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地雷を踏んでも

差別の話が出てきます。

ルネアは身分が低すぎて世間を知らず、ラガスは身分が高すぎて世間を知らないです。


「いきなり殴ってくるとか。礼儀のお勉強したことねぇワケ?」

「生憎、出自は卑しいので」



殴られたことに半ば本能的に蹴り飛ばしたラガスは、椅子や机を巻き込んで倒れるルネアに挑発をした。

ルネア自身はさも当然のように返す。そこに挑発されたことによる怒りも焦りもなく、事実を述べただけの平坦な声だ。



「礼儀を学んでいるなら、『人の話は聞きましょう』という言葉は聞いたことがあるのでは?」

「あの話、聞いていやがったのか」



吐き捨てるかのように溢す。

あのクソエルフ、「リオン」との会話が聞こえていたのか。



「エルフなんで。耳はいいですよ」

「そうかそうか……だったら話しかけてくれよなぁ。淋しいじゃんか」

「なぜ声をかける必要が」

「……??? そういうもんだろ?」

「めんどくせぇ男だな……」



相手から話しかけてくることはいつものことだ。自分のことが話題に上がっていれば、話しかけに行くものだろう。話しかけられて当然なのだから。

その様子を見たルネアは付き合いきれないと言わんばかりに言い放つ。

立ち上がり見せつけるかのように体をはたき、腕を前に出す。

その姿を見たラガスは満面の笑みを浮かべる。



「俺の蹴りまともに食らってピンピンしてる奴は珍しいんだぜ!」

「魔法という言葉をご存知で?」

「……ハハッ」



こいつ、あの一瞬で防御魔法を展開しやがった。

……いや違う。蹴られたのは間違いない。あの感触は間違いなく急所に入った。

吹っ飛ばされるのを一瞬で理解して防御魔法を展開し、その上で回復魔法をかけた。受け身も取っている。そうでないと急所に入った人体の体はまともに立てないし、あの勢いで飛ばされたのだから骨折の一つしていないとおかしい。


あの一瞬で「身体の回復」「防御魔法」「受け身」の三つをこなしやがった。


獣人の本能が目の前のダークエルフは強者であると告げる。

ラガスは掌ー前脚ーを地につけ四足の体制になる。瞳孔は開き切り、獣人とはいいがたい魔獣のような獰猛な雰囲気がにじみ出る。

強者を相手にしたモージ王国の獣人の戦闘の体制だ。


その姿を見たルネアもさらに神経を尖らせる。

体内で循環され表出しないはずの魔力が紫の靄のように体からにじみ出る。


張られた空気に誰もが声を上げず、気配を薄くする。

賭けをしていた者ですら、一つの呼吸に神経を尖らせる。

誰しもが両者の放つ気配に動けずにいた。


耳鳴りがするほどの静寂と緊張が破られたのは、ラガスの動きだった。


四肢に力を込め、床が破れるほどに強く蹴り上げる。

瞬きの間に詰められた距離に、ラガスの爪がルネアの首を狙う。

しかし。



「何もしてないわけ、ないじゃん」



薄ら笑みを浮かべた。

笑みに一瞬呆けた、その刹那。

ラガスの体が二階の手すりに叩きつけられた。



「ギャッ……!!」



意識をしていない背中側の衝撃に思わず悲鳴があふれる。

痛みをこらえてルネアを見据えれば、ついさっきまで自身がいた場所に魔法陣がある。

紫の光を放つ、矢印が描かれたものだ。

陣の中の矢印はラガスの方に向いている。



「『加速装置(ダッシュプレート)』。この陣の上にあるものは矢印の示す方に飛ばされる」

「ご、丁寧にどうも……っ!」

「……この効果は僕にもかかる」



ルネアが陣に足を踏み入れる。

ラガスと同等の速度で目の前に現れたルネアの拳がラガスの眼前に迫る。



「あっぶねえぇ!!」

「……ッチ」



体の柔軟さを生かし後ろに飛び上がる。魔力で覆われたルネアの拳は空振りし、まとわれていた魔力が勢いのまま床を打ち破る。


一階に着地したラガスは二階にいるルネアを見上げる。

窓を背にし、逆光となるルネアの姿は紫の瞳だけが煌々と光っている。



「アメジスト……いや、スピネルか」

「何をブツブツと」



怪訝な顔を浮かべるルネアを無視して続ける。



「耳が良いんだったけか? 大変だなぁ『どぶさらい』なんて汚ったねぇ二つ名で呼ばれてよぉ」

「『黄金殺し』よりはましな自覚がありますよ」

「ダークエルフなんだってなぁ? 『ルネア』って名前も『ルネアルブ(無価値なもの)』から来てんだろぉ?」

「……」

「親に愛されずこーんなカワイソウな名前まで付けられて、お前の生まれは大層『ルネアヴィム(無価値なもの)』だったってことだったんだろうなぁ?」



最大の嘲笑を含んだその言葉に、ギルドの空気が凍り付く。


ルネアルブ(無価値なもの)」という言葉の本来の形は「ルネアヴィム(無価値なもの)」であり、「ルネアルブ」は「ダークエルフ」を指すためだけに変化した言葉だ。


「ルネアルブ」は口にするだけでもエルフたちから殺されても不思議ではない差別の言葉。

ファルロテ大陸における言葉のタブーの中でも、指折りのタブーだ。



「落ち着け!」「弓をおさめろ!」「あいつは殺す」「止めてくれるな」「早まるなっ!!」「いい加減にしろ!」「力強いっ!」「誰か! 沈静化の魔法を!」「何てことしてくれたんだよ!!」「ふざけんな!」「撤回しろ! 今すぐに!」「謝れ!!」「謝罪しろっ!!」「コラッ! 弓引くなアイツ死ぬぞ!」「死ね」「やめなさい!!」



ラガスの発言を聞いたエルフたちが殺気立っている。今すぐにでも殺さんばかりの殺気がさらにギルドを混沌に落とす。

ラガスに対してのブーイングだけでなく、皿や小石、果ては明確な殺意を持って射られた矢が飛んでくる。しかし、ラガスが身に着けている黄金の装飾品の力で弾かれる。

喧嘩が始まったばかりのヤジが飛ぶ喧噪ではない。

非難とブーイングが飛び交う混沌たる様相を呈していた。


ブーイングを受けてもなお悠然とこちらを見る獣人に今度はルネアが口を開いた。



「そちらこそ、『黄金殺し』なんて大層な二つ名が付けられていますけど、実際は杖を取られてまともに魔法を打てなかったんだとか? 事情を知らない僕ですらそんな話が聞こえてくるものですから、魔法は大したことが無いようで……」

「あ?」 

「それに、魔法の話を聞くに相当黄金にご執心だとか。それだけ黄金に固執するのなら、マモン(強欲の悪魔)に憑りつかれているのでは? 東方に腕のいい悪魔祓いがいますからねぇ。紹介してあげましょうか??」

「……」

「言葉も出ないようで」

「ハルピュイア狂いが」

「はぁ?」

「……」

「……」



「「殺す」」



お互いの煽りで双方の臨界点を突破したらしい。息を合わせたかのようにアイテムボックスから杖を取り出す。

ラガスはミスリルを芯材にした黄金のアンク。

ルネアは木で作られた粗末なワンド。



「『黄金の(ネヘブ・)』……」

「『雷よ、(トニト・)』……」



互いの得意とする魔法が炸裂する瞬間、



「パーティー『アストラ』! 戦闘を許可する!!」

「「了解」」



奥から現れたギルドマスターの大声に、『アストラ』のリーダー、リオンが雷光のごとき速さで剣を抜く。ラガスの首筋に一撃。研ぎ澄まされた剣はリオンの魔力で覆われ切れ味こそないものの、鋭い痛みが頭に突き抜け意識を失う。


魔法使いの少女ー二コラーはスタッフを振るい魔法を使う。

無から突如現れた巨大なゴーレムは、ひるんだ一瞬の隙を見逃さず、手で捕まえ締め上げる。

首を絞められているせいで息ができず、体を締め上げられているせいで身動きもままならない。

ニコラは抵抗できないルネアに意識を昏倒させる魔法をかけ、ルネアは眠るかのように失神する。


一瞬の出来事だった。

誰しもがあっけに取られる。

ルネアとラガスの応酬もそれなりに素早いものだったが、彼らは別次元だ。


無数にある冒険者パーティーの中でもS級、SS級、SSS級は明確な差がある。

SS級は「一国の救世主」、SSS級は「世界の救世主」と呼ばれるほどの力を持たねばなることのできないランク、いわば名誉職。おとぎ話に出てくる異世界からの勇者が世界を救った後、冒険者となった際にあまりにも力が強かったことで「彼のためだけ」に作られたランクであると伝わる。

その為現実において「最も強いランク」はS級のみとなる。


冒険者パーティー『アストラ』。

剣聖のスキルを持つリーダー・リオンを筆頭に、メイザーラ魔法学院を歴代トップの成績と若さで卒業した少女・二コラ、「不落盾(ふらくじゅん)」の二つ名を持ち、屈指の防御力を誇るタンク・ジャビ、盗賊に身を落とし死罪寸前だったが、生まれつき魔力探知や鍵の解除罠の感知などの才能に長けたことでチームの生命線となった盗賊(シーフ)・ザビーネ。


数少ないS級冒険者の中でも最も実力があると言われる彼らの手によって、ハルバス冒険者ギルドが更地と化すことはなかった。


ルネアとラガスの超絶問題児コンビを象徴するこの騒動は、「黄金宝石騒動」として、それなりに長く語られることとなる。



・・・・・



「問題起こしたて、解決した瞬間にまた問題起こすって、お前らは問題発生装置か!!!!」



意識を失い倒れるルネアとラガスに怒鳴り散らすギルドマスター・ネルボン。

返事なんぞ無い、と分かりつつもこの怒りはどうやって発散させようか。

二人には二コラの手によってかけられた魔法による拘束がされている。



「そう怒らないでください。もとはといえば彼に『パーティーに入ってほしい』と頼んだのが発端だったんですから」



さわやかな笑顔でリオンは彼らを擁護する。



「そうはいってもだな。なんでエルフたちが殺気立っている」

「あー……実はですね……」



怪訝そうにあたりを見回すネルボンにリオンがそっと顔を寄せる。

リオンはこれまでの経緯を包み隠さず話した。



「はぁあああ……ラッガスティーナが変な二つ名で呼んだことにルネアが過剰反応して喧嘩ってことかぁ? あほなのか」

「そ、そう言わずに……」

「ラッガスティーナの『黄金の川(ネヘブ・メケト)』の威力はもちろんだが、ルネアが魔法を打つ前にどうにかできて本っ当に安心してんだぞ!!」

「それほど強いんですか?」

「ブロッゼ河川に住み着いた大森林の魚を、雷の魔法の一撃で討伐している」

「え」

「その時、古代魔法を使っていたのでは、という報告も上がっている」

「古代魔法って、そんな簡単に使えるものじゃない!」

「落ち着きな二コラ」

「だってだって! 私ですら古代魔法を打つのにはすんごい時間かかるんだよ?!」

「まぁ二コラはザビーネに任せてだな。ギルドマスター、仮にルネアの魔法が炸裂していたらどうなっていた」

「僕の意見でいいならだけど、二コラが古代魔法を撃った時の基準で考えるなら、間違いなくこのギルドの全員が感電してるかな。魔法で防いでもダメージは負う」

「げぇっ」

「これはあくまでも『二コラ』を基準にした考えだ。大森林の生物はどれをとっても強力。魔力の通りも悪いし、直撃してもダメージになりにくい」

「そういえば皆さんは大森林の魔物と戦ったことがありましたな」

「苦労しましたよ。……とにかく「アレ」を一撃で屠ったということは……考えるに」



少し思案するリオン。



「ここにいる全員死にますね! ついでにギルドも更地になります」



明るい声で宣言した。



「……」

「笑えねぇよ」

「……」

「……」

「あはは……。とにかくこの事件を起こした責任ははこちらにもあります。彼らに処分を与えるなら、僕たちにもお願いします。……巻き込んでごめんね。みんな」

「いつものことだ。気にするな」

「リオン様のためなら全然気にしない!」

「今更だわ」

「と、いうわけなのでそこのところお願いします」



毒が抜ける明るい笑みを浮かべた好青年にネルボンの怒りが沈静化していく。



「まぁ、気持ちはわからんでもないが、暴れたのはルネアとラッガスティーナだ。あいつらに責任は取らせる。『アストラ』はその監視、監督でいいか」

「異論はないです」

「とりあえずあいつらが目を覚ましたらギルドの片づけをさせろ。話はそこからだ」

「はい」

「これからちょうどいいペナルティの依頼を探すから、面倒を見てやってくれ。……お前ら! 解散だ! ラガスの発言も、相手を煽るために言ったことだ! 私怨で面倒ごとは起こすなよ! 片づけはバカ二人にやらせるから、手は出すなよ!」


「うーっす」「わかりましたー」「だってよ。落ち着いたか」「いやマジスマン」「迷惑かけた」「結局どっちが勝ったんだ」「『アストラ』が横やり入れたんだからナシだナシ!」

ネルボンの一声でギルドはいつも通りの賑わいに、ぎこちないく戻り始めた。



・ラガス

言っちゃアカンことを言い放ちやがった。14歳の割には王族で甘々に育てられていたので、感性、思考回路、情緒その他諸々がクソガキ。十八王子だったのでその辺の教育が甘かったのもある。

自ら地雷原を踏みに行き、爆発の勢いで爆走するタイプ。


・ルネア

別に事実なのに、エルフが殺気立っていたのに驚き。帝国ではエルフたちをひっくるめて「ルネアルブ」とか呼んでたのに。奴隷生活のせいで世情に疎い割には変なところで達観してる。

地雷には地雷を返すタイプ。


・「加速装置ダッシュプレート

魔法陣の中にある矢印の方向に、陣の上にあるものを吹き飛ばす魔法。現代魔法の一種。

イメージとしては「ソ○ルイーター」に出てくるメデューサの「ベクトルプレート」系の攻撃を想像していただければわかりやすいかと。鬼滅○刃にも序盤でそんなキャラがいた。

名前は「サイ○ーグ009」に「加速装置」って名前の力を持つキャラがいた(ような気がします。うろ覚えです)ので、そこから来ています。


・「ワンド」と「スタッフ」

筆者調べにはなりますが、「ワンド」は魔法使いが使用する短い杖(ハリー・ポ○ターの杖みたいな)を指し、「スタッフ」は魔法使いが使用する長い杖のことを指すそうです。この作品では杖の長さにおける特別な意味は特にありません。素材が魔法の発動のしやすさに影響するかも……?

魔法使いに杖は鉄板ですよね、って話です。

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