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黄金と盗賊

「操られていた……?」



盗賊特有の荒々しい顔つきとはまったくもって無縁な、柔和で人好きのする顔立ちの見ながらその結論に至る。


盗賊にしては戦い方がバラバラだった。

剣術。短剣。槍。

盗賊が好む身軽で動きやすいものとはまったくかけ離れていた。


そもそもあれだけ人数がいるのに、ろくな声掛けや支援の姿勢もなく、手の空いている奴が積み荷を襲うそぶりも無い。


ただひたすらに俺たちを排除しようとする動き。そこに連携というものがない。



考え事をしていたせいで油断していたらしい。



「うしろぉっ!!!!」



「……えっ……。ッ……ガッ……!」



後ろから殴られてしまった。

体の血が抜けていく感覚を骨身に感じながら意識がなくなっていく。


冒険者の一団が慌てていたのがよく見えた。



・・・・・



体が揺れる感覚で意識が浮上する。



「……ぅ」



それに逆らわず薄く目を開ける。


どうやら雑に抱えられて移動させられているらしい。

抱える奴の足元を見るに、失神させた奴が俺を抱えているらしい。

一切の光がない暗闇の森の中を、少しの迷いもなく進んでいく。

足音からして俺たちを襲った大量の盗賊達だろう。

操られているもの特有のふらついた足取りではない。


目覚めたばかりで頭が回らない。


また沈んでいく意識に身を任せた。



・・・・・



次に目が覚めた時は、暗い洞窟の中だった。

獣人の視力じゃなければ、ろくに空間の把握もできないほどに暗い。

手足を縛られ牢にぶち込まれている。


動かせるところを動かして体を楽な状態にする。

足は厳重に、手は後ろに縛られ布を口に突っ込まれている。

考え始めると止まらないのは致命傷だからやめろ、と散々爺に言われた矢先にこれだ。


『考えながらの戦闘は、時に致命傷になると散々言ったではありませんかっ!!!』


……頭の中の爺が怒ってる。

別れたばっかりでこれかよ……うんざりだわ……。


とにかくまずは縄をどうにかしないと話にならない。

杖は紛失したし、イメージだけで火魔法を使う。

わずかな光と共に縄が焼け落ちていく。

猿轡をも外し自由になった手足を伸ばしてほぐしていく。

周りには俺以外の存在はいない。



「さて……と」



暗闇の中、自分の視力を頼りに牢の柵の部分へ近づく。鍵は一般的な南京錠だ。魔法を使わずとも解除できる。


ジャリッ……ーーー、ジャリッ……ーーー


アイテムボックスから開錠用の細い針金を取り出し鍵穴に差し込もうとした瞬間、遠くからの足音を拾った。


慌てて元の場所に戻りまだ意識が戻っていないフリをする。

松明を使っているのか、炎特有の揺らめく光がまぶた越しに入ってくる。



「ーーーこれが次の素材か?」

「はい。大陸の獣人ではないようですのでお楽しみいただけるかと」

「どうだかな」



一人は荒々しい声ではあるが、言葉遣いが丁寧だ。察するにもう一人のやつに頭が上がらないのだろう。

松明をもってしても牢の奥までは灯せないようだ。軽く腕を後ろに回しているだけなのに気づくそぶりがない。



「話に聞けば、四足で戦闘をしたそうだな」

「水晶で確認をしたので間違いはありません」

「大陸以外の獣人、となるとジョーモ諸島か……いや、獣人の点を考えるとモージ王国の可能性もあるな」

「……」

「まぁ、価値の分からん貴様に言っても仕方ないな。ーーー活躍ぶりは聞いているぞ。……そろそろ国が本腰を上げて攻め入ってくる。あの魔道具は適切に使えば強力だが、扱いを間違えるなよ。「アレ」は精神状態の影響を強く反映する」

「わかっております」

「それにギルドの方に潜らせている間者からは、はダークエルフが冒険者になったという情報も入っている。うまくここから逃げられれば希少な存在も好きにできるぞ」

「……はい」

「せいぜいうまく逃げだすことだな。お前が大量に抱えている「不良在庫」もしかるべきタイミングで処理することだ……そんな目をするな。報酬は手筈通りに渡してある」

「……くそが」



盗賊にまで悪態付かれるなんてよっぽど人望がねぇんだな。鼻につくしゃべり方とか、恐らく悪徳貴族かでかい犯罪組織の下っ端だろう。そういう奴ほど上から目線なのは変わらねぇんだな。

その後もベラベラと、嫌味と皮肉を隠そうともしないおしゃべりをしたまま去っていった。


たっぷりと時間をおいて再び起き上がる。

……「人形」に「不良在庫」、「魔道具」そして「好きにできる」。そして自分が殴り飛ばした優男の顔。

なんとなく全体像がつかめてきた気がする。

要するにこれは人身売買なわけだ。

道中、盗賊やら魔獣やらに襲われて命を落とす、行方知れずになって生死不明は大陸だけではなくモージ王国でもよくあることだ。


盗賊や山賊、海賊には複数のパターンがある。

一つ目、稼業としての盗賊。これは金になる物資を目立てに襲う。人の命は取らない、荷馬車を引っ張る馬は殺さないなど独自のルールがある。場合によっては、大人しく金目の物を出せば何もせずに去ることもある。一番安全な盗賊だ。心情はともかくとして、お互いが無傷で済むならそっちの方がいい。

二つ目、仕方なしの盗賊。これは貧民がなるパターンだ。飢饉や重税、戦争などでその日の暮らしもままならないやつがなる。この場合も稼業の盗賊と同じで金目の渡せば引き下がることが多いが、一線を超えて頭がおかしくなったやつもいるので要注意なケース。適切な支援を受ければあっさりと辞めるのも特徴だ。平穏な暮らしをしていた平民なわけだから、その暮らしを手に入れられればそれでいいのだ。やりたくてやっているわけではない。この時、場合によっては盗賊が稼業になることもある。

三つ目、単純に働きたくないなどの怠惰な奴。これはクソ。快楽のために何でもやる。生きる価値なし。


今回のパターンは稼業の盗賊からクソになったパターンだろう。

身なり自体はそれなりに整っていた。恐らく初めは稼業の盗賊としてキャラバン(荷馬車の隊列)を襲っていたが、運悪く悪徳な奴に目をつけられたか、金欲しさに堕ちていったのだろう。


……やっぱりクソだわ。この盗賊は潰す。絶対にだ。


決めたはいいものの、この洞窟内部の構造が分からないのではどうしようもない。

とりあえず南京錠を開錠して外に出る。

前々から感じていたが、この洞窟魔力がこもっていて気配が察知しにくい。ダンジョンに似たような環境だ。

杖がないせいで魔力がうまくまとまらないのが不便だがどうしようもない。ミスリルのナイフも紛失した。後で回収できるなら回収したいところだ。

アイテムボックスから予備の杖とナイフを取り出す。慎重に行くしかない。

魔力探知で周囲を探るが人や見張りの気配はない。それにしてもまるで複雑な洞窟だ。

かすかな気配を頼りに入り口と思しき方向へ進んでいく。



・・・・・



「……? ガァッ……!」

「ッ……フー……」



これで五人目。道中かち合いそうになるたびに背後に回り込んだり、天井から奇襲したりで騒ぎにはなっていない。魔法で殺すのもありだが、魔力でバレやすい。結果的に自分の手でなんとかするのが一番なのだ。

ちなみに一人目の盗賊は幸いにも獣人だったので、首の血管切った後、ダミーとして手足を縛って牢に放り込んだ。死んだかもしれんが無視だ。


近づくにつれ松明が灯される。ここらからは盗賊の活動圏ということだろう。



「相変わらず地形が読めないな」



もはや魔力探知による把握は意味がないほどに魔力が渦巻いている。


しばらく進んでいれば笑い声が聞こえてくる。

影に紛れながら談笑をしているであろう声に耳を傾ける。



「いやしかし、他の冒険者も捕えるとは! 盗賊にし・て・は、充分やるじゃないか!」

「はぁ……」



相変わらず嫌味たっぷりの言い方だ。

盗賊側も完全にやる気がない。

他の冒険者、ということは荷馬車を護衛していた冒険者もいるということだ。生きているかは知らん。

乗客も気になるところだが、あの感じだとやるだけやって捨て置かれたのかもしれない。

冒険者側は違約金で大変だろうなぁ……。


まぁいい。さてどうするか。

外に出るにはこの空間を通らないと無理。強行突破の手もあるが、魔道具によって人の意思を無視して自在に操る状態にできる以上、不用意な戦闘は避けたい。

精神の状態が~と入っていたが、それが「どのようなものか」は分からない。安定した精神か、はたまた感情のままに動くことを指すのか。


嫌味男と盗賊以外にも周りを囲むように、目の焦点が合わない操られた連中が守っている以上こっちの不用意に手を出せない。

嫌味男と盗賊どもは殺してもいいが、罪のない一般人を殺すのは自分のポリシーに反する。


数に物を言わせて襲い掛かられても対応に困る。

火魔法一発で盗賊もろとも蒸し焼き、という手もあるが自分も被害は逃れられない。



「こりゃ無理だな……。戻ろ……」



肩を落としてきた道を戻り始めた。



・・・・・



「……ん?」



来た道を戻り始めたはいいものの、道がこんなに複雑だったか……?

確かに複雑だ複雑だと思ってはいたが、道中は単純な道のりばかりだ。獣人の感覚を使えば元の場所に戻るのは造作もない。


人気がないのを確認して道の端で座り込む。

一息ついた瞬間。



ーーギギャァー!!ーー



「げぇっ! ゴブリン!」



ーーザシュ!ーー


ゴブリンが襲ってきた。雑魚だから瞬殺だが。ナイフで首筋を一突きしそのまま横に薙ぎ払えばあっけなく倒れる。

ボフン!と軽快な音を立てて、魔石がその場に残る。


魔力探知が効きにくい。

道が複雑。

洞窟。

魔道具。

極めつけは倒した魔物は死体ではなく、ドロップ品が残る。



「めんどくせぇ~……」



ここはダンジョンだ。

思わず頭を抱えた。



・・・・・



魔道具は基本的に人の手で作り出すか、ダンジョンのドロップだけだ。

人の手で作り出した魔道具よりも、ダンジョン産の方が頑丈で事故が少なく質がいい。


特に人を操るような魔道具はかなり表沙汰にしにくいうえに、そういうのは国ぐるみで行うものだ。そこらへんの盗賊が持っていい代物ではない。


ということは、だ。

こいつら、このダンジョンと化した洞窟のドロップ品である魔道具を使っていたことになる。

嫌味男がそれに目を付けたのかもしれん。



「いやこれホントにどうするのさ……これ……」



頭を抱えるしかない。

・盗賊に襲われてハルバス行きの馬車が襲われた。

・盗賊が何かしらと手を組み(恐らく)人身売買。

・盗賊の根城である洞窟がダンジョン化。

・そのダンジョンから魔道具発見。

・その魔道具は人を操れる。


問題が多すぎる。とにかく全部冒険者ギルドに報告しなければいけない。


盗賊の襲撃があった場所は、ハルバスとの道に中間ほどだ。荷馬車の速度から考えれば、自分の足で行けば全速力で半日といったところだ。

自分だけ脱出して応援を呼ぶことはできるかもしれないが、その応援が自分の速度についていけるわけではない。可能性は薄い。


冒険者ギルドが後々調査をするにしても一番いいのは現状の保存だ。

それなら自分にはとっておきの魔法がある。



問題は、それ制御するための杖がないことと、いつ使うかだ。

・ラガスの杖

ミスリルを芯材にした純金製。お値段は現実換算で◯千万円。紛失した。多分盗賊が回収して見せびらかしてる。


・ミスリルのナイフ

ミスリルのナイフ。お値段は現実換算で○百万円。同じく紛失。同じ奴は何本のあるので特に問題ないらしい。


・盗賊

何パターンかある。基本的に盗賊は一律重罰ではあるが、酌量の余地はある。

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