この世界について整理しよう、はあるある
これで「黄金と宝石」編はおしまいです。
ルネアがラガスを連れて依頼をこなしている間、私は街の城壁を超えたところにある草原の上を飛んでいた。
依頼はどれも簡単のものだから私がいなくても何とかなるでしょ。
私がこの草原に来たのはこれからの食事を確保するためだ。旅をする以上食事の不安は大きい。ルネアもそこらへんの対策はしているだろうけど、買うにしても金がかかるし魔物の討伐は命懸けだ。ルネアのバカみたいな魔法の威力を見れば大丈夫だろと思わなくもないが、万が一だ。
この前の依頼では薬草を集めていたし、ホーンラビと一緒に集めるとしよう。
草原の上空を旋回して獲物を探す。
ハルピュイアになってからあまりにも視力のいいこの体は、世界を美しく見せている。
一日中跳んでも疲れ知らず、本能で上昇気流を掴み羽ばたくことなく高く飛びあがる。その上猛禽類のような鋭い爪のおかげで、そこらの雑魚そうな魔物は首を蹴り上げるだけで絶命する。
この体に転生してから命のやり取りやら死体やらに忌避感がなくなった。そうでもしないと魔物としては生きていけないから妥当と言えば妥当。
光物に目がなく群れると本能でバカ騒ぎをするのはご愛嬌だ。……それで済むならハルピュイア=害鳥の認識で通ることもないのだが。
物思いに浸っていたらちょうど真下にホーンラビが掛けていく。
一気に降下して上空へかっさらい、足で首の骨を折る。まずは一匹。この草原はどうやらホーンラビがたくさん生息しているので、一度見つければ芋づる式で見つけることができる。
ホーンラビをその辺においてホーンラビを狩りまくる。
数分程度で十五匹捕まえることができた。うーん……まさに乱獲。
これだけあればアイテムボックスにも入りきる量だし、ルネアも喜ぶはず。
初めてルネアにあった時にホーンラビの肉を上げたことでルネアはすっかり肉が好きになったらしい。屋台で串焼きの肉を頬張っている。美少年は健康でなんぼよ。
私のレベルが上がったのでそろそろ大きな獲物を、と言いたいところだが一帯に大きな魔獣がいないのが残念だし、そもそもハルピュイアは群れで大きな獲物を狩る。つまり一匹一匹は雑魚なのだ。悲しい。
シェイオ大森林がそうだったからなのかもしれないが、弱肉強食の世界で油断は禁物。必ず保護者と狩りをしよう!
アイテムボックスにホーンラビをいそいそと詰め込んでいるとウィンドウが表示された。
【アイテムボックスの容量が最大です】
「ピィ……」
容量いっぱいかぁ……。何持ってきてたんだっけ。
ルネアが魔法の練習をしているときに整理したけど中途半端に終わったんだよね。夕方になるまで時間があるし、いらないものはここで捨てていこう。
【アイテムボックスの中身を表示する】
YES・NO
「(YES)」
【アイテムボックス一覧】
・ホーンラビ×15
・ライトディア×2
・アルプ×6
・ヨルモの若葉×29
・コリスの花×31
・枯れた花・草×5
・麻袋(穴あき)
・魔物の骨×60
・金のネックレス×6
・宝石付きの指輪×8
・サファイア(極小粒)×2
・ルビー(極小粒)×2
・ダイアモンド(極小粒)×4
・レッドダイアモンド(極小粒)×2
・アメシスト(極小粒)×4
・パパラチアサファイア(極小粒)
・デマントイドガーネット(極小粒)
・カイヤナイト(極小粒)
・ミスリルの原石×120
・砂金×250
・金貨×8
・銀貨×5
・銅貨×3
・ファルロテ大陸の地図(魔法地図)
・ファルロテ大陸の地図(普通)×3
・「魔物図鑑」
・「ファルロテ大陸魔物生息域」
・「シェイオ大森林の外縁について」
・「ファルロテ神話」
・「基本魔法の本」
・「馬鹿でもわかる魔力の使い方」
・「悪魔の召喚事例による惨劇と結果についての検討」
・「ゴエティア」
……。こんなたくさん持ってたっけ??
本は私が持ちだしたから大体わかる。薬草とか魔物も同じ。骨は多分食べきったやつを入れたんだと思う。
枯れた草花も捨ててもいいかな?うん。捨てよう。
というか宝石類とかこんなに持ってたっけ。
表示されたウィンドウを眺めて考えることしばらく。
「……ピ」
そうだ。大森林から巣立つときに仲間から餞別でもらったんだ。そうだった。
ネックレスとか指輪は分かるが、聞いたことのない宝石の名前もある。パパラチアってなんだ。デマントイドガーネットってなんだ。ガーネットの一種か?カイヤナイト……は聞いたことがある気がする。
金貨を始めとする硬貨もそこらへんでもらったり拾ったりしたのは覚えてる。
ミスリルの原石はこの世界に転生してアイテムボックスが使えることに興奮して、拾って入れた。
砂金は……マジで覚えてない。多分拾った。
そりゃ容量いっぱいになるわ。
とりあえず骨と枯れた草花は捨てるとして、本はどうしよう。ハルピュイアの襲撃で持ち出した奴はこっそり返したし、後はルッタ王国の図書館から持ってきたものだから返却もくそもない。
穴の開いた麻袋は、独り立ちして草原に降りた時、なぜか木に引っかかてったのを拝借したやつだ。穴が開いてるけどその中に潜り込むと落ち着ける。塞げば再利用できるかな?ってところだ。
硬貨はもちろんだが、宝石やネックレスは売れば資金になる。もしルネアがお金に困ってたらあげるとしよう。
・・・・・
骨が密集していたら不自然なので空を飛びながらまばらに落とし、枯れた草花も捨てればそれなりに容量が開いた。
そこそこ大きな木の枝に降り立ち、アイテムボックスの中に入れていたホーンラビを丸呑みし、宝石を眺める。翼のかぎ爪で傷つけないように慎重につまんで日の光にかざす。
丸くカットされた薄いピンク色の宝石。さながら蓮の花のようだ。
「……『鑑定』」
何の気もなしに宝石を鑑定してみた。
【パパラチアサファイア】
極めて高品質。
算出・ドロップするダンジョンや鉱山が極めて限定的で希少価値が高い。
極小粒であっても金貨十枚はくだらない。
希少宝石ってことかな。この美しさならよく分かる。
そういえば金貨とか銀貨の価値ってどのくらいだろ。魔物として生活しているうちは意識してなかったけど、ルネアと過ごすならある程度把握していた方がいいよね。
パパラチアサファイアをアイテムボックスに戻して金貨を取り出す。
「『鑑定』」
【金貨】
ファルロテ大陸で流通する金貨。
銀貨十枚分の価値、銅貨百枚の価値がある。
また金貨百枚で大金貨一枚の価値になる。
ふむふむ。
次に銀貨を取り出し鑑定をする。
【銀貨】
ファルロテ大陸で流通する銀貨
銅貨十枚の価値、鉄貨百枚の価値がある。
また、銀貨十枚で金貨一枚の価値がある。
なるほど。最後に銅貨を取り出す。
【銅貨】
ファルロテ大陸で流通する銅貨。
鉄貨十枚の価値の価値がある。
また、銅貨十枚で銀貨一枚の価値がある。
この感じだと、
金貨一枚=一万円
銀貨一枚=千円
銅貨一枚=百円
鉄貨一枚=十円
ってところだろう。
街の屋台では銅貨単位だったから、物価自体は安いのかもしれない。
まぁ中世ヨーロッパみたいな世界だから収支の単位自体大きくないのだろう。
答え合わせをしようにもルネアに聞いても仕方ないし、周りの反応を見るしかないか。
時間もいい頃だし、冒険者ギルドに戻るとしよう。
翼を広げて飛び立つ。羽の音が空に響く。
そういえば、ハルピュイアって大人になると羽音がしないことを思い出した。私もまだまだ子供ってことか。
・・・・・
「ノレイア、お帰り」
「ギャ」
「遠くまで行ってたのか?」
冒険者ギルドに戻ったら食堂でルネアとラガスがご飯を食べていた。
冒険者ギルドの食堂は大賑わいだ。依頼に出ていた冒険者たちが戻ってきて報酬を受け取った後流れるようにここで食事をとっているようだ。
ルネアと一緒にいるおかげか、私単体で冒険者ギルドに居座ってもなじみの人は特に驚かなくなった。面白半分でちょっかいをかける冒険者はいるものの、特に問題は起こってない。
「明日、この街を出て西に向かおうと思うんだ」
ルネアが追加で注文した料理を私の目の前に置いた後、静かに告げた。器から顔を上げた私の口元を拭きとる。
「ここでやることはもう無いし、冒険者しなくっちゃもったいないよ」
「そうだぞー。何のための冒険者だってんだ」
「西側にあるメイザーラに行こうと思って」
「魔法学院?を中心にした自治領だっけ?」
「そうそう」
何言ってるのかさっぱりだが、明日ここを旅立つというのは分かった。別に私はルネアについていくだけだから好きにしたらいい。
シチューの皿を綺麗に舐めとってルネアを見上げる。
「ギャ」
どこまでもついていくよ。
・・・・・
翌日。
私が草原でのんびりしている間に二人はすっかり仲が良くなったらしい。
ファーストコンタクトでの喧嘩はいったい何だったのか。
「ギルドマスターの話にでは西に向かうと……えっと」
「アルテナ、だな」
「アルテナに着く。でそこからさらに西に行けば、ネピック山脈、でそれを超えて初めて隣の国につくわけだ」
「道中街道は整備されているが、山脈越えは危険が伴うからなぁ……この国を境にして東西で文化圏が分かれるのも納得だ」
早朝にハルバスの街から旅立った二人。ギルドマスターから西に行けば何があるかを聞いていたらしい。
私が持っている地図を渡せば話し込み始めた。
東側の街であるハルバスが国の中心地として栄えているビトリック王国だが、西側は山脈がある影響で街道が整備されていてもなお過酷な道のりらしい。
西に向かえば向かうほど田舎に近くなっていくそうだ。栄えている街もあるものの、ハルバスほどのものは少ないらしい。
「ハルピュイアがアイテムボックス持ちだと思わなかったぜ」
「特殊個体だからかも」
「へー」
ラガスが地図を見ながら声を上げた。
誰もいない街道を歩きながら二人は話し合っている。
「で、だ」
「なに?」
「アルテナはダンジョンがあるダンジョン都市だ」
「ギルマスも言ってたな」
ギルドマスターはルネアとラガスがこの街を旅立つと聞いた途端、「やっと解放された!!!」と両手を上げて喜んでいた。さもありなん。良くも悪くも目をかけられていたから、アルテナの情報も教えてくれたらしい。
ラガスも持ち前の社交性でほかの冒険者からアルテナの情報をもらってきたらしい。
「アルテナのダンジョンは『ホースダンジョン』として有名なんだと」
「ホースダンジョン?」
「あぁ。その名の通りホースに関する魔物やドロップ品が多いんだと。だから山脈越えの後とかその前にアルテナで装備を整えたり荷を引く馬を新しくするんだってさ」
「別に馬はいらなくない? ラガスは走れるんだし、絨毯もある」
「まぁまぁ聞けって。そのダンジョンの最下層のボスは『ブラッドホース』と呼ばれる軍馬として有名な馬なんだが、それをギルドに卸せば金貨五百枚はくだらないらしい」
「金貨五百枚!?」
「破格過ぎるよな」
金貨五百枚、五百万円ってところかな。
「ダンジョンボスがドロップ品になるってことってあり得るのか?」
「まぁ、あり得るからアルテナは発展したんだろうな」
「ダンジョンを踏破したとしたら……」
「ランクは確実に上がるな。俺らはいま最底辺のランクだ。何なら喧嘩したせいで貯めたポイント全部パァになってる」
「魔物の討伐依頼をこなせるようになった大きい収入が見込める。道中の魔物を討伐しながら金も稼げるようになるからランクはさっさと上げた方がいい」
「そういうことだ。別に急ぎでもないし、ゆっくり行こうぜ」
「あぁ」
のんびりと街道を歩くルネアとラガスはすっかり仲良しだ。隣でちょこちょこ歩く私は少し疲れた。
「あ、ごめん。空飛びたいよね」
そう言ってルネアは皮の長手袋をつけた腕を差し出す。それに乗れば勢いをつけて私を放り投げるようにして腕を振る。
上昇気流に乗れば二人の姿はどんどん小さくなる。二人の向かう道が遠くまで見える。
「ギャァァァァァ……」
相変わらずハルピュイアの鳴き声は汚い。
・アイテムボックス
倉庫型とイベントリ型のアイテムボックスでは性能が異なる。
倉庫型は容量制限があり、持ち主の魔力量で容量が増える。イベントリ型も同様だが収容力が異なる。物体として扱うかデータとして扱うかの違いみたいな。説明が難しい。
ラガスは倉庫型、ルネアはイベントリ型のアイテムボックス持ち。今のところラガスの方が物がたくさん入る。
・ノレイアのアイテムボックス
レベルを上げたらイベントリ型になる。ゴミと価値のあるものが混在している。
宝石類の財宝は群れの仲間からもらった。換金すればしばらくは安泰。
持ち物の中で一番の激ヤバは「ゴエティア」。
・お金の話
両親、子供二人の家庭であれば金貨一枚で一か月は過ごせる、というイメージ。
冒険者は危険が伴う仕事なので金貨はそれなりに見ることができる。
大金貨は貴族が扱うようなレベル。値段が高いだけなので高額の報酬の支払いで普通に使われる。




