2 エルフの女の子の故郷を訪れました
1
「知識としてはあったけど、こうやって見ると本当にすっごい森だなぁ。まさか道が無いとは思わなかったけど」
生い茂る木々のどれも巨大としか言いようの無い大きさを誇り、地面はそれらの突き出した根によって大きく起伏していた。
ただの広いだけの森とは、完全に違った雰囲気がる。
「道を作ると森が傷ついちゃうから。疲れた?」
「疲れは全然ないけど」
「よかった。森を歩きなれてない人間には辛いかなって」
「レベルのせいかな。そうでもないかも」
そう言うとミリアは心配そうな顔を緩めて微笑んだ。
「そう言えば、この森の地下にはね。ムーアの大空洞って言うこの森と同じくらい広くて大きな、地下空間があるって言われているの知ってる?」
「ああ、それ俺も聞いたことあるよ。でも誰も行ったこと無いんだろ?」
「私、幼いころにその入口見つけたの」
「それは凄いな」
「だけど、大人たちにそれを言ったら、危ないからもう二度と行っちゃいけないって怒られちゃった」
「そっか」
「懐かしいなぁ。あ、村があった所にもうすぐつくよ。皆帰って来てると良いな」
2
「ミリア! よく無事で!」
村の跡地につくと、そこには沢山のエルフがいた。そしてミリアを見た瞬間、皆一斉に走り寄って来て今にいたる。
「ハリヤとウェルテは一緒では無いのか?」
「父と母は……」
ミリアはそれ以上言う事が出来ずに、視線を落とした。
「そうか……」
「村の方はどうなんですか?」
とミリアは視線を落としたまま訊く。
「こうして生きて戻って来たのは2/3と言ったところだ」
「そう……ですか」
村は酷い状況だった。家屋はどれもが無残になぎ倒され、その残骸が散らばっていた。
「でも、生き残った者も大勢いる。村はまた再建すれば良い。魔王が討伐されたのだ。これ以上不幸は起きまい。して、そちらの方は?」
「ラウルです」
そう言って頭を下げる。
「彼が私を助けてくれたんです。そして彼が魔王を討伐した召喚士です」
ミリアが言った瞬間、村人の間にどよめきが走った。
「なんと! では貴方が、太陽神を召喚して、魔王城結界内の全てを一瞬にして焼き尽くしたという……あの大召喚士ラウル様」
――いや、何と言う、か大分尾ひれがついてるような、合ってるような……
そんな事を思いながら、ぎこちない笑みを浮かべる。
「せっかく来てくださったのに村はこの様な状況、雨風を凌ぐ場所すらありませぬ」
「あの……家が必要だったら俺が召喚しましょうか?」
言った瞬間、エルフたちが目を見開き顔を見合わせた。
「そんな事が可能なのですか? 家を召喚するなど聞いたことが有りませぬが」
「初めてですけど、多分大丈夫です。なんか普通じゃないのしか召喚出来なくなっちゃって」
言いながら、召喚リストだし、そこから『民家』を選び出す。するとさらに別のリストが現れた。
そこには『民家らしき絵』が沢山並べられていた、いや絵と言うにはあまりにリアルだ。そしてどれもデザインが奇抜である。
「なんか、選べるらしいです……どれがいいですか?」
そう言うと。皆は更に驚き、それぞれが感嘆の声を漏らしながらリストを覗き込んだ。
「これなんか可愛いかも」
最初に声を上げたのはミリアだった。
――いや、こう言う時は最後じゃなくて良いのか?
と思ってしまったが、他のエルフたちは寧ろ誰かが最初に言い出すのを待っていたようだ。
「では、一件目」
地に杖を突き立てると、ミリアが選んだ絵と全く同じものが実際に出現した。
村人から一斉に「おお」と感嘆の声がもれる。
上手く行った事にと喜んだのもつかの間、ステータスに警告が現れてしまった。
『上下水道が完備されていません』
『都市ガスが整備されていません』
『発電所がエリア内に設置されていません』
上下水道は分かる。王都には立派なのが整備されていた。
だが、都市ガスに発電所とはなんだろうか。確かにリストにあった気もするけど。
「ちょっと、付属物が必要みたいなので、そちらから先に召喚しちゃいます」
警告が表示されてしまえば、召喚するしかないのだろう。。
リストから『発電所』を呼び出す。そして思わず叫んだ
「高っ!」
そこには目玉が飛び出そうな額が表示されていいた。
お金は魔王を倒した時に、馬鹿みたいに入って来てはいるので、余裕で呼び出せることは呼び出せるのだが。
――でも、もう引っ込みつかないし、やるしかないか。
そして、それを選んだ瞬間、広がった魔法陣の大きさに驚愕する。木に遮られているのもあるが、魔法陣の端が見えない。恐らくこれを実行してしまうと、巨大な何かが出現してしまう事は容易に想像がついた。
「だめだめ、そんなの召喚んしたら森が傷ついちゃう」
ミリアも慌てて止めに入る。
「確かに、これは……」
――とりあえず今日の所は止めとこう。
「すみません。なんか思ったより大きかったので止めておきます」
何とも格好がつかない。
そして、それぞれの選んだ家を次々に召喚した。家が一件出現するたびに、エルフ達が感動したような声を漏らす。
そして全て召喚士終わると、村は歓喜に包まれた。
3
「なんか、色々良く分らないものが沢山ついてるね」
家の中には至る所にボタンがあった。よくそして良く分らない設備も沢山ついてる。ただ、どれにも言えることだが機能はしていないらしい。
恐らく、ステータスに出た警告が関係しているのだろう。
「なんか中途半端なもの召喚しちゃって、悪い事しちゃったな」
「そんな事ないよ。皆喜んでた。雨風がしのげるってだけでも嬉しいのに、ラウルが召喚した家は、私達が前に住んでた家よりも全然立派なもの。王都の宿よりも綺麗で高級な感じがする」
「まぁ、そう言ってもらえれば」
取りあえず、自分としては寝具が付いていた事に大助かりだ。
ミリアが魔法の灯りを各部屋に配置したおかげで、家全体が温かい光に包まれている。
他の家の窓にも明りが灯っている所を見ると、皆ミリアと同じことをしたのだろう。
本当はもっと話合うべき事があったのかもしれないが、自分が家を召喚してしまったため、皆が家の散策に夢中になってしまった。
気づけばかなりの時間になってしまったので、情報を得るのは明日にしようと決めた。そして一番不安なのは、自分がこの森に国を建てると言ったら、彼等がどんな反応をするかだ。
どちらにしても、今日は長旅で疲れた。全ては明日にしようと決めて、横になる。
「隣……良い?」
ミリアが視線を逸らしながら唐突にそう言った。
「あ、いやゴメン!」
うっかりしていた。宿ではミリアをベットに寝かせ自分は床に寝ていたのだ。
慌てて、飛び起きる。
「ラウルはそのままで良いんだよ?」
「あ、いや……でも」
「あれは好きって言ってくれたようなものでしょう? しかも王様の前で」
ミリアは昨日の謁見の間での事を言っているのだろう。その時の羞恥心がリアルに蘇り言葉につまってしまう。
何も言えずに硬直してる自分をよそに、ミリアは布団に滑りこんで来た。
触れてはいないが、それでも彼女の体温を感じる。
「村に戻ってきたら、色々思い出しちゃって。ここは父と母と過ごした思い出に溢れてるから。だから、今は何も言わずにこうさせて」
ミリアはそう言うと、そっと身体を寄せてきた。
「分かった……」
それが、正解だったのかは分からない。戸惑いながらも震える手を伸ばし、彼女の細い身体をそっと抱きしめる。
「ありがとう」
ミリアは小さくそう言うと、顔を此方の胸に埋めた。




