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消失  作者: 群青 ひら
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第7章 謝絶①

今日はお代はいいよ、と店主は言った。そして、これからも来てね、と続けた。


「なんか……凄い話を聞いた気がするよ。すべっタローと会えたのも奇跡だけど、ずっと一緒にいられたのは奇跡以上のことだったんだな」


熱を冷ますように、駐車場で立ったまま音環は言った。


「ああ……同感だ。でも、もしかしたらすべっタローも同じことを思っているかもしれないな。ずっと、小学校に縛られていたんだろう?それが、成長して、縛られることが無くなって、今は俺たちと同じ体を持って一緒の時代に生まれてこれるんだからな」


大河はそう言うと、


「カズヤには俺から言っておくよ。音環からだと……端折りすぎる」


と続けてニヤリ、と笑った。


音環は、どうせ国語は悪かったですよ、と言い返した。


「でもさ、1つだけわからないことがあるんだ。すべっタローの家に行った話したろ。カレー食べたりホットケーキ食べたり。味もしたし胃の中に納まる感覚もあったんだ。不思議だろ。あれ何だったんだろうって」


音環はポツリ、ポツリ、と言葉を選びながら言った。気を付けないと、この言い方はただのオカルトだよな……。


音環の話を聞きながら、羨ましいぞ、と一言言った大河は続けた。


「これは想像なんだが……すべっタローの心の情景にお前たちが招かれたんじゃないか?一番美しい状態のリンゴ畑と、両親と祖父母がそろった時の……すべっタローが一番幸せだった時の情景の中に入り込んだんじゃないかって俺は思う」


心の情景に招かれる……か。確かにそうかもしれない。


いつ行っても、リンゴ畑は美しかったし、ばあちゃんがホットケーキを焼いてくれた、と困惑しながらも嬉しそうに言っていた。


そうだ。俺たちはきっと、すべっタローの心の情景に招かれたんだ。


大河を駅に送ると、音環と門亜は家に帰った。


玄関を開けた時だった。門亜が口を開いた。


「ね……。あの日弾いてくれたギター、聞かせてくれない?」


音環は驚いて門亜を見た。久しぶりに聞く門亜の声だった。


「すべっタローの農園に行った後、ボクが倒れちゃった日に聞かせてくれた曲。切なくて悲しかったけど、でも温かかったんだ。聞かせてほしくて」


音環はうなずいた。そして、遅い時間だから防音室に行こう、と言った。門亜を先に防音室に行かせると、音環は自分の部屋からアコースティックギターを持ってきた。


ソファに腰かけて軽くチューニングをすると、音環は弦を弾き始めた。


低い、温かみのある音が流れだした。


門亜は向かいのソファに座って、頬に手を当てて音環の奏でる音を聞いていた。


大好きな、音環のギター。


小学校の時に防音室でボクにギターとベースを教えてくれたこと。


多分、僕の半分は音環の音で出来ている。


ありがとう……。そして、それも今日でおしまいだ。


門亜は目を閉じた。


音環のギターの音が止まった。門亜は軽く息を吸うと言った。


「音環……ありがとう。迷惑かけちゃったね」


ん?と音環は答えた。いつもの言葉遣いに戻ったことに気が付いた音環は心なしか笑顔が浮かんでいた。


「ごめん……ボク、音環と一緒にいるとダメになる。もう、会わない」


そう言うと、門亜は防音室を出て荷物のある和室に向かった。


音環はあっけにとられた。俺がいるとダメになる?どういうことだ?


そして、音環が声をかけられないでいると、門亜は荷物を持って音環の家を出て行ってしまった。


……何だよ。これ。


音環の中に冷たいものが忍び寄った。


そうか、俺は拒絶されたんだ。

何だよ。もう……いいや。


音環はギターを置くと、電気を消した。そして防音室の扉を閉めると、自分の部屋へと向かった。


音環はスマホを取り出すと、弘前市のアパートの情報を開いた。


翌日、ろくろく調べないで契約をしに行くと、そのまま引っ越しの手配をした。


7月。音環は弘前の支店に異動をした。




――2年が過ぎた。


雨がしとしとと、毎日降り続いていた。日が射さない日が増え、肌寒い日が続いていた。


大河から音環に連絡が来た。空河の子どもも少しだけ大きくなって、音楽活動ができる程度に自由が出来たらしい。


手つかずになっていたすべっタローの最後の歌を編曲しないか、というものだった。


大河が提示した日は、ちょうど音環にとって外せない用事がある日だった。


「まあ、食事しながら打ち合わせ……と言うか顔合わせに近いな。2年間SAKIOTTEの活動していなかったし、みんな生活のサイクルが変わったからそのすり合わせだ。その次辺りから来てくれると嬉しいんだが」


大河は言った。


「俺、ギター全然弾いていないよ?弘前に来てからずっと。今弾いて、と言われても多分ロクな演奏が出来ないと思う」


音環はそう答えると大河は


「まあ、練習あるのみだ」


とだけ答えた。何だよ。俺抜き、という選択肢はないのかよ。


「とりあえず、週末家に帰れる日は帰ってみるけどさ。あまり期待しないでくれよ」


そう言って音環は電話を切った。


読んでくださりありがとうございます。

第7章 謝絶です。この章は4つに分かれます。

門亜が飛び出して行きましたが、理由がありました。

少しだけ、門亜の気持ちが出るま見守っていただけると嬉しいです。

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