3 とりあえずエルフの村の王になりました。手始めに地下大帝国でも作ろうかと思います
「なんと国をこのムーアの大森林に!?」
目を見開きそう言ったのは、村長のラティカだった。
村長と言っても不老のエルフであるため、若い女性に見える。ただその雰囲気だけは、他の者とは少し違っていた。
そして集められた村の者達の間にもどよめきが走り抜ける。
「突然そんな事を言われてもやはり困りますよね……」
思わず声が小さくなった。
「いえ、驚いたのは確かなのですが、本当にこの地でよろしいのですか?」
「はい」
人々の間に再びどよめきが走る。何となくだが喜んでいるようにすら見えた。
それに戸惑いを感じて思わず訊いてしまう。
「あの、嫌じゃないんですか?」
「国を創られると言う事は、魔王を城もろとも一瞬にして灰にした大召喚士の貴方様が私達を守ってくださるという事ですよね?」
「そう……なりますね」
そう言うと、今度はあからさまな歓声が村人たちの間から上がった。それにさらに動揺してしまう。
「我等は長い間、ヒトの世の中で虐げられ続けて来た種族です。だからこそ、この森が魔物の住みかとなって尚、この地を離れることも出来なかったのです。他の種族がどうかは分かりませんが、この森に住む亜人と呼ばれる種族はみな同じ状況でしょう」
そこで、一度言葉を区切り深く息を吐いたラティカは続けた。
「だから、少なくとも私達は貴方が国を建てる事に反対はしませんし、むしろ有難いことなのです。魔王を一瞬にして葬る程の強力な王に守られ、英雄の築き上げた国の民になる。もはや我等を虐げるものはいなくなるでしょう」
そう言って何度も頷いたラティカ。村人たちの間から拍手が沸き上がった。
「私の方から、森に点在するエルフの集落の方に使いを出しましょう。そしてこの数日のうちに村長達を集めて、我が種族の同意へと導く形でいかがでしょうか?」
「有難う。それでお願いします」
そう言って頭を下げる。
「頭など下げないでください。少なくとももう既に貴方はこの村の王ですよ」
あまりにもすんなり行ってしまった事実に、唖然とすると共にそう言われると恥ずかしい。
「ただ、他の種族については私の力の及ばないところです。どの種族も先に言った通り同じような状況にあるとは思いますので、そう反対はしないとは思うのですが、こればかりは……」
「十分です。そっちは自分で一つ一つ足を運ぶ事しますから」
そう言って再び頭を下げた。
2
「ね? みんな反対しなかったでしょ?」
「なんか、こんなに簡単に行くと思ってなかったらびっくりした」
「ラウルは凄い召喚士なんだから、もっと自信を持った方が良いよ」
そう言ってミリアは微笑んだ。
「そうなのかな?」
思わず首をかしげる。
「そう言えば、お腹すいたね」
「言われて見れば」
気づけば朝食をとって以来かなりの時間がたっている。しかも朝食の内容が自分としてはあまりお腹に溜まるような内容では無かったのだ。
どうやら彼等は木の実を始めとした菜食主義のようで、村で手に入るもの全てがそう言ったものだったのだ。こう言ってしまうと申し訳ないのだが物足りない。
「王都の洋菓子店のケーキ美味しかったな」
そんな事を呟いたミリア。
「そう言えばリストにケーキ屋さんがあった気がするな」
言いながらリストを確認する。
「本当に!?」
ミリアの顔がぱぁっと明るくなった。
「呼びだしてみるか」
昨日呼び出した家もそうであるが、価格が異様に安い。恐らく王都の相場の一割程度ではなかろうか。
――いったいどう言う基準で価格が決められているのだろ?
などと考えながら地に杖を突き立てる。
すると直ぐ様それは出現した。
だが、同時に昨日と同内容の警告がステータスに浮かびあがり、更に呼び出したケーキやさんの上に、変なマークが浮かび上がった。困り顔マークとでも言えばいいのだろうか。単純化されたイラストはやはりどう見ても困っているように見える。
――なんだろこれ?
と思っていると、既にミリアが殆ど駆け込むようにして、召喚したばかりのお店に入いろうとしていた。
自分も慌てて後を追う。
そして、その先にあったのはあまりに悲しい現実だった。ショーケースに一切の商品がないのだ。
「あの……」
店員らしき変わった服装の女性に話しかける。
「何も作れませんから、何もありませんよ」
話かけるなりそう言われてしまった。
「えっと作れないとは?」
「電気も無い、ガスもない、水もない。原料も入ってこない。おまけにここには私が生活して行くのに必要なものが何もない。これでどうしろって言うんです? 市長さん」
「市長? 僕が?」
「私を呼び出したんですから、貴方は間違いなく市長ですよ」
「あの、ちょっと詳しく話を聞かせてもって良いかな?」
どうやら、このリストを使って呼び出された者にとって、自分は市長なのだそうだ。で、市長とは何なのかと言うと、王様みたいなものらしい。
「私達は、与えられた役割をこなす人形ような存在です。生活する上で起きる不平や不満を言うのが私達の役割です。私達の不満は貴方のステータスに表示されていると思いますが」
そう言われてステータスを見ると確かに色々書かれていた。『流通が滞っています』等がそうなのだろう。
そして彼女の話から色々見えてきた。大抵のものはそれを扱う『彼女のような存在』と共に召喚され、召喚された存在には生活に必要な環境を整える必要がある。
店を召喚すれば、そのお店が営業するための流通も整えなければならない。原料を生産する者達も設備も必要になる。
驚くべきはその全てが自分の持つリストの中で完結できることだ。
そしてインフラ設備を整え、商業エリアや居住エリアを指定すれば、彼等は自動的に次々と召喚され、生活を始めるのだそうだ。その見返りとして彼等は税金を納めると言う。
逆にインフラ設備が整っていない所に呼び出されると、直ぐに不満がたまりそれが一定以上になると「やってられるか!」と消えてしまうらしい。
とんでもない召喚リストだと思った。このリストで世界を、そこで暮らす人々ごと創造してしまえるのだ。それは『神の玩具』と表現しても良いのかもしれない。
ただ、これを使ってここに国を創造したらどうなるのか。
ここで元々暮らしていた人々は、あっと言う間に『自分が召喚した人々』に飲み込まれてしまうに違いない。それは違うと感じた。
そうかと言って使わない手はないとも感じる。
そして、閃いた。
税収元として、隔離した空間に完結した世界を作り、さらに其処から得られるものはとことん得れば良い。そしてそれを作りあげる事は、これから国を治める自分にとって有用な知識を供給してくれるに違いなし、このリストの全貌を知る事にも繋がる。
――広い土地が必要だな。
そこまで考えて、さらに閃く。
「ねぇ、ミリア。ムーアの地下大空洞の入り口を見つけたって言ってたよね?」
「うん、それが?」
「そこに、地下大帝国を作る。皆には内緒な」




