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白灰の国  作者: 陽下 捻
一章
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四話 憎しみの炎と贖罪

「この炎は、どういうことだ。将軍、何をしたんだ」

「は、はははッ……! そうか、これは、そういうものか!!」


 オールトの問いにも答えず、カークはオールトの周囲に炎を振り撒く。


「はは、なるほどな……! こんな力があれば、振り回したくなると言うものだ! お前もこんな気分だったのか、炎の魔女よ!」


 燃やすものが無くなっても、燃え続ける炎。

 この炎は、シェルスティアを焼いた炎の魔女が放った炎と同じだった。

 カークが飲んだものが何だったのか、それはわからない。だが、あの小瓶がカークに炎の魔女と同等の力を与えたのは明らかだ。


「将軍、やめるんだ。その炎は、この街を焼き尽くしてしまう」

「焼き尽くす? そうだ、焼き尽くしてしまえばいい! 一度焼き尽くし、それからやり直す!」


 オールトの声は、もはやほとんど届いていない。力に酔ってしまっているのか、カークは正気を失っている様子だ。周りの兵士も必死にカークを止めようとしているが、炎の勢いが強すぎて近付けていない。


「仕方ないか」


 オールトは意を決し、カークに一歩ずつ近付いていく。カークの恨みを、彼の気が済むまで受け続けてやるつもりだったが、これ以上は他の人々を危険に晒すことになる。それだけは防がねば、シェルスティアの二の舞だ。


「はははははッ!! 殿下、どこにいるのですか! この炎、炎でッ! あなたに死をッ!」


 カークの炎は目からも噴き出し、最早何も見えていないだろう。そして見る見る内に、身体中から炎を噴き出し始める。炎によって身体は崩壊していき、断面からはまた炎が噴き出す。


「もういい」


 もはや見てはいられないとばかりにオールトがそう言うと、頭上の光輪がひと際激しく輝き出す。

 直後、オールトは自身を構成する灰を操りカークに向かわせる。無数の灰は空を飛ぶ大蛇のようにうねりながらカークの身体に巻き付き、纏わりつき、包み込む。


「む、ぐ……!?」


 包囲されたカークは灰にその身を削られるかのように、徐々に小さくなっていく。

 カークは苦し気な声を上げ、炎を噴き出しながら必死に灰から逃れようともがいている様子だが、灰は放たれる炎にすら纏わりつき、中心に引きずり込む。

 程なくして炎の塊を包んだ灰は見えなくなるほど小さくなり、オールトはその灰を身体に取り込んだ。


「ゆっくり休んでくれ、将軍」


 こうしてカーク・レリベウスは跡形もなく消滅した。誉れ高きメフュラ帝国軍を率いた大将軍の、あまりにも呆気ない最期だった。

 周囲に放った炎も、徐々に消えていく。


「将、軍……? レリベウス将軍!?」


 兵士たちが、姿を消したカークを探して狼狽えだす。

 いや、もうわかっているのだろう。目の前で、カークは消えた。彼の放った、消えない炎も消えた。

 彼らが信頼した男は、この世から永遠に失われたのだ。


「お、おのれぇ……! よくも将軍を……! 国を滅ぼしただけでなく、将軍までも……!!」

「ごめん」


 その恨みは、当然のようにオールトに向く。最早かつて自分が仕えた国の王族であったことなど関係ない。オールト・セカンスターは大将軍カーク・レリベウスを殺した仇敵でしかなくなった。

 憎悪の兵士たちは、各々が武器を手に取りオールトに殺到する。

 たとえそれが無意味な行動だとしても、全て受け止めるのが自分の務めだ。そう思い、オールトは刃が届くのを待つ。


「何やってるんですか! 逃げるチャンスですよ!」

「お?」


 しかし、そんなオールトの手をネムが引いた。

 領主が死に、兵士たちには混乱が見られる。脱獄するには最高のチャンスだ。


「いや、しかし」

「あーもう黙ってください!」


 ネムは少女とは思えないほどの力でオールトの身体を引っ張る。仕方なく、オールトもネムとともに駆け出した。


「に、逃げる気か!」

「ごめん」

「絶対に許さんぞ、貴様だけは……!」

「うん、ごめん」

「いちいち答えなくてもいいですって! 逃げることに集中してください!」

「わかった」


 二人は向けられる恨みの刃を掻い潜り、牢屋を脱出する。兵士たちは牢屋を出てからも二人の影を追うが、夜陰に紛れて逃げるネムとオールトを途中で見失った。


「こりゃあ、この街の兵を総動員される前に逃げ出したほうがいいですね! 山の中に逃げますよ!」

「うん。オブライエンはたくましいな」

「慣れてるんですよ、こういうの。じゃ、行きますよ!」


 ネムに促されるままに、オールトは自治領レリベウスを後にする。

 カークと話し、得られるものはあった。しかし、謎がまた増えてしまった。

 カークが煽った小瓶は何だったのか。炎の魔女、ソリンと何の関係があるのか。

 わからないことが山積みだ。オールトは旅が長引くことを覚悟する。

 そして同時に、自分の手を引く少女をどうしようかを考えるのだった。




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