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降伏の儀式 捧ぐ  作者: kero


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3/12

戦闘準備

我々乗り組み員は艦の点検整備を整備クールーに任せひたすら、あらゆる条件下でシュミレーションに明け暮れていた。


大天使の艦橋には、実際の宇宙は存在しなかった。

正面スクリーンに映っているのは、すべてシミュレーションだ。

星々も。

敵艦も。

自艦の航跡も。

すべてコンピューターが作り出したものだった。


「仮想敵、正面。距離200キロ 座標0035」

機械知性より敵の位置情報が読み上げられる。

「速度、毎秒十キロで減速中」


大天使1号、前方700キロ減速中


「主砲、照準」

私は即座に命じた。

「まだ撃つな」

スクリーン上の敵艦が、わずかに進路を変えた。

私も艦を動かす。

「右舷三度」

「右舷三度」

「推進器、短噴射」


仮想空間の大天使が、静かに姿勢を変える。


実際には、この艦は地球上の格納施設から一歩も動いていない。


大天使を発進させること自体が、地球にとって大きな代償になるからだ。


この船の推進方式は、通常のロケットとは違う。

巨大な核エネルギーを地球上で発生させ、それを推進力に変える。

つまり――発進そのものが環境にダメージになる。

大天使が飛び立てば、地球の大気と周辺環境に無視できない影響が出る。

だから、この艦は完成してから一度も本当の意味では飛んでいない。

訓練はすべてシミュレーション。

操艦も。

戦闘も。

緊急時の判断も。

すべて、基地地下のシュミレーションブリッジの中で繰り返してきた。

「敵、加速」

「なら、こっちもだ」

「最大加速三十秒」

「加速終了後180度回頭、けっを向けろ」

「X線レーザー撃って」

目潰しだ……

私は笑った。

「左へ四十五度」

「四十五度?」

艦首軸線砲発射準備、何時でも撃て

先任操舵手がこちらを見る。

「大きすぎませんか」

「大きいからいい」

奴の動きは早いぞ!大きく動け!

「45番左舷サイドスラスター……」

その瞬間、隣から冷たい声が飛んできた。

「また無茶をするつもり?」

妻だった。

「……いや」

「今、絶対に無茶をしようとした」

「してない」

「顔に出てる」

私は黙った。

(リミッターカットして最大加速で逆回頭しようとしているのがバレたようだ)

「了解」

艦橋の何人かが小さく笑った。


大天使1号、右舷前方2000キロより引き返してきます、合流予定時間、50分!

(正確さは求められていないので直感的に分かりやすい表現をしている)

分断されたか。

シミュレーション上の大天使は敵艦の側面に対して、艦尾を敵艦に向けながら指向可能な火器を撃ちつつ回頭しようとしていた。

敵艦、天頂方向に移動!

ええい!艦尾、-180度、自動追尾ON

「自動射撃!・オートスペシャルON」

大天使の全火力が後先考えない全力射撃を開始する。


藤堂はこれでもたらないと考えていた、大天使には決定打が足らない、

仕留めるならぶつけるしかないだろうと醒めた頭で考えていた。


命中した!とブリッジクルー全員が思った、敵艦は大天使では不可能な滑らかな動きで躱した。

光が走った。

仮想空間の大天使が消える。


『訓練終了』

艦橋が明るくなる。

星空が消え、白い壁が戻ってきた。

誰も何も言わなかった。

訓練が終われば、現実が戻ってくる。


藤堂は考える。

大天使は、強い。

おそらく地球上に存在するどんな兵器よりも強い。

しかし『フィスプ』に比べれば大人と子供だ。

しかも、この艦の運用には途轍もない代償がある。

この船を本当に宇宙へ送り出すということは、地球自身を傷つけるということだ。

何か使わなくて良い方法はないのか?


だから司令部はわかっているから、大天使を最後まで使いたくなかった。

私たち自身も、それを理解していた。


我々は使われないまま、刃を研ぎ続ける存在で在ればよいと、カッコイイ事を

訓示で述べたら後で、夫婦用船室で美咲(妻)にどうせこの体じゃ潰しが効かないから、この船でずっと遊んでいたいのでしょ!と図星を指めされた。

ヘルメットを脱いだ後にピンクのカツラをセットしている美咲(妻)に、

ムッとしてお前こそいい歳してコスプレして楽しそうだな、今日は「謎の円盤の月面基地の隊員」か?と言っ……気がついたら医務室で寝ていた?医務官からほどほどに……ってなんやねん?


60万トンの石の狸(スタチュー) 

木星軌道上の異星人たちが、地球側の迎撃衛星網の構築に対して底知れない焦燥感と疑心暗鬼に駆られているその頃、地球側では世界の運命を左右するさらなる劇的なチェスピースが動かされていた。 


人類初の核パルス宇宙戦艦『大天使(ミカエル)』二号艦の、真の意味での「起動実験」である。 

地下ドックで完成を迎えた大天使二号艦だったが、なにぶん構造が構造であり、積んでいるエンジンが狂気の「核パルス」だけに、これまで実物を使っての点火試験など、世界の誰も行ったことはなかった。 

すべては地球機械知性群による計算の上の話だ。理論上は可能でも、実戦で計算通りに行くとは限らない。

もしも推進システムが起動しなければ、この巨体はただの、史上最も高価な「石の狸(動かないスタチュー)」に過ぎなくなってしまう。

逆に言えば、推進器さえ問題なく動けば、あとは武器であれ装甲であれ、いくらでも後から調整が効く、その辺は航空機もいっしょか?良いエンジンは七難隠すと言う。

大天使の全命運は、この一瞬の点火テストにかかっていた。 


日本国軍がその発進基地として選んだのは、委任統治領である南洋諸島の無人島だった。

しかし、単に無人島に船を置けば済むという生ぬるい話ではなかった。 

大天使は、直径だけで400メートル、高さも200メートルに達する、総質量60万トンの正真正銘の化け物(ギガント)なのだ。

通常の軟弱な小島であれば、この化け物の巨体をその上に置くだけで、地盤沈下を起こして島自体が文字通り崩壊しかねない。

そのため、日本国軍の工兵部隊は、数年をかけて島の岩盤を極秘裏に超硬質コンクリートと特殊合金フレームで埋め尽くし、まるで新しく頑強な人工島を一つ作り上げるかのような、血の滲むような土木努力を裏で払い続けていた。 


対するアメリカ側は、その広大な国土と恵まれた地形を利用し、ネバダ砂漠のド真ん中に広大な発射基地を設けて一号艦のテストを同時に進めていた。 

起動試験の条件は、国際連盟の秘密協定により「一度きり」と厳格に決められていた。 

推進用の小型核爆弾の爆発回数も、わずか「三回だけ」。 

この極小の時間の中で、核爆発の凄まじい圧力をダイレクトに受け止める船尾プッシャープレートの破損状態、核の自動投入システムの作動タイミング、そして爆発の寸分の狂いもない精密な同期確認など、数千項目に及ぶ物理チェックが同時進行で行われる。 


全世界の、真実を知る最高幹部たちが息を呑んでモニターに注目する中、カウントダウンはゼロを迎えた。 

――どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!! 

地表に掘られた巨大な爆発空間の中で、三発の核が完璧な一秒間隔のパルスとなって炸裂した。 

60万トンの超質量が、地球の重力を力任せにねじ伏せて天空へと約10メートルほど強引に跳ね上がる。 

そしてパルスが停止した瞬間、大天使はそのまま、何の下推力も減速コントロールもない、純然たる【約10メートルからの減速無しの完全自由落下・落落(らくちゃく)】へと移行した。 ズ、ズズズズズズウゥゥゥゥゥン!!!!!!! 地表の人工島全体が激しい局地的大地震を起こしたかのような、凄まじい衝撃波が赤道の海を揺らした。 


だが、耐衝撃仕様として徹底的に強化、補強された藤堂艦長、美佐副艦長をはじめとする乗組員たち、そして大天使の多重衝撃吸収機構の船体は、その殺人的な落下の衝撃を、完璧に耐え抜いてみせたのだ。


「……ふぅ。バイタル正常。船体各部の構造、歪みなし」 対Gチェアーの中で冷や汗を拭った藤堂の耳に、通信経由で大きな歓声が聞こえてきた。 


だが、この瞬間、現場の管制室やモニターの向こうで最も激しくホッとしていたのは、実験の現場海域を数十キロ外から完全に包囲・封鎖する任務を帯びていた、日本帝国海軍機動部隊の艦隊乗り込み「陸戦隊」の兵士たちだったであろう。 

もしも点火のタイミングが狂って地表で核が暴発するか、あるいは落下の衝撃で大天使がその場で爆発を起こすような大事故が起きれば、放射能で最悪の汚染地帯と化した落着地点に、防護服を来て真っ先に向かい、藤堂たちの救難活動をしなければならなかったのは、彼ら現場の兵士たちだったからだ。


「事故なし! 繰り返す、実機テストは完全な成功だ! 各消防艇、全力で大天使へ向かえ!」 指令と共に、待機していた国軍の大型消防艇群が、波を蹴立てて一斉に大天使の巨体へと肉薄していった。

彼らのこれからの任務は、高圧の海水を使って、船体に付着した放射能を徹底的に洗浄・除去することである。


よし、これで第一段階はクリアだ。

……だが、休んでいる暇は無いぞ、ドックの特設司令部で、この大天使プロジェクトの日本側統括責任者を務める『山口(やまぐち)中将』は、手元のスケジュール端末を見ながら、深く重いため息をついた。


「放射能除去が終われば、即座に艦内すべての精密点検だ。

テストが終われば、遂に本格的な実戦用の武器弾薬、および本番用の推進用核爆弾の大量搬入が始まる。

……これらすべての決戦準備を、機械知性体の予測通り、遅くとも『半年以内』に完全に終わらせねばならんのだ」 遅れは人類の敗北を意味する。

山口中将の目の前には、過酷なタイムリミットが刻まれていた。


現時刻、バイコヌール宇宙基地とケネディ宇宙センターでは、大型の木星行き偵察衛星の打ち上げが始まっていた、それらは二機一組で木星の異星人建造物に交信を試みるのが目的であった。

当初、もっと早くにと言う声も多かったが刺激をするべきでないとの声に、妥当性があると主に軍部の声に押される形で、ある程度防衛体制が整った今になった。

迎撃衛星に生産ラインが取られていたのも事実である。


『フィスプ』の焦燥と、AIの冷徹なカルテ 

その頃。 

地球上の人間たちが、自分たちの奇跡的な成功に胸を撫で下ろしていたまさにその瞬間。 

遥か数億キロ彼方の木星軌道上に停泊する、異星人の巨大避難船『サクタン(SAKTAN)』の内部では、地球での大天使の起動実験の核爆発反応を検知したオペレーターたちが、地球人が驚くほどの激しい動揺を示していた。 


それは、言葉を失うほどの激しい「焦り」だった。 

それは、自分たちの平和を脅かされることへの「怒り」だった。 

そして、なぜ静かに立ち去ろうとしている自分たちが、ここまで追い詰められねばならないのかという、深い「悲しみ」であった。


『――第三惑星上で行われたパルス実験のデータを、完全に解析完了』 サクタンのブリッジに、不気味なホログラム光が明滅する。 

指導者たちは、モニターに映る地球の二箇所の核反応を、恐怖の目で見つめていた。

『奴らは……あの第三惑星の先住知的生命体は、原始的ではあるが、間違いなく我らと全く同様の【核パルス推進装置】の実用化に成功した。

あの出力をコントロールできる技術があるならば、実用性のある巨大な宇宙戦艦など、容易に作り上げることができるだろう。

当然、あの野蛮な種族のことだ、機体には大量の破壊兵器(核)を積んでくるに違いない……!』 彼らが導き出した答えは、一つしかなかった。 


第三惑星人は、自分たちを根絶やしにするために、こちらへ向かって【攻めて来る】のだと。

『我らは放浪の避難民だ。もう故郷の星系は無く、このサクタンの中にいる同胞たちが種族の最後の生き残り……我らに「替え」はいないのだ。

ならば、これ以上のリスクを冒すわけにはいかない』 指導者の一人が、苦渋に満ちた声を響かせた。

「……だが、待ってくれ。もしかしたら、我々の燃料(推進剤)の精製がすべて完了し、この太陽系を去る方が先かもしれない。

あるいは、あの核パルス船は、我々と話し合いをするための『使者の船』である可能性は無いのか?」 最後の平和への望みをかけ、指導者は、サクタンの全システムを司る【副官(統合AI)】へと問いかけた。


「副官よ! あの第三惑星で起きた二箇所の核パルスの観測結果から、今後予想される最悪の事態と、敵の意図を述べよ!」 

ブリッジの中央に、機械的で冷徹なAI副官の音声が響き渡る。

『――観測データを提示します。地球上で確認された核パルス反応は、大陸の砂漠、および海洋の島の二箇所。


……現状の第三惑星における各種の軍備増強(迎撃衛星の配備など)の速度を鑑みるに、彼らの目的が純然たる「惑星防衛」だけであれば、すでに軌道上に配備されている数十機の迎撃衛星を維持していれば十分であり、それで事足ります』 AI副官の論理回路は、地球側の事情など一切考慮せず、冷酷な最適解のみを紡ぎ出していく。『彼らにとって、自星の環境や大気圏内に取り返しのつかない多大なる汚染を及ぼすリスクを背負ってまで、巨大な核パルス宇宙船をわざわざ建造・起動する理由は、防衛の域を超えています。

したがって、反応のあったあの二箇所で、我が『サクタン』に直接対抗し、深宇宙へと進軍するための【長距離惑星間宇宙戦艦】の建造を完了させたと推測するのが最も合理的です。

――彼らの建造経験の推移から逆算するに、船体はすでにいつでも発進可能な状態で完成していると推測されます』 ブリッジの異星人たちに、絶望的な戦慄が走った。

やはり、第三惑星人は自分たちを殺しにくる。

AIの冷厳なデータが、彼らの生存本能を最悪の方向へと追い詰めていく。

『我々の燃料(推進剤)の蓄積スピード、および次の数十光年の長期航海に向けたサクタンの物資準備状況をシミュレーションするに、このまま木星に留まって作業を続けるには――ギリギリ、時間が足りません。

第三惑星人の戦艦が木星へ到達する方が早いと推算されます』

「……ならば、どうすればいいのだ!?」『――我が方の安全を確保するための、最も成功率の高いサバイバル戦術として、敵の惑星(第三惑星)への【深宇宙からの長距離飽和爆撃】を推奨します』 AIの非情な提案に、ブリッジがざわついた。

「……爆撃だと? しかし、もしそれを行うなら、ここから近い小惑星帯(アステロイドベルト)から巨大な小惑星を何個も引っ張ってきて、彼らの第三惑星との衝突軌道に乗せなければならない。安全面は確かに高いが、成功率はどうなのだ?第三惑星 人は、すでに母星の軌道面に数十機の迎撃システムを構築している。

さらには、観測通りなら、あの核パルス宇宙戦艦の建造も完了しているのだろう?」 別の指導者が首を振る。


小惑星爆撃は、いずれ第三惑星を滅ぼし成功するにしても、あまりにも時間がかかりすぎる。

時間の経過は、あちらの軍事力を上げるだけであり、我々にとっては決定的に不利になる!

「そうだ! 駄目だ、そんな悠長なことはしていられない!」 サクタンの最高指揮官は、ついにその触手を強く握り締め、自らの種族が生き延びるための、最期の決断を下した。


「副官! 小惑星爆撃の案は却下する! ――我が本船『サクタン』の、発進準備だ! 最短で、この木星軌道から離脱し、第三惑星へ向けて発進可能になる時間はいつだ!?」『――了解。プラントの撤収作業、および本船サクタンのメイン核パルスエンジンの発進準備可能時間は、今より【二ヶ月後】となります』「よし、了解した」 最高指揮官は、全画面に地球のホログラムを大きく映し出させ、悲壮な決意と共に、全軍へと吼えた。

「今より二ヶ月後、我が種族の最後の砦【サクタン】は、木星軌道を出撃する。――目標、第三惑星の敵防衛網、および核パルス宇宙戦艦の完全粉砕。

全同胞よ、生存のために戦闘準備を開始せよ!!」

『――了解。サクタン、第三惑星強襲に向け、戦闘体制へと移行します』 


地球側は「敵が攻めてきた時の最後の最後の保険」として大天使の点火テストを行い。 

異星人側は「地球人が自分たちを滅ぼしにくる前に、先制攻撃で叩き潰す」として本船の発進を決意した。 


誰一人として、相手を侵略し、滅ぼすことなど望んでいなかった。 


ただ、自らの大切な家族を、同胞を、その命を守り抜きたいという、両種族の純粋すぎる生存戦略の歯車は――互いの姿が「遠すぎる」がゆえに、最悪の誤解を抱いたまま、太陽系を灰にする全面戦争の戦火へと、真っ直ぐに突き進んでいくのである。


(続く)

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