黄金は北上する
しばらくはラガス君のお話にになります。お付き合いください。
それと活動報告のところにも載せていたのですが、投稿日を各月の「10」「20」「30」とさせていただきます。
よろしくお願いいたします。
モージ王国から離れて荒波を渡ること三ヶ月。
ビトリック王国の港町・「パーパル」で最終確認やら冒険者登録をすることさらに数か月。合わせて約半年。
パーパルから出向する俺の船を見送ってやっと冒険が幕を開けたわけだ。
「冒険者登録をして初クエスト、そこから何個かクエストこなして、F級になったはいいけどこの先どうすっかな」
国を出たのはいいが全くプランがない。が、少なくとも東に行く予定はない。
東の帝国のチェザニル帝国はこっちでも名を聞いただけで顔をしかめるやつが多い。何でも人族至上主義らしい。それ以外の種族は奴隷として扱っているのだからなおさらだ。獣人の国であるモージ王国との相性は最悪で、貿易だけの関係性で何とかなってる状態だ。
さすがに俺の身は惜しい。大陸をめぐるのが目的だが、もしかしたら大陸の西側の旅で人生を終えるかもしれない。
俺の乗ってきたモージ王国の船(ここでは「黄金船」と呼ばれているらしい)を一目見ようと集まった人集りから離れて冒険者ギルドへと向かう。
最近はクエストのためにここに入り浸っているせいで受付のお姉さんやら冒険者やらに顔を覚えられてしまった。
受付で北上する旨を伝えると、パーパルの入り口付近で、ビトリック王国の中心部である「ハルバス」への乗合馬車が出ているらしい。西へ行くにも東へ行くにもこのハルバスを通らずに行くことは立地的にはできないそうだ。
思い立ったが黄金の日、ということで早速乗合馬車に向かうことにした。
「ラッガスティーナさん、一つの忠告が……」
「ん?」
「実は……」
受付のお姉さんの話によると、ここ最近ハルバスへ向かう街道で盗賊が出ている、ということらしい。
盗賊だけなら国や町の騎士団が制圧、もしくは護衛依頼を受けた冒険者や賞金稼ぎを主軸として動く冒険者がぶちのめして解決!が常らしいが、ここ最近になって出てきた盗賊は数が多くそのくせやたらと強くて厄介らしい。
この前なんて大きい商会の荷馬車が狙われた、ということで乗合馬車の方はかなり警戒しているらしく、この運航の後はいつ次の便が出るか決まっていないそうだ。
ならなおさら乗るしかない!!
「ありがとなぁ! お姉さん!」
「いえいえ。お気を付けて!」
乗合馬車の場所に行き、ハルバス行きの荷馬車に乗れば同じような荷馬車が五台も連なっている。
ハルバスは王都を除いた街では一番の繁華街というのも相まってそこへ向かう人の数も多い。
やがて時間になれば荷馬車は動き出した。
・・・・・
荷馬車の周りには、ハルバスへ向かうついでに護衛依頼を受けた凄腕の冒険者パーティーが三つほど荷馬車を取り囲み進んでいく。
俺も冒険者である以上何かしらの手助けをしたいところだが、生憎ランクはF級。対して護衛の人たちはC級だ。要するに出番はない。
道中魔物が出てきたり、小規模な盗賊が出てきたりとトラブルはあったものの迅速に処理されていく。
馬車の客も街道へ向かうこと自体に慣れているようで、トラブルが起こるとすぐに適切な行動をとる。
賑やかではあるものの、いたって平和な道中だ。
馬車に揺られながら皮袋に入っている水を飲む。その様子を見た隣に座っている行商のおっさんが話しかけてきた。
「あまり見ない顔ですねぇ」
「最近パーパルに来たもので。そこからハルバスに」
「何か目的でも?」
「冒険者として生活するために独り立ちをしてきたんで……。意外とノープランで……」
「それはそれは」
「気の向くままに世界を旅するのは冒険者の醍醐味ですよぉ」と続ける行商の視線は俺の足元にある。
「ところで、靴は履かないので?」
「え?」
「いや失礼。裸足だったものですから気になってしまいまして」
「あー……」
この大陸の獣人は靴を履く文化があるらしい。俺の国では靴を履く必要がないからあまり意識していなかった。
そもそも足の形から違う。
モージ王国の獣人は靴を履く必要がないほどに足が魔獣や獣に近い。体の構造も四足で走れるような形だ。爺は「モージ王国の獣人は極めて原種に近い」といっていたような気がする。
商人ゆえに挙動や差異に敏感なのだろう。
「育ちが田舎なもので。裸足の方が過ごしやすいんですよね」
という方便でごまかしておく。よっぽどしつこくなければこれで引き下がるだろう。
商人は世間話の一環で話しかけただけのようで、それ以上自身の足についてていてくることはなかった。
「あまり見ない服装ですね。どちらから?」
「南の方から。島国から来たので大陸は初めてで」
「南……というとジョーモ諸島ですかね?」
「そんな感じです」
雰囲気につられたのか、ほかの乗客も口を開き始め一気に賑やかになる。
護衛の冒険者たちとも話ができ、図らずともこの大陸における基本的な情報や、面白い情報を手に入れることができた。
・・・・・
何だかんだで談笑をしていたら一日が終わりかけていた。夕暮れの赤い日差しが一帯を染め上げる。
朝焼けもそうだが、この時間帯は全部がキラキラするから好きなんだよな。
野営の準備を終わらせて各々持ってきた食糧を食べ始めるが、俺の食糧があまりないことに気が付いた。
勢いだけできたから、保存食だけだし、その保存食もモージ王国のものだからここで食べると間違いなく目立つ。香辛料が使われてるから匂いもする。
失敗した! ほんとに
……。……仕方ない。
護衛の人たちに「薪を取りに行く」と噓を言って外れたとこで食べよう。
恐る恐る周囲を警戒している冒険所の一団に声をかける。声をかけたのは一番近くにいた魔術師のお兄さんだ。
「あのー」
「どうかしましたか」
「ちょっと薪を取りに行こうかなって……」
「自分たちがやるので大丈夫ですよ」
爽やかな笑みでやんわりと断られるが、こっちは空腹の危機だ。今すぐご飯を食べたい。
「俺も冒険者なんですけど、さすがに何もしないのは心苦しいんで薪を取りに行ってきます!!」
「あ! ちょっと! 君っ!」
「ちゃんと目の届くところにいるんで~!」というが早いが駆けだす。
もちろん盗賊の話が出ている以上、ちょっと離れたところにいるだけだ。そんなに離れるわけじゃない。自分の足で一気に戻れる距離だ。
勢いのまま茂みに飛び込んで枝を拾いつつ、保存食を齧る。
ついでに木の実をちぎってアイテムボックスにも入れておく。
保存食を齧りながら魔力や五感えお使い周囲の気配を探ると、乗客や冒険者以外の気配が周りを取り囲んでいた。よくない雰囲気のものだ。魔獣にしては気配が小さい。
まさか。
「盗賊だ!! 盗賊が近くにいる!!」
結論が出るや否やすぐに大声を上げる。
怒声に驚いたのか蜂の巣をつついたような騒ぎになる。
それに便乗し、隠れていた盗賊たちが姿を現した。
冒険者がすぐさま応戦するも数が多かった。
すぐに野営場に戻り応戦する。
明りは焚火しかない。
が、獣人の目で盗賊はぱっと見ればほとんどが人族だ。
アイテムボックスから杖とナイフを取り出す。
大陸での冒険早々に、こんな所で対人戦をする羽目になるとは思わなかった。
杖を口にくわえ盗賊に躍りかかる。
狙うは一点。急所だ。
皮鎧を着ているせいで心臓は無理。
剣を振り回す腕の血管も厳しい。
ならば。
狙うは首だ。
決めればあとは早い。
足の爪を地面に食い込ませて一瞬で相手の背後に回る。
そのままナイフを首に一撃。
ミスリルで鍛えられた良質なナイフはいとも簡単に皮膚を切り裂き血しぶきを上げる。
余韻に浸る暇はない。
次々と同じように処理をする。
乗客が襲われているのを見れば、魔法で怯ませる。
少なくとも今自分がするべきことは、乗客の安全を確保すること。
乗客が焚火を中心に集まっているおかげで、防衛魔法が張りやすい。
そこから動かなければある程度はしのげる。
想定以上の盗賊の多さに冒険者側も押され始めている。
何度か盗賊を切り伏せたが、それ以上の勢いでこちらに向かってくる。
……。
なぜか違和感が残る。
確かに相手は盗賊だ。自分の国にもいる。何度か殺し合いもした。
しかし、なんだろうか。「これ」は。
何というか。
死を恐れていない。
一度傷をつけられれば怯むのは生き物における基本的な反応だ。
だからこそ、先制で一発かませばある程度の主導権は握れる。
それなのに。
傷を負っても意に介さずこちらに向かってくる。
一つの考えが浮かぶ。
「まさかな……」
スピードに任せて盗賊の正面に急接近する。
そのまま目を見れば明らかに正気を失っていた。
襲い掛かろうとしていたので頭を叩き失神させる。
「……操られていた?」
倒れている男の顔は、盗賊とはかけ離れた柔和なものだった。
・ラガスの足
モージ王国の住人は国の土地柄上獣人のケモ度が高い。靴を履く文化がなく、四足で走れる。動物がそのまま立ち上がった姿とまではいわずとも、人間とケモ度の比率は大体2:8ぐらい。
ファルロテ大陸の獣人は人間の骨格がベースなので、獣の特徴はありつつも靴を履く文化がある。ケモ度はまちまち。




