入国の時に揉める、はあるある
前回の更新から時間が空いてすみません。私生活のほうがいろいろと忙しかったので…。
ルネアと竜の翼の人たちと一緒に草原街道を抜けて川にいついた主を倒し、ルネアが使う魔法が古代魔法だと判明しながら続いてきた旅も、ここで終わろうとしている。
私の目の前には巨大な城壁、つまりビトリック王国の国境に来ている。
ビトリック王国はファルロテ大陸の真南に位置し、海とシェイオ大森林を直線でつなぐように南北に長い長方形のような形をした国だ。
この国を迂回するにはシェイオ大森林、もしくは海路しかない。陸路で来るものはこの国をと通らなければ西や東に行くことができない。結果的にこの国は東西を繋ぐ関所のような形として、そして同時に貿易の一大拠点としてこの国を支えている。
そのためかファルロテ大陸では一番といっていいほどに文化が豊かで複雑にまじりあい、西側の文化とも東側の文化とも言えない曖昧でありながらも特徴的な街並みや食文化、ひいてはそこに暮らす種族も豊かな国である。
…というのが地図にあるビトリック王国を鑑定した時に得られた情報である。
ルネアは入国した後は冒険者ギルドに正式に登録して本格的に冒険者として働き始めるようだ。
暇さえあれば仮登録のカードを眺めていたのは知っている。
あれははじめての冒険にワクワクしているやつだ。私知ってる。
自分も大森林から離れる時はこんな感じだったからね。
入国のための長い列に並びながらあくびを一つ。
荷台のステップに座ってるのもいいけど尻が痛くなってきたみたいでルネアは立っている。
…というか視線が痛い。
私がいるから?
グサグサ刺さる視線に気にしないふりをしながら列はどんどん進んでいく。並んでいる人は多いけど手際がいいのか私たちの番になるまでにはあまり時間がかからなかった。
「通行料かギルドカードの提示を」
衛兵の甲冑を着た強面のおっさんが竜の翼の人たちにそういうと、示し合わせたようにギルドカードを取り出した。目の人たちはお金を払っていたから、ギルドに所属してる人たちは通行料が無料なのかもしれない。
ルネアもそれに倣って仮登録のギルドカードを見せた。
仮登録でも通行料は無料だから問題はないはず。
ルネアが衛兵の前を通り過ぎようとしたら、いきなり衛兵に腕をつかまれた。
「まて。そのカード偽物ではないだろうな」
「偽物じゃないです。放してください。ちゃんと見せましたよね」
これ面倒くさい奴だ。
「お前が本当に「ルネア」か調べる必要があるな。魔族だろう」
「魔族じゃないです。ダークエルフです」
「ダークエルフなぞおとぎ話だろう。どこから来た。言え」
「東のほうです。差別をされてきたので嫌気がさしてこっちに来ました」
「噓をつかれてはたまらん。それにハルピュイアもつれている。魔族領からの間者かもしれん」
「ハルピュイアは僕の従魔で、僕は本当にダークエルフだ!!」
「そんな言い訳は牢で聞かせてもらおう」
「はぁ!?」
なんだこいつ全然話通じねぇ。
腕を引っ張ってそのまま牢屋に連れて行かんとしている。
ちょっと待てやゴラ!!! ルネアに何しとんじゃ!!
「ギャァッ!!!」
「なっ!」
たまらず衛兵に飛びかかる。殺すつもりはない。あくまでもルネアを引き離すだけだ。
羽をまき散らしながら耳元でやかましく泣きわめけば、衛兵は私を追い払おうと両手を使った。
ハルピュイアの鳴き声は不快そのものだからね! 耳もふさぎたくなるに決まってる!
手から解放されたルネアはすかさず衛兵と距離をとる。
別の衛兵の人と手続きをしていた竜の翼の人たちは騒ぎに気付いたのかこっちに近寄ってきた。
ほかの衛兵の人たちもこっちによって来る。
「ルネア! 大丈夫か!」
「言いがかりつけられてたか!」
「怪我はないか」
「だ、大丈夫です…慣れてるので…。ノレイア! 戻れ!」
私はポ○モンかな?と思いながらもルネアのところに戻る。
興奮で膨らんだ羽を抑えるかのようにルネアが背中をなでる。それで少し落ち着いた。
ルネアの腕をつかんでいた衛兵はほかの衛兵に引きずられながらその場を退場していった。「差別はやめろっつただろ」とか「ダークエルフはエルフの一種だって知らないのかよ」とか聞こえたから、おそらく完全な独断専行だったのだろう。
ズルズル引きずられる衛兵を睨みつけながら、ルネア、もといダークエルフがどれだけ希少な存在なのかを改めて痛感したのだった。
・・・・・
「本っ当に申し訳ありません」
「いえ…」
「アイツは前々から四種族以外の種族への風当たりが強いといいますか、差別意識があったようで…」
「慣れてるんで…」
平身低頭でペコペコする衛兵にルネアは若干腰が引けている。謝罪されなれていないらしい。
ちなみに「四種族」というのは「人間」「エルフ」「獣人」「ドワーフ」の四種族のこと。この大陸ではこの種族が圧倒的に多いためにそういわれる。それ以外の種族は「魔族」と呼ばれ差別傾向にあるが、そもそも会うことがないが故の差別だろうな、と私は踏んでいる。
ルネアの体に大量に傷跡があったからあまりいい立場の出ではないだろうな、とは思っていた。やっぱりこうやって自分が(形式上ではあっても)上に立っている状況にすっかりへっぴり腰…というよりも、もはや「生まれたての小鹿か???」なレベルで震えている状態を見るに「自分が尊重されること」そのものに慣れていないようだ。
私へのコミュニケーションは取れてるから、そこは明確に「完璧に意思疎通を取れるもの」が相手じゃないといけないようだ。
閑話休題。
仮登録のギルドカードを受け取った衛兵さんは簡易的な質問をした後、快く返却してくれた。
「ギルドカード、仮登録のですね。冒険者希望ですか?」
「西に行くので、国境を越えたいんです。あとお金も欲しいです」
「なるほど。ビトリック王国の冒険者ギルドの場所は分かりますか?」
「分からないです。初めてきたので」
「そこは俺たちが案内するから心配すんな!」
「おお! 心強い! ではお願いします」
連れて行かれたおっさんとはえらい違いだなと思いつつ無事にビトリック王国へ入国を果たしたのだった。
ちなみに私はルネアの従魔として認められて入国できたが、「ハルピュイアを従魔にするなんて」と言わんばかりのドン引きの視線をもらった。
・・・・・
国境を超えて入国を果たした自分たちが今いる場所は、ビトリック王国の東側国境に位置する街、ハルバスだ。貿易国家であるために文化が入り乱れることが多いビトリック王国においてはとくにその様相が顕著にみられている。さらに東側国境に位置するだけあって西側の文化よりも東側の文化が多くみられる街で、行商や冒険者でにぎわいを見せている。
マルセイユさんも含めた自分たちは町の案内をされながら冒険者ギルドに向かっていた。
マルセイユさんをふくめた竜の翼の人たちは任務完了の報告、ルネアは当然、冒険者としての正式な登録のためだ。
冒険者ギルドは町の中心部にあるためそこそこの時間を要するが、人の多さにルネアは人酔いしてしまったらしく顔色が悪い。
あまりにも顔色が悪いものだからマルセイユさんの荷台に揺られている。逆に気持ち悪くなりそうだがどうしようもない。かく言う私も荷台に乗って顔を出して周りの景色を眺めている。転生する前は人混みなんで自殺行為レベルの愚行だったから遠目でしか見ることができなかった。
とは言いつつも今の自分はハルピュイアだから、結局その輪の中に入ることはできないが。
転生して夢がかなったような気がしていたけれど、なんだかなぁと思わずにはいられなかった。
用語解説
・四種族
「人間」「エルフ」「獣人」「ドワーフ」の四種族のこと。この四種族がファルロテ大陸では圧倒的に多いためそういわれる。それ以外は「魔族」と呼ばれ、差別傾向にある。この四種族と魔族の区分けはほかにもあるが、それは後程。
・ダークエルフ
珍しさゆえにエルフの一種ではなく魔族の一種として見られていたが、近年になってからは考えが改められつつあるが、差別をする者は多い。




