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友情の形成に喧嘩はつきもの、はあるある

冒険者ギルドでホーン・ラビの解体を頼んだらめちゃくちゃ背の高い獣人に「ハルピュイア狂い」と呼ばれた件について。


怒号が響き渡るギルドを後にしたあと丸一日。例の草原で魔法の練習をしたおかげで、ルネアはすっかり(というよりもギリギリで)「普通」と呼ばれる程度に魔法の威力を抑えることができるようになった。

なので実践も兼ねて、この日は討伐の依頼をしようということでギルドに赴いたのだ。


冒険者ギルドに到着すれば、運悪く、真昼間から酒を飲んで酔っ払っているオッサンにヤジを飛ばされたが、ルネアはまったく気にしていない。私はムカついたので睨んでおいた。

自分の悪口はどうでもいいくせに、私の悪口にはすぐに反応して喧嘩を仕掛けるので、稼いだポイントがすぐにダメになる。おかげで今でも最底辺のG級にのままだ。喧嘩せずおとなしくしてればいまごろはE級だろうに。閑話休題。


入口から少し離れたところにある依頼が張り出されている掲示板付近で背の高い獣人と、冒険者パーティーが話をしていた。こっちを見ていたが、特に悪意を感じないので放置。


掲示板に行く前に、ルネアが練習をしている時に狩ったホーン・ラビの解体を頼む。



「ノレイアがホーン・ラビばっかり狩ってくるから、最近は肉のありがたさを忘れそう」

「ギュ」



文句あるのかーこのこのー、と思いつつ頭をぐりぐりする。



「不満じゃないですよ。あの時(奴隷時代)は腐ってたりしていても、食事があるだけでマシな方だったから」

「……ンンー」



またトンデモエピソードが出てきたな。どこを掘ってもまともなエピソードが出てこないのがびっくりなんだが。



「お前が噂の『ハルピュイア狂いのルネア』ってやつ?」



背後……、もとい上から声が降ってきた。全く気配を感じなかった。

後ろを見れば背の高い獣人さん。

猫が二足歩行をしたかのような、ケモ度が高い獣人だ。


この世界に生まれてからもそうだが獣人を始めとして、ドワーフ、エルフはいろんな人がいる。鑑定曰くダークエルフのルネアもエルフの仲間らしい。ルネア以外に会ったことはないが。


特に獣人さんはいろんなタイプがある。

人間にケモ耳や尻尾を付けたかのようなケモ度が低いタイプ。ケモ度と人間度が半分半分ぐらいのタイプ。いろんなバリエーションがある。まさにファンタジー。


けど、ルネアに話しかけてきた獣人さんは自分が見てきた獣人さんよりもはるかにケモ度が高い。

ターバンを巻いているが、顔立ちからして猫の獣人さんだ。人間のような形の手には肉球があるし、裾の長いローブ?コートみたいなので分かりにくいが、足が猫そのものだ。靴を履いていない。

今まであった獣人さんはみんな靴を履いていたし、身長も人間と同じぐらいか、少し大きいか小さいかぐらいだ。

ケモ度が強い、ということは動物らしく毛色や模様があるということだ。

この獣人さんは縦半分で黒と白で見事に分かれている。面白い毛色だ。目は黒色側が金色、白色側が澄んだ青色だ。

それに背も高い。間違いなく180㎝はある。ルネアは私と同じぐらいの140㎝ぐらいだから相当大きい。ガタイのいい冒険者さんと同じぐらい。

首元にはきらりと光る金のアクセサリー。眩しい。ハルピュイアの収集癖の本能が騒ぐ。落ち着け自分。


諸々、ほかの冒険者と違う雰囲気圧倒されている自分と違いルネアはいかにも嫌そうな顔をしていた。


そして冒頭に戻る。



・・・・・



「は?」



はいルネアブチギレー。

さらば今まで貯めたポイント。

露と消えにし我が(ルネアの)ポイント。

中性的で綺麗な顔をこれでもかと歪めている。なまじ顔が綺麗なばっかりに迫力がある。まだ14歳なのに。

頼むからマジでここで乱闘なんかしないでよ! またギルマスにこっぴどく怒られるぞ!!


ヒヤヒヤする私をほったらかしてルネアは獣人さんに襲い掛かった。素手で。え、素手????

だいぶ身長差があるぞ。多分怒りに身を任せて衝動的に動いた形なんだろうな。



獣人さんは顔面に迫るルネアの拳を怯む事なくさらりと躱す。

おそらく殴られかけたことで闘争心に火が付いたのだろう。距離をとると見せかけて足でルネアを蹴飛ばした。動きからして戦い慣れているのが素人目でも分かる。


蹴られたルネアは受け身を取りながら吹っ飛んでいく。

ギルドの食堂の椅子や机を巻き込み、派手な音を立てる。


私はすでにギルドの二階に避難済み。巻き込まれたらかなわん。


冒険者たちは喧嘩の音がしたことで騒ぎ始めるが、そもそも血気盛んな冒険者。

やめろと制止する声もあるが、もっとやれ!と煽る声がほとんどだ。

何なら金を出して賭けを始める奴らもいる。神経が図太い。


吹っ飛ばされたルネアはぐったりとしている……ように見えたがすぐに立ち上がった。

おそらく魔法で体を守っていたのだろう。

うざったそうに体をはたく。


しばらく睨み合いが続いたが、それはルネアの挙動によって終わりを迎える。


ルネアが手を前に出す。魔法を放つときの構えだ。

対して獣人さんは、手を地面につけ四足獣のような体制になっている。おそらく本気で喧嘩をする(殺し合う)つもりなのだろう。


このままだとまずいので、二階の窓の鍵をカギ爪で開錠し外に飛び出す。

目指すのはもちろん、この殺伐とした状態を抑えられる人物、ギルドマスターの部屋だ。

飛び出した瞬間に爆発音と、それに盛り上がる冒険者の声が聞こえたが無視して上の階へ飛びあがった。



・・・・・



冒険者ギルドのギルドマスターであるルネボンには近頃頭を悩ませている案件があった。

それはダークエルフのルネアと獣人のラッガスティーナの存在だった。

冒険者登録を担当したそれぞれの職員たちの主観による評価からも「癖がありそう」やら「変わっている」と言わしめた独特の雰囲気を持つ彼らであるが、蓋を開ければその評価を肯定するような問題児だった。


そもそもの話。ルネアやラガスが拠点としている冒険者ギルドの正式名称は「ハルバス中央冒険者ギルド」である。

ハルバスは大きな都市であるため複数の小さな冒険者ギルドの支社が存在し、このギルドはそれらを取りまとめる元締めのような立ち位置である。

そんなギルドのトップであるギルドマスターの職はなかなかに多忙ではあるが、その分破格の福利厚生にやりがいのある業務、いい人たちばかりの職員たち。そして荒くねものではあるが、人情のある様々な冒険者。何をあげても快適な職場環境で実にやりがいのあるものだ。


そんな平穏が打ち破られたのはおよそ数ヶ月前。

ハルバスの南、海洋貿易の拠点の街パーパルに「黄金船」が現れたことが発端だった。

黄金船の噂である香辛料や黄金の凄まじさは冒険者ギルドなら例外なく知るものだ。モージ王国からもたらされる利益は莫大で、ともすれば一年間の冒険者ギルドの運営費にも勝る。


その数週間後に訪れたのがラッガスティーナである。保護者と思しき猿の獣人を連れた背の高い獣人で、他の冒険者とは異なる身なりが印象的であったと対応した職員が報告していた。その時点でモージ王国絡みの案件であるとネルボンは長年の直感で理解したが、魔物の巣を突く(藪を突く)必要はないしこちらに対する悪意がないならそれで良し、と見なかっとことにしていた。

どうにも身分は伏せたがっていたようだし、普通の冒険者として扱っても問題なかろう。

別に異国から出てきたものが、諸々落ち着いたことで冒険者業を始めるのはおかしな話ではないし、()()もそのパターンだろうと結論をつけた。


そして、後に「竜の翼」に連れられたダークエルフのルネアが訪れた。

彼らから話を聞くと、草原街道の半ばで出会い冒険者ギルド、ひいては西側に向かいたいという。これも縁であるといっても彼らの任務に付き合う形で同行をし始めたそうだ。

道中ルネアが連れていたハルピュイアーノレイアーが獲物を捕まえてくることで食料費が浮いたと満面の笑みで話していた。


ここまで聞けば珍しい種族の冒険者希望で済む話だった。しかし、ハルバスへと目と鼻の距離にあるブロッゼ河川で「古代魔法」を使っていたという情報が入るまでは。


古代魔法は学問として残る程度で、実際に使用が確認されるケースはまずない。

せいぜい研究や実験の一環で大量の魔法使いをかき集めて検証をする程度だ。

古代魔法の発動には複雑な魔法の構築理論に加えて莫大な魔力、鮮明なイメージによってはじめて力を出す。そのイメージも、複数人の術者で発動する場合共通のイメージが必要となる。とにかく、何を上げても面倒で仕方ない。実際、過去に魔力を使い果たし死亡した例もあるほどだ。


長い年月を経たダンジョンでは古代魔法と思しきトラップの存在が確認されているが、そういったダンジョンはたいてい高難度で、一階層だけでも高ランクの冒険者が根を上げてしまう。


威力が高く、様々なオリジナルの魔法を生み出せる汎用性の高さ。この二点においては現代魔法にはない特大のメリット。莫大な魔力と鮮明なイメージ、そして前提となる知識。それらがメリットを上回る大きなデメリットだ。


ここ最近、ハルバスのはずれにある草原で「火柱が上がった」だの「巨大な岩の塊が降っていた」だのわけの分からない報告が城壁の衛兵から上がっていた。

魔獣であったら堪らないのでたまたま手の空いていたA級冒険者パーティーのリオンをリーダーとする冒険者パーティー『アストラ』に様子を見てきてほしいと頼んだところ、「ダークエルフが魔法の練習をしていた」「ハルピュイアが近くにいたので、ルネアだろう」という報告が来た。

つまりこいつは現代魔法の練習をしていたというわけだ。威力がおかしい。

ダークエルフの珍しさもさることながら古代魔法も使えるとなれば厄介ごとの気配しかない。自分から隠ぺいしようとしてくれるのならそれでいい。

連れているハルピュイアのノレイアがらみて問題を起こすこと以外ただの冒険者だ。



しかし、ラッガスティーナ。こいつはだめだった。

初めは傍観、無接触を貫いたが、こいつのやらかしがひどすぎた。

パーパルからハルバス行きの乗合馬車に乗ったことは確認済みだったが、その道中で盗賊に襲われたらしい。しかもその盗賊の拠点である洞窟はダンジョンと化した洞窟。その上そこからドロップした魔道具を悪用した人身売買疑惑。そのせいで被害者数が甚大だ。


魔道具で操られていたとはいえ、人質として扱える被害者に、盗賊は元からの数が多い。

不意打ちで夜の野営を襲われたことでほかの乗客もろとも捕まったそうだ。

ラッガスティーナはG級故に戦闘の依頼は受けられない。そのため魔物との戦闘はもちろん対人戦はもってのほかなのだ。

しかし彼は容赦なく、一瞬も怯む事なく盗賊を殺した。


人を殺す、ということ自体、誰しもが忌避する行為であり、命のやり合いにおいては海千山千の冒険者ですら嫌がるものが多い。

他人であるとはいえ自分と似たような形、話の通じる存在の命を摘み取ることに喜びを覚えるのは異常なことだ。

超えてはならない一線でもある。


だがラッガスティーナはその一線を越えた。容易に踏み越えた。

その後は不覚を取り洞窟にお持ち帰りされたようだが、意識を取り戻した彼は同じく囚われていた『ライトソード』を発見し回復魔法をかけた。

その後取り上げられていた自身の杖を奪還した後、「黄金の川(ネヘブ・メケト)」を使い一帯を黄金に変化させた。


黄金の川(ネヘブ・メケト)」の影響を受けたのは洞窟だけでなく、洞窟内に幽閉されている被害者、盗賊に限らず、ダンジョン内の魔物のも黄金の彫刻となっていた。

その後、洞窟内を探索し被害者、盗賊関係なくすべてをアイテムボックスに収納した。モノのような扱いだ。人の心がない。盗賊はともかくとして被害者は解除してもよかっただろうに。

話を聞く分には馬車が破壊されていた、ハルバスまでの道のりがそれなりに長かったというのが理由だそうだ。ついでに馬もアイテムボックスに入れたそうだ。


そうしてひと段落したと思ったところでラッガスティーナは「早くハルバスに行き報告したほうがいい」と提案し、頭に巻いていた布(これが魔道具だった)で空を飛んでハルバスに到着した。というわけだ。


何を上げてもわけがわからない。

ハルバスにいくためには乗合馬車に乗るのはいい。

道中盗賊に襲われるのも想定内だっただろう。あの乗合馬車を最後にハルバス行きは運航停止になる予定だったからだ。

「襲われたから」であっさりと殺すのもまぁ分かる。弱肉強食だからだ。


しかし。

黄金に変化させ、現場を保存しようという訳の分からない提案。

実際にそれをやる行動力。「黄金の川(ネヘブ・メケト)」の威力。

生きたものが黄金になると自我が残ると分かりながらも、黄金になったものは徹底して「モノ」として扱う価値観。


結果的に盗賊にと囚われていた人たちの命は助かったが、黄金化されたことで精神に影響があったらしく、ラガスに対して怒りを覚える者がほとんどだった。

命があるだけマシなのは理解しつつも、モノとして扱われたことに対して怒る気持ちはわからなくもない。冒険者なら命あっての物種だが冒険者でもない一般人にそんなことを言われて理解ができるはずもない。

冒険者に対してあまりよくない印象を抱くものも少なくはないからだ。


事態を収束させた後説教をしたわけだが、全く響いていない。

ペナルティとしてランク降格。盗賊を捕縛したこと、ダンジョンの発見による報奨金から賠償を払わせたがどうしたものか。あの様子じゃすぐにランクも上げて暴れ散らかす未来しか見えない。


いっそのことルネアと引き合わせて問題児同士で仲良くなることはできないだろうか。

ルネアはハルピュイアが絡まなければいうこと聞くし。


平穏を打ち破る問題児二人にネルボンの胃は悲鳴を上げていた。



「はぁ~……」



とりあえず考え事はここまでだ、と茶を口に含めば、窓に影が差した。

大きな鳥の影。人面鳥ハルピュイアだ。

ハルピュイアとは思えないほどに綺麗な毛並みと顔立ち。翼の部分にある特徴的なカギ爪。間違いようもない。ルネアが連れているハルピュイアだ。

何やら慌てているよで。入れてほしいと言わんばかりに暴れている。



「ど、どうしたどうした」

「ギャーッ! ギャー!」



ネルボンの腕をつかみ扉へと引っ張る。なかなかに力が強い。

何か問題が起きたのか。

ハルピュイアを落ち着けていると、ギルドの受付嬢が飛び込んできた。



「ギッ、ギルドマスター!! ラッガスティーナとルネアが暴れてます!! 備品を吹っ飛ばして殴り合い、魔法も出ています!!」


「はぁ??!!」



穏便に引き合わせようとしていた二人がどういうわけか乱闘。

ネルボンの胃は限界を迎えた。きりきりと痛む。

そういえばやたらと下の階が騒がしいと思ったが、喧嘩によるヤジというわけか。


ハルピュイアが慌てていたのは自身の主人が暴れていて、それを何とかしてほしい、と伝えたかったらしい。



「(早くこの街から出て行ってくれねーかな)」



基本的に自己責任。好きにやれ、なスタンスのネルボンは切実にそう思った。


・ハルバス中央冒険者ギルド

ハルバスはでかい街なので支社がたくさんある。ハルバスが「市」だとしたらこの冒険者ギルドは「市役所」みたいな感じ。パーパルは「区」、パーパルの冒険者ギルドは「区役所」といったところ。

オール村のギルドは公共料金の支払いができるコンビニで、各種手続きはできない感じ。

オール村の冒険者ギルドのような必要最低限の設備しかないギルドは「小ギルド」と呼ばれる。解体、休憩、超簡単な任務しかない。

ハルバスとパーパルのギルドでは基本的なシステムは変わらないが、ハルバスが一番大きく情報がたくさん入る。ハルバスにおける冒険者ギルドの元締め。


・ルネア

才能の問題児。ハルピュイアが絡むと一気に沸点が下がる。

ラガスにイカれた二つ名で呼ばれたことでムカついた。

案外魔法よりも拳が先に出る。


・ノレイア

自分のせいでこうなってることに申し訳なさはありつつも案外気にしてない。それはそれとしてルネアの魔法は直撃するとやばいので、魔法の気配を感じると秒速で退散する。魔物の本能。


・ラガス

倫理観の問題児。王族倫理観の持ち主なので下等な命は弄んでいいみたいなところがある。

人の話を聞かずに適当な二つ名で読んだら殴られたので応戦した。殴られたら殴り返すの精神。モージ王国は自然が豊か()なのでそのぐらいのメンタルも必要。

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