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消失  作者: 群青 ひら
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第3章 痕跡①

食事を終えると、早々にカズヤは帰って行った。


音環はウェイターを呼ぶと、追加で飲み物を注文した。


「何だか……突然な話だったな……」


上を向きながら大河は言った。大河は鼻まで赤くなっていた。


「あれだけ話を聞いても……いないなんて信じられないよ……」


同じく上を向いた音環が鼻をすすりながら言った。そして、


「痕跡か……。すべっタローに会った人みんなにそれとなく聞いてみるかな……。写真とか無くなっても、記憶は残ってるよな。普通」


音環はそう言いながら思った。参った。まさか、こんな別れがあるなんて……。


カズヤが帰ってぽっかりと開いた席は、今にもすべっタローが素知らぬ顔で座ってきそうだった。


「今度、同窓会があるから先生に聞いてみる。すべっタローの家、歩いてだったら今からでも行けるかな……」


音環はそう言って下を向くと涙がこぼれた。


この前は車だったから……通り過ぎただけだ。きっと、そうだ……。


今なら、冗談でした、でいいぞ。すべっタロー。音環は心の中で呼びかけた。

繰り返し自分に言い聞かせる音環の隣で、門亜はぼんやりと紅茶をかき回していた。


……再び、沈黙が覆った。


音環は喉の奥がジリジリと乾いて行くようだった。


しばらくして、

「……そう言えば、大河の方はどう。」


音環は聞いた。もう少し、誰かといたい。


4月から大河は弘前の小学校に勤務していた。


自宅を出て、弘前にアパートを借りている、と言っていた。今までのように許されないから、と大河は髪を肩にかかる程度に切りそろえた髪を見ながら、不思議に思っていた。


自分から希望したって言っていたな……。

まあ、俺も少ししたら弘前に引っ越すけどさ。


音環は偶然、と言うには奇妙に感じる縁を感じていた。


「環境が変わったから、慣れるまではいろいろとな……」


大河は言葉を濁した。そして、話題を変えるようにそれとなく明るく言った。


「そう言えば、今度……と言っても秋口だが、空河のところに子どもが生まれる」

「「えっ!」」


音環と門亜の声が合わさった。展開が早い……。音環と門亜が驚いていると


「しかも双子らしい。だから、大事をとって空河の嫁さんいったん仕事を辞めると言っていた」


と大河は続けた。


「え、じゃ、奥さん、昼間は婚家に1人?」


大河と空河を誰よりも大切にしている、あのじいさんとばあさんの家に?

と、音環が驚いていると、


「ジジババに正しい後期高齢者の生活を教育するって言っていたぞ。空河の帰りが遅くても探しに出ない、夜は自転車に乗らない、って厳しく言うらしい。空河から聞いた」


あー。声を合わせると、音環と門亜はすべっタローの軽トラに乗り込んで竜飛崎まで来たじいさん達を思い出した。


「大丈夫なの?それ」


門亜は面白がりながら聞いた。


「うまく行っているようだよ。それどころか、2人とも空河の嫁さんを気に入ってアルバムを広げているみたいだ。

空河がいつまでおねしょをしたとか……。とうとうそんな話までしたらしくて、空河がしょげていた」


それ、辛いわ……音環と門亜は笑い出した。そして、それ、一番つらいやつ、と音環は空河に同情した。


「そう言えば、変なことを言っていたな……ジ様」


「変なこと?」


音環の返事に大河はうなずいた。


「空河から聞いた話だ。昨年、竜飛崎に行った時の話になったんだが……」


どう伝えたものか。大河の顔は一瞬迷っていた。


「あの時はすべっタローの車に乗せてもらったはずなのに、音環に乗せてもらったことになっている。」


えっ。音環と門亜は大河の顔をじっと見た。もう、記憶からも消失がはじまっているのか?


音環の心の中で、何か重いものがゆっくりと沈んでいくようだった。


「2人とも同じ話をするから、ボケているとかじゃないと思う」


大河の話を聞いた音環は、のんびりしていられない!と、冷めたコーヒーを飲み干した。


「ありがとう。大河。今から歩いてすべっタローの家に行ってみる」


そう言うと、音環は伝票を持った。そして、会計を済ませると喫茶店を出た。

門亜も慌ててついて行った。




「さっきの話、どう思う?大河のじいさんたちの話……」


音環は隣を歩く門亜に聞いた。門亜は押し黙ったままだった。


2人は改札をくぐると、ホームに出た。


幸い、電車はすぐに来た。音環は待ちきれない、とでも言うかのように、扉が開いた途端電車に乗り込んだ。そして、流れていく景色を見ながら、考え込んだ。


すべっタローが消える……理由は分からないが、今実際に起きている。そして起きているのはまるですべっタローが最初からいなかったかのように記憶までが書き換えられている、と言うことだ。


音環はちらり、と門亜を見たが、相変わらず門亜は押し黙ったままだった。


出来れば、何か反応してほしかった。その反応に合わせて、俺も気持ちをコントロールできるんだけど……やばい。俺、感情が暴走しそうだ。


慌てて、目線を窓の外に持って行った。


気を紛らわせよう。門亜が悪いんじゃない。感情をコントロール出来ない俺が悪いんだ。でも……どうすればいいんだ?


音環は1年以上前、門亜に拒絶をされた時のことを思い出した。あの時も、俺、全部捨ててどこかに行こうって思っていたよな。


やばいな……仲間を失う、と知るとこうなのか。せめて、今回はどうにか理性を保ちたいぞ。でもさ……前回落ち着かせたのがすべっタローだったんだよな。何の皮肉だよ。


読んでくださりありがとうございます。

第3章 痕跡を公開しました。

このエピソードは4つに分かれます。

よろしくお願いします。

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