猛将の夢
メフュラ帝国はついにグレイ・デボンテ連合王国に引導を渡す決定を下した。私からしてみれば遅過ぎるくらいだが、穏健派も連合王国が南第二関門まで攻め寄せたことで尻に火がついたのだろう。明らかに帝国を意識した連合だったと言うのに、弱小国の寄せ集めと侮った結果が、堅固を誇る南第二関門、南第三関門の陥落。中央はよく反省してもらいたいものだ。
これを機に、再び陛下が領土拡大政策を推し進めてくれると良いが。
下った命令は、実に帝王らしいものだった。奪われたものを取り返し、連合王国を滅せよ。この乱暴な命が、私には心地よい。
ただ一つだけ気に入らないのは、直前になって我が軍にねじ込まれた一隊、ソリン・イルトイという女魔術師率いる先鋒部隊だ。
名前は聞いたことがある。確か第三王子殿下の付き人で、魔術の師だったはずだ。婚約の話も出ていたと記憶している。そんな女が戦場に放り込まれたということは、相当世渡りが下手か、はたまた嵌められたか。
まぁ、殿下に魔術を教えていたのだから魔術師としての腕は確かなのだろう。全く期待はしないが、使わせてもらう。
「報告! 先鋒部隊が南第二関門を攻略!」
予想よりも早い。私はソリン・イルトイを侮っていたのだろうか。どうやら彼女は王からの贈り物だったようだな。
この一報は連合王国側の戦意を大きく挫くだろう。この機に乗じ、第三関門の攻略も急ごう。
「ほ、報告……! 先鋒部隊、南第三関門を、こ、攻略!」
早過ぎる。とても信じられぬ早さだ。
そして、この伝令兵の怯え方はなんだ。大戦果だというのに、まるで逃げ帰ってきたかのように憔悴しきっている。
何が起きた? どうやってこの短時間で、二つの関を落とした?
「なお、イルトイ殿の率いる先鋒部隊はそのまま連合王都への進軍……」
それはまずい。いくら勢いに乗じて攻め込むにしても、ものには限度がある。明らかな暴走だ。
それに、王都への進撃は中央の指示を待たねばならぬ。
……いや、王の命は連合王国を滅せよというもの。今さら止まれぬ。我らも早く先鋒部隊に合流せねば。
第二関門は炎上していた。生存者の姿は無い。
第三関門も炎上していた。生存者の姿は無い。
連合王都が炎上している。先鋒部隊の姿も、抵抗する敵軍の姿もない。
ただ一人、ソリン・イルトイだけが空から炎を撒き散らし、ひたすらに王都を焼いている。
素晴らしい、素晴らしい魔術師だ。
いや、あの光輪を見るに、彼女は魔人だろう。よもやあのような人物が、まだこの国に埋もれていたとは。
メフュラ帝国は、いずれノイギャリア大陸に永遠の大帝国を築き上げるだろう。ソリン・イルトイがいれば、それは恐らくそう遠くない未来のはずだ。
「散れーッ! あの女から離れるんだァァ!!」
「しょ、将軍ーッ! お逃げくださいーッ!!」
だと言うのに、何故お前は我らに襲い掛かる?
何故、我が同胞を焼く?
どこへ行く。
そっちには行くな。
そっちには、我が故郷が、我らの故郷が。
頼む、悪夢なら覚めてくれ。




