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消失  作者: 群青 ひら
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第6章 足跡④

――翌日、定時で上がると音環は一旦家に戻った。そして着替えていると門亜が起き出してきた。


「門亜、ラーメン一緒に食べに行くかい?」


嫌がるかな……と思ったが、音環は声をかけてみた。すると、門亜はこくん、とうなずいた。


門亜を助手席に乗せると、音環は駅へと向かった。そして、駅前で待っていた大河を車に乗せると、そのまま煮干しラーメンの店に向かった。


いらっしゃい、と店主の威勢のいい声が響いた。そして、音環たちの顔を見ると、あっ、と言う顔をした。


「今日は3人なんだね」


「ええ……ラーメン、3人分お願いします」


音環は言った。そして、大河に何か追加する?と聞いた。


「俺は餃子かな」


大河は言った。音環は店主に餃子も3人分で、と伝えた。


店主は麺をざるに入れると湯の中に入れた。そして素早く湯を切ると、温めたどんぶりに入れた。スープを回しながらかけると具材を載せた。そうして3つあっという間に出来上がった。


「すべちゃん、もう来ないんでしょう?」


店主はカウンターにラーメンを載せながらポツリ、とつぶやいた。突然の質問に、音環が黙っていると


「すべちゃんのアドレスがね。消えているんだ」


店主は言った。そして、冷凍庫の前に行くと、餃子を取り出した。


「実はね……すべちゃん、僕のおやじの同級生だったんだよ」


餃子が入ったフライパンを火にかけると店主は戻ってきて言った。


「下校の時に事故にあったらしい……。すべちゃんちね、お父さんはもう亡くなっていてジジババとお母さんがリンゴ園を守っていたんだ。それですべちゃんが亡くなったでしょう。


親戚に説得されて、お母さんはほかのお家で再婚して、ジジババと畑は親戚が面倒を見ていたみたい」


そう言うと、店主は寂しそうに微笑んだ。


音環は、前に見た荒れ果てたリンゴ園を思い出していた。


「その親戚ももうなくてね……」


音環と大河のラーメンを食べる手が止まっているのを見て、店主は慌てて、伸びちゃうから食べて、と言った。


音環はすべっタローの言葉を思い出していた。よく「かあちゃんに怒られる」「かあちゃんに怒られた」と言っていた。


小学校の時、テントをお父さんが張ってくれたけど、姿は見なかった。


お父さんの話をしたくても、出来ないくらい小さなころに亡くなったのかな……。音環は目の奥が熱くなってきた。


店主が餃子を3皿持って戻ってきた。


「すべちゃんとは僕が小学校6年の時だったかな。知り合ったんだ。その頃の僕は引っ込み思案でね。学校も休みがちだったんだけど、すべちゃんが一緒にいてくれたから、徐々にクラスの輪の中に入って行けたんだよ」


ここにもすべっタローが世話を焼いた人が1人……。先生は、少しすると満足して消える、って言っていたけど……。


世話を焼いた人がもう大丈夫だ、と思えたから消えた、と言う訳だったんじゃないか?


「ある日さ、すべちゃんをおやじの店に連れて行ったんだよ。おやつをご馳走しようと思ってさ。そしたらおやじびっくりして……。その時はおやじは何も言わなくて、後で教えてくれたんだ」


店主は小さなどんぶりに麺とスープを入れると煮干しを一匹浮かばせて、カウンターの上に置いた。


「お互いの家を行ったり来たりしていたんだけどいつの間にかいなくなっちゃってね。


クラスの子に聞いてもすべっタローなんて知らない、って言うし。給食の班、一緒だったんだよ。信じられないよね」


そう言うと、店主はどんぶりに向かって手を合わせた。


「すべちゃん、煮干し好きだったよね」


何だろう……今日のラーメンは塩気が強いや。音環は思った。今、目の周りが湿っているのは湯気だ!


そう、自分に言い聞かせたが、頬を伝う涙は唇を濡らし、そして首筋に落ちて行った。


「君たちが高校生の時にすべちゃん連れてきてくれて……僕のことは覚えてなかったのは寂しいけど、でも会えてうれしかったよ。会わせてくれてありがとうね。


でも、もう会えないんだね……」


店主はそう言うと、厨房の奥へと行った。そして、肩を小刻みに震わせて、静かに涙を流した。


音環は黙々とラーメンを口に運んだ。


そう言えば、高校の時にここに連れて来たのはすべっタローだ。本当は覚えていたんじゃないか?それとも縁だったのだろうか。


もう、確認するすべはないが……。


音環がラーメンを食べ終わるころ、意外にも門亜はきれいに食べ終えていた。


「足りる?お腹空かない?」


と音環は声をかけたが、門亜は大丈夫、というように音環の質問にうなずいた。


大河をちら、と見たが、大河も目を赤くして黙々と食べていた。


不思議と、音環はすべっタローがいないことを受け入れ始めている自分に気が付いた。長い間、その人懐っこさで人を救って来たんだな。なのに長い時間、俺たちと一緒にいてくれたんだな。


そっちの方が、奇跡だったんだ。


第6章はこのエピソードで終了です。

高校生の時、かつて一緒の小学校だったクラスメートがやっているラーメン屋にすべっタローが行ったのは、気が付いていたのかそれとも引き寄せられるように行ったのか……。

いずれにしても、縁だったんだろうなと思います。

読んでくださりありがとうございます。

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