第2章 消失①
音環はリビングに入ると、大河にラインを送った。
『すべっタローのメッセージが無いんだ。大河はある?さっきすべっタローの家に行ったら、家に入る路地が消えているんだ』
音環は誤字の確認もせず、送信ボタンを押した。門亜も誰かにメッセージを送っているようだった。
大河からはすぐに返事が来た。
『俺のラインにもすべっタローがいない』
少しして、音環のスマホの通知音が鳴った。大河だった。
「空河もないって言っていた。みんな同じなら、スマホの機種変ミスか?電話は?したのか?」
矢継ぎ早に質問をする大河の言葉に、音環ははっとした。そうだ、電話はまだしていない。
焦っていて忘れていた。……早く電話して、このざわつきから解放されたい。
「大河、ありがとう。電話してみるよ」
音環は慌てて電話を切ると、スマホの電話帳を開いた。すると。
ない。すべっタローの電話番号がない。
ラインの通話があるし、電話帳から直接かけてしまうから、番号なんて……覚えていなかった。
音環は昨年機種変したときのことを思い出していた。あの時は2つ携帯を並べて、抜けがないかを確認した。だから、すべっタローの番号は漏れてはいないはず。なのに。
「門亜、すべっタローの電話番号……ある?」
恐る恐る音環は聞いた。なぜだか、答えはもう出ているような気がした。
「音環……ボクのスマホからも、すべっタローの電話番号、消えてる……」
門亜が震える声で言った。そして、音環と2人顔を見合わせた。
音環は慌ててグループチャットにメッセージを入れた。
『すべっタローの電話番号、知らない?消えているんだ』
音環のメッセージに、大河と空河からも
『電話帳から消えている』
と返ってきた。
音環はじりじりと焦りだしてきた。あるものがない。いるものがいない。
データを紛失したような焦りに似ていると音環は感じた。カバンの中で小さなものをなくした、どこかにスマホを忘れて来た、そのような焦りだった。
きっとある、すぐに出てくる。そう思う反面、もう二度と出てこないのではないか、と言う焦りを感じていた。
どうか、機種変の失敗でありますように……。音環は動かない画面をじっと見つめながら祈った。
無事であれば、数日つながらないくらいなんてことはない。こんな、理由なくつながらないと言うのは初めてだ。
胸の奥がジワリと冷えていくのを音環は止められなかった。
その時、グループチャットにメッセージが入った。カズヤからだった。
『音環、家にいる?小学校か中学校の卒業アルバム、まだ持ってる?あったら見てほしいんだけど』
カズヤのメッセージに音環はドキリ、とした。その言い方はもしかして……。
音環は2階に上がると、物置になっている部屋でいくつかの箱をひっくり返した。そして、卒業アルバムを見つけると、リビングに戻った。
『その中にすべっタローはいるか?』
カズヤのメッセージが入っていた。音環は軽く埃を落とすと、個人個人が写っているページを開いた。
すべっタローは隣のクラスだったから……2組だ。
音環は端から順に、顔と名前を見ていった。確か……本当にすべっタロー、と書いてあったはずだ。名字は……忘れたけど。
2組のページにはすべっタローはいなかった。念のため3組も見たが、3組のページにもいなかった。
音環は中学の卒業アルバムを開いた。そして、個人のページを丁寧に開いて行ったが、どのページにもすべっタローは載っていなかった。まるで、最初から無かったかのように消えていた。
『見つからない……』
音環はメッセージを返した。すると、少ししてカズヤからメッセージが入ってきた。
『やっぱり……帰っちゃったんだね』
帰った……?カズヤからのメッセージに再び音環と門亜は顔を見合わせた。
『どういうことだ?』
大河からメッセージが入ってきた。すると、カズヤからは
『来週の土曜日、青森市に行くけど、だれか会える?』
と返事が返ってきた。その瞬間、それぞれのスマホからスタンプが押されてきた。
『出来れば直接話したいんだ。本当は東京を離れたくないんだけど。青森に行くよ。何処かいいところある?』
カズヤのメッセージに
『俺が商談で使っている喫茶店はどうだ?落ち着いていて騒がしくないし、話をじっくりするにはお勧めだ。メニューはナポリタンくらいしかないけど……』
音環はメッセージを送った。すると、スタンプでOKと返ってきた。続いて大河からは
『空河は来れないから、俺だけになるが……』
とすまなさそうなメッセージが返ってきた。
『それじゃ、昼前に喫茶店で』
音環はメッセージを返すと、喫茶店の場所を地図アプリから共有して送った。
「ボクも……帰るね……」
門亜はそう言うと、とぼとぼと音環の家を出た。
読んでくださりありがとうございます。
第2章 消失です。
この章は3つに分かれます。
高校生の時のエピソードは別の作品で書く予定です。




