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酔った…


ビトリック王国に入国するときにもめるだろう、そう思うとどうしても国境付近の景色を楽しめなかった。

見上げるほどに大きく堅牢な城壁のそばには入国の列が伸びていた。


マルセイユさんの荷台に乗せてもらいながらこの国について「竜の翼の人」人たちから教わる。

貿易拠点ゆえに西から東に、東から西に移動する時にはどうしても避けることができない国のため、そこを冒険の拠点とする冒険者も多いらしい。

西側に用がある自分にはあまり来ることはないだろうな、と思いつつも自由の身である以上、今いる場所を楽しむのも一興だ。


入国の列に並び始めてからその間、他の人の目線を強く感じた。

裾がほつれたりしているもののフードのついたマントを羽織っているから、自分がダークエルフであることは外からは分かりにくいはずだ。

目線をたどるとどうもそれはノレイアに注がれているようだった。

害鳥と名高いハルピュイアがおとなしくしているのがよほど珍しいのだろう。

ユニーク個体である以上ある程度の特異性はあるだろうと思っていたが、草原街道を渡る間も敵味方の区別を完璧に判断し、適切な行動を起こす時点で本当に頭がいいのだろうなと思う。


列に並ぶのに飽きて少し離れた草原で遊び始める姿は完全に小さい子供に等しいが。


その姿を横目にこの後の予定を立てる。

冒険者ギルドに行って正式に登録する必要がある。

そうなると冒険者として晴れて自由の身だし、したいことができる。


先ずは自分の服を何とかしたい。戦場から逃げ出したときは靴もなく本当に最低限のものばかりだった。

ノレイアと会ったあの王国逃げた後は、瓦礫をひっくり返したり、戦火が及んでいない場所から引っ張ってきたりと、とにかく打ち捨てられていたものを拾って身に着けていた。そのせいで服はかなりきついし、何より靴擦れがひどい。


「竜の翼」の人たちが手練れだったこと、自分が動かずに魔法が使えること、そしてノレイアがそれなりに強いのもあってあまり自分から動くことはなかった。


西のほうに行くためとはいえ冒険者として活動するなら動きやすい服装のほうがいいに決まっている。金はかかるがそれも必要経費だと思えばどうということはない。

ノレイアが狩り、自分が解体した魔物の素材を換金すればそれなりの足しにもなる。


少なくともこの街で冒険者としての身支度をするのは確定事項だ。しばらくとどまることになりそうだ。



そう考えていたら入国がもう迫っていた。

仮登録のギルドカードを取り出す。「フードを取れ」と言われたので言われるがままにフードを外せば、衛兵の目の色が変わった。

嫌という程に知っている眼だ。


帝国の奴隷をしていた時はこの目が普通だった。汚らわしいものを見る目。そして、自分に絶対的な優位性があるという目。



「まて。そのカード偽物ではないだろうな」

「偽物じゃないです。放してください。ちゃんと見せましたよね」



ここぞとばかりに衛兵が卑しい笑みを浮かべる。



「お前が本当に「ルネア」か調べる必要があるな。魔族だろう」

「魔族じゃないです。ダークエルフです」

「ダークエルフなぞおとぎ話だろう。どこから来た。言え」

「東のほうです。差別をされてきたので嫌気がさしてこっちに来ました」



噓ではない。実際帝国の生活にうんざりし戦場のどさくさに紛れて逃亡してきたのだ。



「噓をつかれてはたまらん。それにハルピュイアもつれている。魔族領からの間者かもしれん」

「ハルピュイアは僕の従魔で、僕は本当にダークエルフだ!!」

「そんな言い訳は牢で聞かせてもらおう」

「はぁ!?」



魔族とみられるのはまだいいが、自分でも会ったことのない魔族のスパイだと思われるのは心外だ。

話が通じないうえに腕をつかまれる。ここで牢にぶち込まれる経験はもうしたくない。



「ギャァッ!!!」

「なっ!」



腕を振りほどこうとがむしゃらに体をよじっていると、ノレイアがが衛兵にとびかかった。

子供ほどの大きさがある上に耳元で泣き叫べば衛兵はたまらず手を離した。金属をすり合わせたような不快な鳴き声が一帯に響く。

衛兵と距離をとってつかまれた腕を見たら軽く痣になっていたが、数日もすれば治る程度のものだ。問題は無い。


「竜の翼」の人たちが集まり心配されるが、それよりもノレイアを手元に来させるのが先だ。呼び寄せれば素直によって来る。

興奮で膨らんだ羽を落ち着けるように撫でればだんだんと落ち着いてくる。

衛兵が引きずられながらその場から消えていくのを見ながら、自分の種族(ダークエルフ)がどれだけ希少なのかを考えた。


しばらくして別の衛兵(さっきの衛兵よりも明らかにいい人そうな顔をしていた)にペコペコと謝られたが、今までは自分が謝って許しを請う側だったせいで、受ける立場としてどうすればいいのか分からず、動揺してしまった。



・・・・・



入国を果たし、眼前に広がるのは活気あふれた街並みと行き交う無数の国民だった。

この町は国境沿いにあるハルバスで、文化の入り乱れが激しいという。マルセイユもこの街を拠点にして活動しているらしい。

マルセイユとここを訪れたことのある「竜の翼」の人たちがこの街を案内するが、それどころではなくなった。


エルフという種族は、自身の魔力の多さを制御するために魔力の探知やそれをはじめとした扱いに長けている。それを行う器官は長く鋭く伸びた耳の先にある。だから耳の先を切り落とされたり、怪我をすると魔力探知の精度が著しく下がるのだ。


人が多い場所には様々な魔力が渦巻く。魔力感知に優れるせいで魔力酔いを起こし動けなくなってしまった。あの気持ち悪さを例えるなら、様々なキツイ香水が入り混じる夜会の会場といったところか。こうなっていしまった以上、人がいないところで気分を落ち着けるか何度も人ごみのところに行って慣れるかしかない。魔力を感知する耳の先を手で包んで荷台で寝そべる。


奴隷だったときは魔力を敏感にキャッチしてどうするべきかを考える以前に、魔力が一切関係ない勘が必要だったから意識していなかったし、「師匠」のところにいたときは魔力感知をするときは特定の条件下の時でしかなかったから、様々な魔力が渦巻く環境で感知したのはこれが初めてだった。

荷台でノレイアはせわしなく周りを見渡している。


その様子を見ながら冒険者ギルドにつくまでは少し慣れているといいな、と思いながら荷台で目をつむった。





・魔力

その人ごとに魔力の性質…もとい感じ方が違う。その人特有の体臭や香水のようなもの。魔力感知はそれを感知する力。


・エルフの耳の先

エルフの耳の先は魔力を感知する器官になってる。動物のひげみたいな存在。なので耳の先が傷ついたり切り落とされたりすると魔力感知の精度が著しく悪くなる。それを悪用して奴隷のエルフは耳の先を切り落とす場合もある。


・なぜルネアの耳の先は残ってる?

ルネアは貴族向けの観賞用の奴隷。そのため見た目を損なわないために「身体を大きく傷つけられるようなこと」は貸し出しにおける禁止事項になっていた。そのため身体が欠損するような怪我はしなかった。それはそれとして骨折や傷跡が残るような大けがは何度かしてる。爪を剥がされた経験あり。

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