黄金と作戦
ラガス君、人には興味がない。そんなに奴(獣人)です。王子なので思考回路も相応にぶっ飛んでる。王族メンタル。
とにかくギルドに行く。それを決めたはいいが、まずは脱出しなければ始まらない。
ダンジョンはたいてい地下に続いていくことが多い。しばらくまわりを探索すると案の定地下へ続く階段を見つけた。この階段を降りなければ問題はない。
とは言いつつも、ダンジョンである以上、その入り口であるこの階層も油断はできない。早い脱出が望ましい。
そのためにやること。
その一。生存者の確認。仲間は多い方がいい。特に荷馬車の護衛をしてた冒険者の安否が気になるところ。護衛の依頼を請け負うということはある程度腕が立つはず。魔道具に操られていたら終わりだが。
その二。自分の杖の奪還。ギルドに報告をする間盗賊に逃げられては元も子もないからだ。盗賊だけとっ捕まえて引き渡すこともできるが、盗賊の総数が分からないうえに、操られた人たちもいる。捕まえるとなるとまず戦闘は避けられない。だから、地形ごと魔法で固定する。
その三。魔法の発動タイミング。この魔法、下手すれば洞窟だけに限らず一帯をダメにする可能性がある。そうならないための制御として杖が必要なわけだが。あと単純にあの杖がお気に入り。なくすのは惜しい。杖が盗賊の手元にあるのは確認済みだ。
三つの問題をすべて攻略してやっと脱出できるわけだが、まぁ面倒くさい。
「ま、やるか」
自分に喝を入れて立ち上がる。
・・・・・
自分かつかまっていた牢に戻る。身代わりとしてぶち込んだ獣人はすでに死んでいた。体が冷たい。血の匂いが満ちていた。
それを横目に周りを見渡す。牢から脱出したときには気づかなかったが、壁沿いに横穴のような形でいくつもの牢があった。
「君はっ!」
「生存者発見〜」
声が聞こえて振り向けば、どうやら護衛をしていた冒険者のようだ。全員大なり小なり怪我をしているが、そのうちの一人が体全体を怪我したのか、動けずにいたようだ。
「怪我してるみたいで。直しましょうか?」
「そうしてくれるならありがたいが、ポーションでも持っているのか?」
「ポーションなんて嵩張るもの、旅で持ち歩けるわけないっしょ……。とりあえず牢の鍵、開錠しますね〜」
話しながら牢の鍵を開ける。魔法なんてものは必要ない。細い針と技術さえあれば簡単だ。
「んじゃ、ちょっと体、失礼しまーす」
そう言って怪我をした冒険者の体を見る。
女性。人間。全身に怪我はあるが、重症になるものはない。擦り傷、切り傷、あと打撲、といったところか。
左腕の二の腕部分は大きく腫れている。骨折か。
全体的に中傷よりの重傷、と言ったところか。
一番大切なことを聞いておく。
「頭殴られたりとかは?」
「されて…ないです…」
「倒れる時に咄嗟に受け止めたから、頭は打っていないはずだ」
「どの回復魔法をかけるか決める為に、ちょっと傷口、触るっすよ。痛かったら声あげてください」
アイテムボックスから取り出した清潔な布を二重三重に巻いて傷口に触れる。押して切り傷の深さを見る。血は止まっているが、やや深い切り傷だ。防ぎきれなかった剣による裂傷と言ったところか。
「回復魔法で止血、されてますね」
「わ、私がしました!」
「ナイスです! ありがたい」
あらかじめ魔法で重傷化を防いでいるなら、自分がかける回復魔法は中級で大丈夫なはずだ。
「骨折部分の添え木は…」
「牢の柵をへし折ったものがあるんでそれ使います」
傷を見た瞬間に牢の柵部分をへし折っておいたのだ。脆い木で良かった。
腕に木を当てて布で固定する。
患者を仰向けにし、楽な姿勢をとらせる。
胸元に手を添える。
「中位回復」
体全体が光るのと同時に傷が癒えていく。
数秒光った後、患者の血色ははるかに良くなっていた。
が、表情には疲労がにじみ出ていた。
「うっ……」
「調子、どうですかー?」
「全然痛くない…!?」
「あ、じゃあ良かったです」
「あの! 今の魔法!」
「俺の国の魔法ー。それ以上は秘密でーす」
回復役の冒険者が声をかけてきたが、うまく躱わしておく。
その上で患者だった冒険者に振り向く。
「回復したとはいえ、あくまでもあなたの体力を消費して回復しています。少なくとも3日、できれば7日は激しい動きはしないように」
「わ、分かりました!」
「じゃあオレが背負う」
傷が治った、ということで、現状の確認に入る。
自分の知ってる情報やこれからしたいと考えていること。全てを話した。
全て話したら、全員頭を抱えていた。俺もそう思う。
「ダンジョンに、魔道具……」
「人身売買も絡んでいるときたか……」
「ほかの冒険者パーティーは見てないのか?」
「いや、見てないですねぇ」
「とにかく、脱出だな」
・・・・
というわけで、ぞろぞろと脱出を始めたわけだが、洞窟の様相はますます変わってきている。
単調な道のはずが曲がりくねったものになってきている。これだけ複雑になれば盗賊に逃げられてもそのまま死にそうだな、と思いながら進んでいく。
朝になってきているのか、盗賊たちの動きはあまり活発ではない。朝方に眠って夜に活動するからだ。
もう一度嫌味男共がいた開けたところに行けば、酒盛りをしていたらしく、酒の匂いとともに寝落ちしていた。
……こんな奴らに油断して背後を取られていたとか、恥ずかしすぎるんですけど。
周りにいる操られた連中もこっちのことを認識していないようだ。
目の前を通り過ぎても目線を俺にやるどころか、何もないかのように虚空を見続けている。
忍び足でテーブルの上においてある杖に手を伸ばす。
すると起きていたのか盗賊に手をつかまれた。
「へへへッ! どうせそんなところだろうと思ったぜ」
「……チッ」
思わず舌打ちが出てくる。
盗賊と俺の身長は大体同じぐらいだ。手につかまれた力を見るにそれなりに強いが俺ほどではない。何より盗賊側は酒が入っている。
力任せに振りほどくことは簡単だが、そうすればお呼びではないやつもやってくる。特に嫌味男に起きられるといろいろと面倒くさい。
冒険者パーティーは息をひそめている。むやみに出てこない辺りはさすがに経験値があるといったところか。
盗賊は俺の腕をつかんだことで満足しているのか、懐から魔道具を取り出した。丸くて青いガラスが紐でつながっている。
それを目の前で揺らし始めた。
揺らすと魔道具から魔力があふれ出てくる。
目を背けようとしても、釘付けになる。
頭がしびれて……。
「ニャアーーーー!!!!」
バシィッ!!
「あああああ!!! 魔道具がっ!」
「あっ……やっちった……」
と思ったが、目の前にぶら下がる「おもちゃ」を前に体が反応して手が出てしまった。
やべっ!と思ったときにはすでに遅く、魔道具はきれいな放物線を描いて、机で突っ伏していびきをかく嫌味男にクリーンヒット。
その衝撃で粉々に割れてしまった。
盗賊の悲鳴ーもはや絶叫ーが響き渡る。
こうも目の前で物を揺らされると考えるより先に手が出てしまうのだ。許してほしい。別に許さなくてもいいが。おかげで魔道具も破壊できたし。
魔道具の破壊はできたけど、状況が悪化した。
嫌味男は起きた。
周りの操られた連中は、魔道具の効果がなくなったせいで糸が切れたように体が崩れ始めた。
一連のやり取りを聞きつけた盗賊の仲間が押し寄せてきたし、入り口も盗賊によって防がれた。
杖は取り返せたけど、やりたいこと何一つ達成できてない!! 泣きたい!!
冒険者パーティーもそうだが、あっという間に狭い空間が戦場と化してしまった。
本当は戦闘は必要最低限で済ませたいところだが、こうなっては仕方がない。腹をくくって杖を構えた。
・・・・・
いざ戦闘、となったはいいが、数が多すぎる。
ここに連れてこられる前のように、ひたすら切り伏せていく。
嫌味男はどさくさに紛れて姿を消した。最悪だ。洞窟の深部の方に行っていたから多分そのまま死ぬ。
雑魚を蹴散らしそのままの勢いで盗賊のリーダーに躍りかかる。
手練れなだけに一筋縄ではいかなかった。
背後に回り込んで急所を貫こうにもその行動は読まれてしまうし、魔法を放つにしてもこんな狭いところでは何が起こるかが分からない。
その上騒ぎを聞きつけて興奮した魔獣も押し寄せてくる始末だ。
洞窟は混沌と化していた。
「オラァッ!」
「お……っと、あぶねー」
背後から迫りくる雑魚の盗賊を躱し、跳躍のまま洞窟の天井に爪を立てる。
天井からちらりとこの状況の全貌が見えた。
真下には俺を狙う盗賊。
その近くでは、冒険者パーティーが応戦する。戦況は拮抗……やや有利といったところだ。
洞窟の入り口付近にはさらに追加の盗賊。混沌とした戦況に戸惑う。
冒険者パーティーが身を潜めていた洞窟の内側部分の通路。新たにダンジョンの魔物が侵入。ゴブリンナイトか。その手下としてゴブリンを十匹ほど連れている。おそらく一番近くにいた冒険者パーティーに狙いを定めるだろう。俺には気づいていない。
正直、目の前にいる雑魚にかまわずに、冒険者パーティーの援護に行きたい。ただでさえ回復魔法で体力が不安な奴がいる。そいつの装備は見たところ弓を使う遠戦系の戦士。戦力としては間違いなく一級品。
もう一人はそいつをせ背負っているときた。
そうなると遠くの相手を倒せる手段はもう魔法使いの女しかいない。治療の時の会話から察するに、魔法による戦闘よりも回復や支援系を専門としているのだろう。
矢が放たれた弦の音を拾った瞬間、体は本能的に跳躍し、天井から壁に張り付く体制になる。
俺を狙って弓を放ってきたそいつの背後から急襲し首を掻き切る。
そのまま、雑魚を切り裂きながら冒険者パーティーの方に援護へ向かう。
「君はっ!」
「名乗り遅れたけど、俺、ラガスって言いまーす! よろしくな!」
「回復にくわえ援護感謝する! 私は……」
「いいから! 目の前に集中しな! ゴブリンが狙ってるぜ! 盗賊は俺がひきつけておくんで!」
「済まない!」
短い会話だけでもやるべきことは共有する。これ鉄則。
ゴブリンはあの冒険者パーティーにとって対処はしやすかろう。
馬車での会話から、魔物の討伐やダンジョン攻略をメインで活動してるって言ってたし。
俺がお膳立てしてやるから後はお前らで何とかしてくれ。
「クソどもー! 相手は俺だ! バーカバーカ! 物を奪うことしかできないし能無しー!」
「ベーッ!」っとわざとらしく煽ればアホみたいに突っ込んでくる。ウケる。
激昂した奴の動きなんて単純で読みやすい。こっちには身長と相応の筋肉もある。視力もいいから、盗賊が振るう武器は総じてのろまだ。
十五人ほど雑魚を倒したところで、いよいよ焦り始めたのは盗賊の長は、剣を抜いて襲い掛かったがそれを防いだのは冒険者パーティーの連中だった。
「任せっきりにしてすまなかった! こいつは俺たちに任せろ!」
「ラガス、早く杖を探すんだ! サリー、強化魔法を!」
「はっ、はい!」
冒険者パーティーがいい感じに盗賊の長を引き付けている間に自分の杖を探す。
魔道具を殴り飛ばしてそのまま戦闘に突入したせいで、この空間はめちゃくちゃだ。
机をひっくり返し、死体をひっくり返し、散らばったものを片っ端から取っ払って探し回る。
時々こっちに流れ弾が来るが知ったこっちゃない。
「……全然見つかんねぇ」
間違いなく机の上に置いてあったし、俺はそれを取ろうとしていた。
まさか嫌味男が持ち帰った? それはない。テーブルをひっくりし返して暴れ始めた時点で杖は吹き飛んだ。
不意に冒険者パーティーと戦闘をしている盗賊の長を見やった。実力派拮抗といった感じ。途中で沈めた雑魚も復活して襲い掛かるから、手こずっているようだ。
んで、俺はそいつの腰に目が行った。
腰にぶら下がる短い黄金の杖。
こいつ……パクろうとしやがったな……???
俺のお気に入りなのに!! 俺の好きな黄金を使った杖を!!
ネコババされたらたまらない。衝動のまま盗賊の長の腰元に飛び込む。
「てめぇ!!」
「俺の杖返せや!!」
「うるせぇ!」
まさにもみ合いである。
剣で俺を切り裂こうとするのを俺が腕をつかんで抵抗し、俺が噛みつこうとすると顎を打ち上げられる。俺が剣を叩き落して丸腰になったかと思えば、懐から短刀を取り出し俺の首を狙る。
とにかくもみくちゃだ。
しかし、盗賊の長が俺を殴りつけようとするのを紙一重でかわし、腹に蹴りを入れたことで、「ウゴッ」と鈍い悲鳴を上げて硬直した瞬間に腰の杖を取り返した。
あぁ~……。黄金! キレイ! 最高!!
「おかえり~~~……! 俺の杖~~~……!!」
半泣きで杖にほおずりする俺。冒険者パーティーはそれを見てドン引きだったが無視だ。
が、俺は杖を取り返したことのうれしさで全く気付いていなかった。
冒険者パーティーがドン引きしていたのは俺の様子じゃなくて、俺の恰好に目を奪われていたことに。
もう一度起き上がろうとしていた盗賊の長の目が、金目の物を見つけた盗賊らしい目をしていたことに。
切り裂かれたローブの下は、モージ王国特有の黄金の装飾品しか身に着けていなかったことに。
俺は全く気付いていなかったのだ。
・中位回復
回復魔法の一つ。中位回復以上の魔法は熟練した技術と人体への知識、使用者の魔力の多さが必要になる。
回復魔法はあくまでも「怪我をした者の体力を前借して回復する」ので、瀕死の重体だと傷は治ってもその後の体力が足りずに死ぬこともある。単純に怪我をを治すだけならポーションの方がいい。ただし、高いうえに効果はポーションを作ったものの力量に左右される。
ラガスは別の国の獣人なので、魔法の発音が違う。
・冒険者パーティー
ハルバス行きの馬車五台を護衛していた三つの冒険者パーティーの一つ、『ライトソード』の人達。ほかの冒険者パーティーに関しては後程。ラガスの牢の近くにぶち込まれていたので、ラガスの目に留まって救助された。
・ラガスの身長
獣人は人族よりも身長はやや高め。モージ王国の獣人はファルロテ大陸の獣人や人間よりも大きい。ラガスの身長は180cm。成長期にも入るので、これからもっとデカくなる。




