多かったので、ここまでの道中で減らしました。中の領地からの道に一定間隔で鬼が倒れているはずです。落馬させてそのまま放置してます。ご迷惑になるかもしれません」
「制圧されることと比べればはるかにマシです。ありがとうございます」
「まだ鬼の別働隊が来ます。こちらのユイとレオナルドを迎撃に出します」
「しかしそちらのお嬢さんでは…」
警備責任者はもっともな心配をする。
「姉さんは、おいより強いだ」
レオナルドは心配ないとアピールした。
「レオナルド、じゃあ行こうか。手伝ってもらうよ」
「はいですだ」
警備責任者の彼はレオナルドの強さを知っている。
そのレオナルドが自分より強いというのだから、心配はないのかと、レオナルドがユイを肩に乗せて出て行くのを見送った。
少し行った所で、ユイは思い出して、マサムネを召喚して、小梅の護衛につけた。
残った者たちは話を続ける。
「鬼はあの2人が全滅させるとして、神さまが来る可能性があります」
「それですね、問題は」
「全部、北の領主のせいにしちゃいませんか?」
「神さまに嘘は通用しませんよ」
「北の領主は既に死んでます。彼は生贄を用意出来ずに死んだことにしましょう」
「だから、嘘は見破られますよ」
「レオナルドに『生贄はいなかった』と思わせましょう。事実、小梅は生贄の要件を満たしてません。レオナルドにそれを説明すれば、彼はそれを堂々と主張しますよ」
「あ、確かに嘘は言ってないですね。それなら大丈夫ですかもしれませんね。北の領主の一族が何を言おうとも、残った彼らは生贄を用意してませんからね。全部死んだ父親の見栄からついた嘘と、教育の行き届いていない子供たちの暴走ということで押しましょう」
「よかった。よろし…」
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!
方針がまとまりかけた時、屋敷の周りに大きな雄叫びが
鳴り響いた。
オオオオオオオオオオオオオオォォォォォォ!
頭領と副官の別働隊を潰すべく待っていたレオナルドとユイ。
彼らの前に現れたのは、戦闘本能を剥き出しにし、地を揺るがすような雄叫びをあげる、死んだはずのアイリスだった。




