ウィスキー
神さまが引き起こした事故によって死亡した私たちは、別の世界に転生することになった。
小さな(体格の)女の子になりたいって要望を伝えたのに、一寸法師なみに(サイズの)小さな人間に転生させられてしまった。
次々と襲いかかって来る虫や小動物を撃退し、偶然に遭遇した鬼との死闘も制した。
それらの苦労の末に手にした打出の小槌は、呪いと引き換えに一時的に願いが叶うという、質の悪いレプリカだった。
鬼の集団との遭遇戦をなんとか乗り切って、現在、東の地の領主の援助を受けて街に潜伏中。
ユイたちの打出の小槌を探す冒険の旅はまだまだ始まったばかりだ。
イヤイヤイヤ、冒険したくないよ!絶対に転生やり直してもらうんだから!
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小梅とレオナルドを東の領主に託して、ユイたちは西の領地の更に西にあるという国へ向かうことにした。
小梅は、ついて行きたいと言ってレイジを困らせた。
倒れていた小梅を救い、生贄にさせないように鬼と戦ったりもしたが、これからレイジたちがしようとしている旅は、10歳の子がするようなものではない。
小梅とレオナルドがいれば、レイジたちはとても便利ではあるが、小梅のことを考えればここにいた方がいい。
とても大事にされているし、安全だ。
小梅はレイジに懐いていた。一緒に行きたいという気持ちも大きいし、レイジの言うことを聞きたいというのも大きいだろう。
結局、レイジの言う通りにすることにした。
「終わったら会いにくるからいい子にして待ってて」という約束が小梅をなんとか納得させた。
小梅とレオナルドに見送られて街外れまで来ると、1匹のオオカミが待っていた。
よく見ると頭の上にマサムネがいる。
マサムネによると、マサムネの説得により、隣の中の領地の都市まで、載せてくれるらしい。
どんな説得をしたのか。
ユイとレイジはオオカミの背中に乗った。
オオカミは中の地の領地に向かって走り出した。
小梅はオオカミ見えなくなるまで見送って、少し泣いた。
レオナルドが小梅に「またすぐ会えるだ」と慰めた。
実は、打出の小槌について、この数日で少し発見があった。
小さいままのレイジが魔力を帯びた状態で触ったら、レイジにぴったりの大きさになり、更に武器と同じように送還召喚出来るようになった。
現在の所有者はレイジであるかのようなことになっている。アイリスは出来なかったと思われる。
レイジは可能性を感じており、実験も少ししたが、恒久的に大きくなる方法は見いだせていない。
旅を続けながら、継続調査することにした。
この国は東西南北と中央の五つに分けられているが、それぞれの都市間は概ね1日有れば移動が出来る。おそらく国の端から端までの移動でも2日か3日だろうと思われる。
レイジの前世の感覚で言えば、この国全体で都道府県の一つくらいのイメージである。
島なのか大陸なのかにもよるが、まだまだ広い地図があると思って間違いないが、今はとりあえず西だとレイジは考えていた。
そして現在、まずは中の領地に向かっている。
道中、特に何もなく中の領地に入り、夕方には街の近くまで来た。オオカミが街中に入るわけにはいかないし、ここでお別れである。
レイジは打出の小槌を使って、人間と同じ大きさになった。服も一緒に大きくなるのは便利だ。
実験の結果、効果は三時間だと分かっている。
リスクは、願いとは逆の効果が三時間発生する。
今回は、人間と同じ大きさに三時間なった後、1ミリ以下に三時間なる。
よって、三時間の間に用事を済まさなければならない。
レイジが人間大になった用事は情報収集である。
彼らにとって、補給はそんなに大変ではない。クッキー一枚で数日生きていけるし、狩りも調理も出来るからだ。
というわけで情報収集だが、求めているのは秘密ではない。西の領地および更にその西にあるという国の情報だ。一般に知られている情報で十分。
この国の中では、ここ中の領地の都市が1番大きい街で、図書館があるそうなので、まずはそこに行こう。
図書館はわかりやすい場所にあった。
身体検査と持ち物検査はされるそうだが、中で閲覧する分には無料なんだそうだ。
レイジは早速、本を探し始めた。
(まずは地理と歴史あたりか)
言語の守りを借りて来たレイジは文字が読めるので楽しそうだが、文字の読めないユイは3分で退屈し、本に夢中なレイジからこっそり飛び降り、閲覧室の窓から外に抜け出した。
マサムネも途中までついて来たが、繁華街に向かおうとするユイと別れ、街外れの方へ行った。
繁華街向かったユイは、開店準備をしているバーに潜り込んだ。
店では年配のバーテンダーがグラスを磨いていた。
もう1人の若いバーテンダーは氷をアイスピックで削って丸く削っていた。
ユイは、氷を贅沢な使い方をしているということは、冷凍庫があるということか。割と文明は進んでいるみたいだ。などと考えて様子を見ていた。
棚には魅力的な酒が並んでいる。
若いバーテンダーの氷削りは下手くそだった。グラスを磨いている男にダメ出しされている。多分マスターと新人だ。
ユイはその男のたちの前に姿を出し、まだ手付かずの四角い氷を小太刀で削って見せた。
新人は驚いて落ち着かない様子だが、マスターは和かに観ている。
ユイは氷でフェニックスを彫った。
ユイはフィギュア作りを趣味でやっていたので、悪戦苦闘はしたが、それなりに見栄えのする物が出来た。
人間の時間感覚ではかなり速く製作しているように見えた。
マスターは目を細めて喜んだ。
ユイは身振り手振りでウィスキーを要求した。
意図を理解したマスターはショットグラスにウィスキーを入れてユイに差し出した。
ユイは、余った氷でジョッキを作って、自分の身長と同じくらいのショットグラスからウィスキー掬って呑んだ。
マスターに親指を立てて、感謝を伝えた。
マスターも自分のグラスを出して同じウィスキーを注いだ。酒呑み同士何かが通じ合ったらしく、楽しそうにやり始めた。
マスターはグラスを磨きながら、ユイは氷を彫りながら、同じウィスキーを呑んで、完全に意気投合している。
若いバーテンダーが何やらマスターに言っている。
どうやら、もうオープンの時間らしい。
マスターは若いバーテンダーに押されてカウンターの1番奥に移動させられた。
若いバーテンダーはユイも移動させようと捕まえようとしたが、捕まえられなかった。
ユイがおちょくるようなジェスチャーをしたので、本気を出したが捕まえられなかった。
ムキになってフルーツを入れる大きなボウルで捕まえたら、ボウルの横の面を刀で斬り裂かれて脱出されてしまった。
そして一瞬だけ目を離した隙に、自分の目の前まで移動されて、眼球まで数ミリの位置に刀の剣先突きつけられた。
若いバーテンダーは両手を上げて降参した。
ユイは刀を納刀して、バーテンダーの顔を見て、カウンターのみ1番奥を指を指し、首を傾げた。
「そこに行けってこと?」と言われていると理解したバーテンダーは、うんうんと2回頷いた。
ユイはニコっと微笑んでから、走っていった。
カウンターの1番奥は死角が多く、客からはあまり見えないだろう。マスターも嬉しそうだ。
マスターがそんな調子だったので、若いバーテンダーは今日初めてカウンターのメインを担当することになった。




