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降伏の儀式 捧ぐ  作者: kero


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8/12

軌道上での死闘

地球の裏側からの逆襲

「――正面の無人迎撃衛星網、全滅!!

弾道ミサイル残り4 !


敵船、第一防衛線を完全突破し、軌道侵入速度に減速しながら突入してきます!!」


NORAD(北米航空宇宙防衛司令部)のオペレーションルームに、オペレーターの悲痛な叫びが響き渡った。


だが、その絶望の宣告と同時に、地表から核の炎を撒き散らしながらスクランブル発進した日米の宇宙戦艦――『大天使一号艦』および『二号艦』の巨体は、すでに大気圏を強引に突破し、漆黒の地球軌道面へと到達していた。


双頭の迎撃陣形(フォーメーション)


「――大天使一号艦より電脳通信! ロバートソン大佐より全軍へ、最終迎撃陣形『双頭フォーメーション』の開始が発令されました!」


 地球大気圏を突破し、漆黒の宇宙空間――地球軌道面へと躍り出た大天使二号艦のブリッジに、先任将校の如月大尉の張り詰めた声が響いた。


 推進用核爆弾の連続炸裂による地獄のG衝撃を細胞レベルの耐ショック改造で耐え抜いた藤堂艦長は、対Gチェアーにガッチリと固定されたまま、電脳空間に展開された戦術マップを鋭く凝視した。


 今回の作戦において、全体の指揮権を握るのは階級が上である一号艦のロバートソン大佐である。藤堂はその指示に完璧に従い、自らの二号艦を「人類最強の防盾」として機能させる必要があった。


二号艦、回頭終了! 艦尾を敵艦『サクタン』の予測進路へと完全に向けました!


一号艦、所定の相対位置に到達!


大天使一号艦と二号艦は、宇宙空間で物理的に結合しているわけではない。

二隻は【お互いの艦首を、わずか50メートルの距離で真っ直ぐに向け合った状態】で相対していた。


前方に位置する藤堂の二号艦は、敵に対して常にその無敵の艦尾プッシャープレートを真っ正面から向けて立ち塞がる。

当然、二号艦は艦首側の強力な主兵装を使うことはできないが、後方に位置するロバートソン大佐の一号艦は、二号艦の巨体を巨大な盾としながら、自らの艦首側の兵装を完全にフリーな状態で維持できる。


もし敵が側面に回り込もうとすれば、どちらかの艦がスラスターを噴射して側面にスライドし、自由になった艦首側の兵装を叩き込む。

逆に側面から熾烈な攻撃を受ければ、45度の回頭で艦尾プレートを向けて絶対的な防御をとるか、あるいは肉を切らせて骨を断つ攻撃に出るかを、ロバートソン大佐の指揮の元で自由に変形できる――これこそが、日米が導き出した「双頭のゲテ物」による唯一無二の空間機動要塞戦術だった。


『藤堂艦長、よくぞ地獄の発進を耐え抜いてくれた。ここからは私の指揮に従ってもらう』


電脳の奥から、一号艦のロバートソン大佐の、立派な胸装甲を制服の奥で震わせるような力強い声が響く。


『これより地球の影から退避させていた残存の無人迎撃衛星群が、我々の後方へと合流する!観測によれば、 敵の機動性は地上の弾道ミサイル群と先遣隊の自爆によって我々と同等まで落ちている。勝機は十分にあるぞ、迎撃戦を開始する!』


「二号艦、了解! ――武藤、後方迎撃アームを展開しろ! 盾の役割を全うするぞ!」


 藤堂の号令に、武器担当の武藤大尉がチェアーの中で電脳レバーを叩いた。

 二号艦のプッシャープレートの外周から、12基の小口径赤外線レーザー副砲がアームによって展開され、後方(敵側)に向けて一斉にその照準をロックした。


「――敵艦、本隊の光学センサー内に捕捉! ……待て、敵の動きに異常あり!」


如月大尉が、チェアーに固定されたまま電脳通信で鋭く告げた。

ーメインモニターに映し出された敵の二キロの巨体は、先ほどの26機の無人迎撃衛星による決死の自爆特攻、そして大天使が軌道へ上がるタイミングに合わせて地球上から一斉に打ち上げられた【各国の改造大陸間弾道ミサイル(ICBM)による飽和援護射撃】を浴び、満身創痍となっていた。


真空の宇宙空間においては、爆風(大気)が存在しないため、核兵器の威力は地上ほど発揮されない。熱線と放射線を除けば、純粋な【直撃】のみが効果を持つ世界だった。

だが、地球軍が放った数十発の核ミサイルの直接打撃は、敵艦の姿勢制御スラスターの半分を完全に粉砕していた。

指令本部より入電!観測結果の解析により……敵艦、スラスター出力が半減! 機動性が著しく低下している! 我らに勝利の女神が微笑んでるぞ、奮起せよ!


主電脳より解析結果、 我が方の『双頭の大天使』と、ほぼ同等の運動性まで落ち込んでいます!

武藤大尉が火器管制ボードを睨みながら叫んだ。


これにより、戦況のパワーバランスは奇妙な形で均等となった。

機動力と攻撃力は、地球軍(大天使)と異星人(サクタン)でほぼ【同等】。

直線的な加速力においてのみ、未だ敵サクタンの方が【上】という状態だった。


異星の多層防御と、地球のゲテ物

『――警告。敵惑星間宇宙船との距離、有効交戦圏内まで残り百秒。……敵の防御構造に、重大な特性を感知』


NORADの超機械知性(マザーコンピューター)の冷徹な電子音声が、大天使のブリッジの全員の電脳へと流れ込んできた。


『敵船サクタンは、極めて洗練された核パルス推進システムを有しているため、推進時の衝撃が滑らかであり、乗組員が高いGに晒されることがありません。……したがって、彼らの船体はそれに合わせて【機械的な強度が極めて低い(装甲が薄い)】と推算されます。奴らがこれまで我が方の核特攻に耐えられていたのは、純粋に【船体の大きさ】によるものです』


それが、敵フィスプの「構造の真実」だった。

サクタンの外周面は何層もの多層防御構造になっており、一番外側の層には『精製された燃料(水素など)』が、次の層には『航海用の資材』が隙間なく敷き詰められていた。地球軍のミサイルが直撃しても、外側の燃料や資材の層が「肉壁(クッション)」となって爆発を受け止めるため、中央の乗組員居住区やメインエンジンといった重要区画にまで攻撃が届きにくくなっていたのだ。

だが、その多層構造にも致命的な弱点があった。


「――当然だな。兵器の発射機や、姿勢制御用のスラスターは、外側に配置せざるを得ない」

藤堂は電脳の宙図を睨みつけながら、不敵に笑った。

敵は攻撃を受けるごとに、外周の武装が削られ、動きが目に見えて鈍り、攻撃力も確実に減少していく仕様なのだ。


「それに比べて、俺たちのこの『大天使』はどうだ?」

藤堂が言うと、副艦長の美咲がクスクスと不敵に笑った。

(ええ、あなた。私たちのこのゲテ物は、滑らかな推進力なんてお上品なものは最初から考えていませんものね。一秒ごとに地獄の核爆発(どぉ~ん)をまともに受けるために、乗組員は改造人間、船体そのものが【不必要なほどに無骨で頑丈、過剰なほどの機械的強度と助長性(過剰装甲)】に作られているわ。船尾のプッシャープレートにいたっては、核爆発の直撃を何千発も受ける前提の【無敵の防盾】だもの)

 

洗練された薄い装甲の巨大避難船と、毎秒核で殴られるために作られた無骨で頑強極まる日米の鉄の塊。

双方のエンジンの技術力の差が設計思想としての現れた、勿論実用性は敵船のほうが何倍も優れている、ただ残念なことに彼らの船は避難船であり戦闘艦ではなかった。

そして彼らは一歩も引けない事情を抱えて地球軌道面で真っ正面から激突した。



サクタンの焦燥と、機械的強度の真実

その時、地球軌道面に侵入してきた異星人の巨大避難船『サクタン』のブリッジは、絶望的な焦燥感に包まれていた。


――地球人の、あの狂気的な二隻の核パルス宇宙戦艦が、我が方の針路上で交互に艦首を向け合う異様な陣形を展開。


……理解不能です。あのような陣形では、互いの核パルス推進が相殺し合い、艦隊としての加速・追撃が完全に不可能です。彼らは……最初から動く気を捨て、ただの【迎撃要塞】としてそこに立ち塞がっています!


最高指揮官は、モニターに映し出された大天使二号艦の、あの分厚い金属塊である船尾プッシャープレートを見て、激しい後悔の念に駆られていた。

地球人は、自分たちを木星まで全滅させにくるのではなかったのか。

奴らは最初から、地球軌道面から一歩も動く気などなく、ただ近づいてくる自分たちを叩き落とすための「最後の防盾」としてそこにいるのだ。

すべては、あのファーストコンタクトにおける、自分たちの無言の探査機破壊が引き起こした、最悪の誤解の結末だった。

だが、もはやサクタンも止まることはできなかった。すでに燃料を消費し、地球軌道への侵入速度まで大幅に減速してしまっている。

現在の両者のスペックは、奇妙な均衡を見せていた。


サクタンは、地上の各国の弾道ミサイル軍が放った長距離弾道ミサイルの飽和攻撃と、先遣の26機の無人迎撃衛星による壮絶な自爆特攻を受け、数多くの姿勢制御スラスターを破壊されていた。それにより、かつての圧倒的な機動性は半減し、今や大天使と「ほぼ同等」の鈍重な運動性まで落ちぶれていた。


現在の条件は、機動力と攻撃力は日米の戦艦と同等。加速力においてのみ、未だサクタンの側にアドバンテージが残されているという状態だった。

しかし、決定的な違いは、その【防御力】の構造にあった。


地球側の『大天使』は、そもそも核パルスエンジンという狂気のシステムを実用化するために作られた船だ。一秒ごとに背後で核が爆発する衝撃に耐えるため、船体そのものが、構造的に「不必要なほどに頑丈」に、文字通りの金属の塊として超強固に造り込まれていた。


対して、異星人の『サクタン』は、より進んだ技術によって洗練された高度な核パルスエンジンを搭載していた。彼らのエンジンは滑らかな推進力を持ち、乗組員や船体が、地球人のような高いG衝撃に晒されることがない。


それゆえに、サクタンの船体そのものの【機械的な強度】は、大天使に比べれば決定的に「低く、脆弱」だったのだ。彼らがここまで地球軍の凄まじい飽和攻撃に耐えられていたのは、単純に二キロという「船体の圧倒的な大きさ」によるものだった。


サクタンの外周面は、何層もの複合装甲によって覆われていた。

最も外側の層には液体燃料が満たされ、次の層には航海用の資材やブロックが詰め込まれている。地球軍の攻撃が直撃しても、外側の燃料や資材の層がクッションとなって衝撃を吸収するため、船体中枢の重要区画には容易に攻撃が届かない構造になっていた。

だが、それにも限界があった。

兵器の照射ターミナルや、姿勢制御用のスラスターといった精密な外部機器は、どうしても船体の「一番外側」に配置せざるを得ない。そのため、地球軍の無人衛星やミサイルの攻撃を受けるごとに、外側のスラスターや砲座が次々と削り取られ、サクタンは攻撃を受けるたびに動きが鈍り、その圧倒的だった攻撃力も確実に減退していったのだ。


『敵の核パルス戦艦、および後方から接近する残存の無人迎撃衛星群より、電磁誘導砲(レールガン)および赤外線熱線の照射を確認!! ――外周第ニ層に直撃! スラスターがさらに2基、機能停止しました!』


「くっ……! なんという野蛮で、頑強な船だ……!」

サクタンの最高指揮官は、一秒ごとに自らの船の四肢がもぎ取られていくような感覚に、激しい焦燥の声を上げた。


天使の光輪

『藤堂艦長! 敵が左舷側へと回り込もうとしている! 二号艦はそのまま艦尾プレートで奴の熱線を遮蔽しろ! 一号艦、これより側面にスライド、攻撃に移行する!』

電脳回線を通じて、ロバートソン大佐の鋭い戦闘命令が下された。


「二号艦、了解! 副官、姿勢制御全開! プッシャープレートの角度を左15度に固定、一号艦の射線をクリアに保て!」


(了解、艦長。二号艦、スラスター同調。一号艦への障害物遮蔽インデックス、ゼロ。……大佐、いつでもいけますわよ!)


チェアーに固定された美咲が、神速の電脳操作で二号艦の60万トンの巨体をわずかに傾け、サクタンから放たれた強力な熱線照射を、二号艦の無敵の艦尾プッシャープレートで完全に「盾」として受け止めた。


激しい閃光と衝撃波が二号艦を揺らすが、核爆発を至近距離で受け止めるためのプレートは、異星人の熱線すら完全に無効化して弾き返す。


そして、二号艦の巨体の影から、大天使一号艦がスラスターを噴射して滑らかに側面にスライドし、自由になったその巨大な艦首を敵サクタンへと向けた。


『スカリー! 今よ! 一号艦の主砲、およびレールガン、一斉射撃!!』

ロバートソン大佐の叫びと共に、一号艦の艦首中央にある主軸線砲『赤外線レーザー』、そしてその周囲をぐるりと取り囲む8基の『20cmレールガン』が、同時にその咆哮を上げた。


ドゴォォォォォン!!!!!

宇宙空間では直撃の瞬間しか効果のない核兵器とは異なり、質量弾である20cmレールガンの超高速弾頭が、サクタンの外周装甲へと容赦なく突き刺さった。

さらに、一号艦の艦首から放たれたキロトン級の核爆発のエネルギーを磁場で一筋に収束させた主砲――『核指向性エネルギー弾(天使の光輪)』の極大熱線が、サクタンの外周第ニ層を派手に焼き千切り、そこに詰め込まれていた航海用資材を一瞬で宇宙の塵へと変えていく。


『フィスプより、対レーザー減衰弾の射出を確認!!』

如月大尉が叫ぶ。


サクタンの船体から、煙幕のように広がる特殊な「対レーザー減衰粒子」が宇宙空間に散布され、一号艦の赤外線レーザーの威力が急激に拡散・無効化されていく


『レーザー攪乱幕か! ならばミサイルだ! 藤堂艦長、二号艦、艦尾X線レーザーをで対レーザー煙幕ごと吹き飛ばせ!』


「二号艦、了解! ――武藤、推進用核パルス、近距離放射線強化モードへ切り替え!」

大天使のもう一つの狂気的な兵器が、ここに起動した。

二号艦は、船尾のプッシャープレートの直下で、通常の推進用核爆弾の代わりに、強力なγ線やX線を放出する【放射線強化型核爆弾】を至近距離で連続爆発させた。

この爆弾から発生する強烈なX線は、宇宙空間では集束させることができないため、完全な近距離専用の広域散兵器となる。


 ――どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!


 二号艦の艦尾で炸裂した放射線強化核のパルスが、サクタンの散布した対レーザー煙幕ごと、敵の外周装甲を文字通り「広範囲に変色・脆化」させていった。外側に配置されていたサクタンの熱線発射機12機のうち、数機がこの強烈なX線の直撃を受けて電子回路を焼き切られ、沈黙していく。


「……よし! 効いているぞ! 敵艦、さらに速度が低下! 攻撃力も確実に減退している!」

藤堂は、チェアーの中で激しいパルスの衝撃に耐えながら、勝利の確信を電脳の奥で燃え上がらせた。

お互いの艦首を50メートルで向け合い、必要に応じて艦尾プレートを盾にしながら、交互に側面から最大火力を叩き込む、日米の『双頭の天使』。

サクタンの最高指揮官は、自慢の巨大な船体が、第三惑星人の放つ容赦なき質量弾と核パルスの荒々しい暴力によって一層ずつ剥ぎ取られていくその絶望的な光景に、完全に戦慄していた。


『……信じられん。奴らは、自らの惑星の環境を汚染してまで、これほどの怪物を地表から送り出してきたのだ。第三惑星人の防衛の決意は、我々の想像を遥かに超えていた……!』


 地球軌道面という名の冷たい宇宙で、無人の盾(残存衛星網)を後方に従えた大天使一号艦・二号艦の双頭要塞が、地球のすべてのインフラを灰にせんとする異星人の巨艦『サクタン』を、確実に、そして冷酷に追いつめようとしていた。太陽系の存亡をかけた大決戦は、いよいよ、最終局面の攻防へと突入していくのである。



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