1,日常の最期(後編)
三人を探している最中襲いかかってくるヒトを蹴散らしながら進んでいくと、カズラが立ち止まった。
「ハヅキ、これ…」
指差した先には、桶の水が溢れて柔らかくなった地面に小さな足跡が残っていた。
足跡の着き方から見るに、かなり慌てていたことが分かる。
足跡を目で追うと、それは一つの家の中に繋がっていた。
静かに扉を開けて中に入ると、一見誰もいない空間だったが、畳に泥の足跡が付いており、その先の押入れに繋がっていた。
カズラに静かにするよう指示をし、ゆっくりと近づいた。
「…誰かいるのか?」
声をかけるとゆっくりと襖が開き、涙でドロドロの顔のヤエとシバの顔が覗いた。
ヒトでないことに気づくと二人は勢いよく襖を開けて飛びついて来た。
「うわぁぁん‼︎ハヅキ!ハヅキぃ!」
「怖かった!怖かった!」
二人を抱きしめて宥めていると、ヨシノがいないことに気付いた。
「ヨシノはどこだ?」
「ヨシノっ!あたし達庇ってヒトに追いかけられてる!」
ヤエは着物を握り締めながら苦しそうに答えた。
ヨシノは三つ子の中でも正義感が強い子だ。
自分が囮になることで兄弟を守ったのだろう。
湧き上がる怒りを抑え、カズラの顔を見て立ち上がった。
「ヨシノを探してくる。カズラは二人を頼む」
「あたしもヨシノ探す!!」
「一緒に行く!」
ヤエとシバは掴んだ着物を離そうとしない。
微笑んで二人の額に口付けをすると、二人は驚いて手を離した。
その隙に離れ、家の入り口に立った。
「必ずヨシノを連れて来るから…良い子で待っていてくれ」
「気を付けろよ!」
カズラの忠告と二人の泣き声を背に、まだ探していない道を走った。
・・・・・
ヒトと出くわさないように注意しながら進んでいると、見覚えのある簪が落ちていた。
綺麗な桜の飾りが付いた高価そうな簪。
「これは…ヨシノの簪だ」
簪を手に取り懐に入れると、路地裏から大きな物音が聞こえてきた。
「痛い!離して!!」
「餓鬼が手間かけさせやがって!」
声のする方に急ぐと、そこにはヨシノとヒトがいた。
「ヨシノ!」
「っ…!ハズキぃ!」
ヒトはヨシノの髪を鷲掴んで引っ張っていた。
怒りの勢いで地面を蹴りヒトに近づくと、聞き覚えのある発砲音と共に足元に銃弾が飛んできた。
気配を感じて顔を上げると屋根から銃を持った男が飛び降りてきた。
身軽に着地した男はこれまで会ったヒトとは違って綺麗な制服の様なものを着てフードを被っていた。
「貴様…何者だ」
フードの男は問いに答えず、構えていた大きな銃を背中に回し、ヨシノを掴んでいたヒトの手を弾いてヨシノを引き寄せしゃがみ込んだ。
「私たちはとある研究をしている者だ。オルコ族に"協力"をしてほしい」
フードの男は怯えるヨシノの頭を撫でながら説明をし出した。
「物を頼む態度では無いな…その子に触るな」
攻撃をしようにも、奴はヨシノに触れている状態でこのままだとヨシノにも当たってしまう。
「では、協力はできないということか?」
「当たり前だ」
「…はぁ」
フードの男は溜息を吐くと素早くナイフを取り出しヨシノの髪を切り裂いた。
「いやぁ!!」
「っ…!!貴様ァ…!!」
フードの男が手を離した瞬間に素早く近付き、ヨシノを取り返し炎の魔法を飛ばした。
狙いは外れていなかったが炎はフードの男に当たる直前にスッと消えた。
「は…何で」
ヨシノを片手で抱きながら予想外の出来事に驚いていると、手に強い衝撃が走った。
「うあ"ッ!」
手に目を向けると、フードの男に向けて飛ばしたはずの炎が手に戻ってきて大きく火傷をしていた。
「ハヅキ!」
「だ、大丈夫だ…」
傷を見て震えるヨシノを落ち着かせつつ身に起こったことが理解できずにいると、フードの男がナイフを腰のシースに納めながら口を開いた。
「私に何度魔法を飛ばしても自分に戻ってくるだけだぞ」
「どういうことだ…」
するとフードの男が背中の物とは別の銃を手に取り構えようとしたので、再び魔法を飛ばそうと手を構えたが傷の所為で上手く動かなかった。
その隙に引き金を引かれ、放たれた弾は右肩に命中した。
「あ"あ"あ"ッ!!!」
撃ち込まれた弾は貫通せずに中で止まり、弾から木の根っこのようなものが這い出てきた。
あまりの激痛に地面に倒れると、別のヒトにヨシノを奪われた。
「やだ!ハヅキィ!!」
「あ…がッ…ヨシ…ノ…」
「凄えだろ!…これも研究の賜物さ」
ヨシノを奪ったヒトが自慢げに銃のことを話した。
フードの男は悶える俺に近付き角を掴んだ。
「き…貴様ァ…」
フードの男を睨みつけると、一瞬顔を曇らせたが直ぐに表情を戻した。
「妥協してやろう…お前かあの小娘、どちらかが我々の所に来てくれたら二度とこの村に手は出さない」
「し…信じられるか…」
フードの男は掴んだ角を持ち上げて顔を上に向かせた。
「お前が選べるのはお前か小娘のどちらが我々に"協力"するかだ」
選ぶまでも無く答えは決まっていた。
「わ、分かった…俺が行く」
「ハヅキ…」
ヨシノの顔を見ると涙を流しながら顔を横に振っていた。
フードの男が角から手を離し、ヒトに指示をするとヨシノは解放され、力強く抱きついてきた。
「やだ…行っちゃ嫌だ…」
「大丈夫だ…必ず戻ってくる」
怪我をしていない左手でヨシノの頭を撫でると、サラサラの長い髪は短くなっていた。
「髪…ハヅキが綺麗だって言ってくれたから伸ばしてたのに」
「気にするな…髪はまた伸びる」
懐から桜の簪を取り出しヨシノに手渡した。
「あ…私の簪」
ヨシノの耳に顔を近づけて小声で話した。
「ヤエたちが隠れた小屋の近くにカズラがいる筈だ…そこまで走るんだ。絶対に戻ってくるんじゃないぞ」
最後に笑顔を見せると、ヨシノは何かを話したそうに口を開いたが閉じて頷き、背を向けて走り出した。
ヨシノの姿が見えなくなると、ふらつく脚で立ち上がりフードの男に顔を向けた。
「約束だ…俺は付いて行くから他の者たちには…」
「…あぁ、約束だ」
不審に思い力の入らない体で身構えていると、後ろから体を押さえ込まれ首に何を刺された。
「う"っ…」
その瞬間体に全く力が入らなくなり地面に倒れ、意識は途絶えた。




