片づけは楽な方がいい、はあるある
短いです。
ギルドマスターに救援要請を出して事態を収めてもらおうとしたら、想定以上に大事になっていた。
ルネアも獣人さんも完全に頭に血が昇って周りが見えていない。獣人さんに至っては瞳孔がガン開きになっていてちょっと怖かった。
猫の瞳孔ガン開きは可愛くても、デカくて威圧感のある獣人さんじゃあ可愛さは感じない。
職員さんの報告で完全に大事だと察知したギルドマスターの指示によって、爽やかイケメンの冒険者さんたちの手で、事態は終焉を迎えた。
ルネアとラガスが喧嘩が沈静化されて数分後。
私はルネアと獣人さんの頭のところに座り込んでいる。ハルピュイアだから傍目からは鳥が座り込んでいるようにしか見えない。人面だけどな。
意識の戻らない二人は、物が散らかるギルドの床に転がされている。
拘束魔法によって身じろぎはできても、大きな動きはできない……らしい。
魔法使いのニコラさん?ちゃん?はいかにもなコテコテ魔法使いルックスで素晴らしい。さながら二次元の魔女っ子。黒い三角帽子が似合っている。魔法の実力も素晴らしい。ステータスを見させてもらったけどまだ15歳なんだね。魔力特化でルネアと同じタイプ。
リオンさんも二次元ばりのイケメン。ジャ◯ーズ入り間違いなし。王道な剣士の冒険者って感じが抜け感を感じる。こっちもステータスを見させてもらったけど「剣聖」なるスキルがあった。マジで気になったからもっと見てみようと思ったけど、目があったので気まずくなった。多分私が「鑑定」と「ステータス」があるのに気づいているかも。視線を感じたから見たって感じじゃ無い。
ハルピュイアの本能が「これ以上踏み込むな」と警告を出した。
とにかく。散乱した物の中心に転がされる二人はなんとも滑稽な姿だった。
改めて見るとルネアとの身長差がエグい。獣人さんはイエネコの要素が強いのか線が細いけど足が大きい。ライオンみたい。まじまじ見てると猫をベースにしたいろんな猫科の要素があるように感じる。
乱闘騒ぎを全部見たわけでは無いが、接近戦挑まれたら勝ち目なさそう。
リオンさんとニコラさんほか『アストラ』の人たち(ギルドマスターがそう言っていた)が二人の目が覚めるのをお茶を飲んでのんびり待っている。いや落差。
盗賊っぽいお姉さんーザビーネさんーが(いやいやだけど)ハルピュイアの私にも干し肉をくれたので悪い人ではないと思う。二コラさんに至っては私の体を触ってモフモフしたり翼の可動域とか見てる。痛くしなければなんでもいいから特に抵抗はしてない。ルネアにもよくやられるしね。
モフモフされながら待つことしばらく。
「う……んん」
「あ、起きた」
「痛ってぇ~~~」
二人同時に目を覚ました。
無理やり昏倒させられていたせいか周囲の状況がよくわかっていいない。
同時に目を覚ました二人は体が魔法で拘束されているのが分かると、無理に起き上がることなくそのまま床に寝ころんでいた。
「ずいぶん派手にやったみたいだね」
「……ごめんなさい」
「……」
リオンさんの一言で状況が分かったらしい。ルネアはボソッと誤ったけど獣人さんはふてくされてる。
「自覚があるみたいだから良かったよ。それで今回の騒ぎのペナルティは……」
「リーダー! ペナルティが書かれた紙、持ってきたぞ」
「ちょうどよかった。ありがとう。この紙に書いてある」
鎧に大きな盾を持ったイケオジ・ジャビさんがギルドマスターから預かってきたであろう紙を持ってきた。
それを寝転ぶ二人の前に見せる。
私ものぞき込んでみると、
ペナルティ
・ランク「G」に降格。同時にこれまでのポイントも無効化
・喧嘩で破壊したギルドの修理費を報酬から天引き
・同じくギルドの片付け
・オークの集落を五つ討伐(詳しくは別紙参照)
・この報酬の全てを『アストラ』に払うこと
ということだ。微妙すぎない?
オークの集落の危険度はよくわからないから置いておいて、それ以外がすんごい微妙。
獣人さんはともかく、ルネアはしょっちゅう喧嘩してるせいでポイントをゼロにしちゃうし、片付けも魔法でやっちゃうから意味ないと思う。
「オークの集落ってどれぐらいの大きさなんですか」
「討伐依頼はしたことがない感じだね」
「そもそも受けられるようなランクじゃないので」
ルネアの言葉にリオンさんが答える。
「てか、掃除もやんの? 俺掃除したことないんだけど」
「噓でしょ」
獣人さんの衝撃発言。見た感じなんで冒険者してるの?ってぐらいに金のアクセサリーをつけてるから、貴族の出なのかも。ザビーネさん驚愕。私も驚愕。
それを考えると「掃除したことない」は自然。
「ボンボンが……」
「おいてめぇ今の言葉もう一回言ってみろ」
「いくらでも言ってやるよお貴族様よぉ!」
「やめなさい二人とも!」
ほんと元気だなこいつら。
ルネアの忌々し気な「ボンボン」発言に獣人さんが速攻で噛みついた。
ルネアもそれですぐに煽り返す。また喧嘩しそうな勢い。マジでやめろ。
リオンさんの制止と拘束魔法がなかったらまた殴り合いの喧嘩が始まるところだった。
「……それでなんだが、パーティー『アストラ』が君たちがちゃんとペナルティをこなすか監視することになったんだ」
「暇なんか」
「黙らっしゃい」
「もともと僕たちがこの街に来たのは、オークの集落が複数存在するのを確認したからなんだ。その討伐も兼ねてね。要するにこのペナルティは僕たちの請け負う予定だった依頼を代わりに受けてもらう、というわけだ。」
「できれば急きだとありがたいだけどねぇ……ギルドの片付けもしなくちゃならない」
もともとこのパーティーはオークの集落の殲滅のために来ていたのか。ギルドマスターのはなしでS級と言っていたから、オークの集落はそれぐらい強敵なのか。
なるほどね、と思っているとザビーネさんの言葉にルネアが反応した。
「早く終わればペナルティも早く終わるなら、早く済ませる」
「そう言ったって準備はあるのかい? 丸腰じゃないか」
「準備も何も、着の身着のままやっているので」
「俺も宿にある荷物取りに行ったら、すぐに行けるぜ」
「じゃあまずは片付けだな! アタシらも少しは手伝うよ」
「拘束魔法、解除するわよ」
「結構です」
そう言って後ろ手に組まれた腕を動かす。
「もう自分で解除したので」
そう言って立ち上がる。
すでに拘束魔法を解除していたらしい。
ニコラさんは呆然としている。
「あっ! ずりぃ! 俺も!」
そう言って獣人さんも立ち上がる。
ニコラさん、顎が外れそうですよ。
てか、魔法の無力化ってそんなホイホイできるもんなの?
そういうのって大抵高レベルな魔法の扱いでは?
拘束魔法をいとも簡単に外して立ち上がる二人は、なんだかんだ言いながらも壊れた椅子や机を観察し始めた。
意識を取り戻したニコラさんが声を上げる。
「ちょ、ちょっと待って! なんで! 完全に魔法は効いていたはずなのに!」
「俺は魔道具があるからな! 意識があるうちは俺の魔力を吸収して動くんだ」
「普通に解除の魔法を使いました」
「信じられない!!!」
「二コラ落ち着け」
「落ち着けるかぁ!!」
鎧を付けたイケオジなジャビさんになだめられているが、完全に発狂状態だ。やっぱり高位の魔法とかの扱いなんですね。
そんな二人をほったらかしにして壊れたものを観察し終えたルネアは杖を出した。
「とにかく、まずは片づけですねぇ」
「掃除の戦力として期待すんなよ」
「そもそも換算してないんで」
獣人さんの言葉をバッサリと切り捨てたルネアは、木の杖を壊れた備品類に向ける。
その挙動に誰しもが身構えたが、気にも留めずにルネアがただ一言。
「『あるべき場所に、あるべき姿に』」
その言葉とともに杖から柔らかい光あふれ出る。
その光が壊れた品々に当たると、物が意志を持ったかのように動き始める。
足が折れた椅子は折れた部分が再生し、割れた机はもとの形にくっつく。
粉々に砕けた陶器の入れ物も破片が集まり一寸の狂いもなく、ヒビもなく元通りに治る。
二階の手すりも時間が巻き戻されるかのように修理されていく。
へこんだ床もメキメキと音を立てて埋まっていく。
それだけではない。
ルネアが杖を軽く一振りすれば、散乱してどこにあったのかすら見当もつかないそれらがふわりと浮いて元の場所へと戻る。
汚れて破れたテーブルクロスもそれぞれの机に優雅に落ちる。飛び散らせたカトラリーも汚れを知らない磨き上げた状態でテーブルクロスの上に並ぶ。
最後の仕上げといわんばかりに、ルネアと獣人さんが巻きあげた埃や砂塵は空中で一つにまとまり、キラキラとした光の粒になって消えていった。
誰しもがあっけに取られる。数分も経たずにギルドが元通りになってしまったのだ。無理もない。
私も声が出ない。
本当の「魔法」だ。
「掃除終わり」
そう言って杖を下し、リオンさんに駆け寄る。
「じゃあ、オークの集落、行きますか」
「え、あぁ……そうだね……」
完全にリオンさんは呆けていた。
獣人さんは目がキラキラしていた。
・『あるべき場所に、あるべき姿に』
お片付けの魔法。ショボいが一応これでも古代魔法の一種。お掃除の魔法はまた別にある。
お片付け……というよりも、物の中にある記憶に作用し直前まであった場所や状態に狂いもなく戻る、な魔法。なので壊れた物も治る。「物の記憶」という存在しないものを扱うので古代魔法。
イメージとしては「眠れる森○美女」のお掃除シーンとかドレスを作るシーンとかが分かりやすい。物が動いて自ら片付けに行ってくれる。
古代魔法ってこういうショボいものからヤバいものまでピンキリだったりする。




