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消失  作者: 群青 ひら
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第1章 プロローグ・さすまた

門亜は音環からのライン通話で起こされた。


もう少し寝ていたいんだけどな……。いいや、後でかけようと布団をかぶると、今度はメッセージが来た。


『すべっタローに連絡を取りたいんだけど、すべっタローのアイコンがないんだ。門亜、メッセージ頼めない?』


アイコンが消える?もしかしてブロック?


門亜はいきなりの音環のメッセージにしばし考え込んだ。よっぽどのことがないとすべっタローは怒らないし、今まで怒ったのは見たことがない。


『音環、何かすべっタローを怒らせるようなことをしたの?』


けだるそうに門亜は音環に返事を返した。


『いや、すべっタローに頼まれていたさすまたが届いたから、連絡しようと思って』


さすまた、の文字に門亜はイラっとした。ギタリストなんだから、さすまたじゃなくギターを握ってよ!


『さすまたですか。さすまたの代わりにギターを握っていただきたいのですが』


門亜は気持ちを静めながらメッセージを送った。メッセージを送るたびに、頭がはっきりしてきた。


せっかく昼過ぎまで寝ようと思っていたのに。


起こされるし、さすまたなんてトンデモナイものをすべっタローに普及させようとするし。……今日、寝られるのはここまでかあ。


門亜は布団の中でがっくりすると、のろのろ起き出した。


音環から返信が届いた。


『いろいろと変なんだ。3本セット頼んだのに一つしか来ないから購入履歴を見たら1つしか頼んでないことになってる』


門亜は3本セット、の文字に再びイライラとした。


何でうちのバンドはさすまたを当たり前のように持っているんだ!いっそ、SAKIOTTEじゃなくてS(・)A(・)S(・)U(・)M(・)A(・)T(・)A(・)M(・)O(・)T(・)T(・)E(・)にして防犯活動に貢献してはどう!


ちょっと待って、と誰に言うのでもなく声を出すと、スマホの画面を開いた。


……あれ?


トーク画面からすべっタローのメッセージが消えていた。


『ボクのも消えてる。すべっタロー、機種変した?』


『聞いてないけど、案外そうかもな。新しいもの好きだし。いいや、直接すべっタローの家に行ってみる』


門亜はガシャガシャとさすまたを持って歩く音環の姿を想像してにやっとした。職質受ければ少しは反省するかな?あ、でも。


1月近く前に、リンゴ畑の手前で飲み会をしたときのことを思い出した。


家の人にお礼言ってなかったや。ボクも行こうかな。


『ボクも行こうかな。この前の飲み会のお礼、言っていないし』


門亜はメッセージを返した。


『じゃあ、午後にどう?もうそろそろリンゴの受粉の時期のはずだから、忙しくなるだろうし』


門亜はOKとスタンプを返した。


そして、顔を洗うと着替えを始めた。


門亜の脳裏には、高校の時に受粉作業に駆り出されたすべっタローのりんご園の風景が浮かんでいた。


納屋の前がちょうど小高くなっていて、そこに立つとすべっタローのりんご園が一望できた。今の時期は、なだらかに白い花をつけたリンゴの木が、線を描きながら広がっているだろう。暖かい風がりんごの甘い香りを運んで来ているはずだ。


きっと、今頃すべっタローは、ふにゃーと言いながら上手くいかない設定にゴロゴロ悶えているに違いない。


冷蔵庫を開けるとスムージーを取り出した。そしてグラスにあけるとグイっと一気に飲み干した。


そして、身支度を整えると、音環の家へ向かった。




音環は車を家の前に置いて待っていた。


「トークルームにもいないんだよ」


ほら、と音環は画面を見せた。


「普通なら、退会しましたとか……あるだろ?それがないんだ」


音環のトーク画面にはいくつものやりとりが並んでいた。トークルームにもバンドの連絡のやり取りが並んでいる。ただ……すべっタローのメッセージだけがきれいに消えていた。


「つららエクスカリバー、好きだったんだけどな……」


スマホの画面をスクロールさせながら、音環はつぶやいた。そして、気を取り直したように、門亜に乗って、と助手席へ促した。


「近いから歩いて行ってもいいんだろうけど。さすまたがあるから車じゃないとね……」


用もないのに持ち歩いたら不審者だよな……。ちょっとは期待したんだけどね。門亜は窓の外を眺めながら思った。


小学校の脇を通ると、桜が散りだしていた。まるで雪が降っているかのようだった。散った花びらが道路の隅にたまり、車が通りすぎるたび舞い上がった。


「すっかり春だな……」


音環はつぶやいた。


この路地を曲がるとすべっタローの家に向かう。そこへ差し掛かった時だった。


「あれ……?」


路地がなかった。


見落としたかな、と、音環は少し先で車を切り返して戻ってみた。……何度通っても道がない。すべっタローの家は近かったからカーナビに入れていなかった、音環は悔やんだ。入れておけばよかった。


別の道から行けないか。近くの道を探そうと、ぐるぐる町内を回りだした。……ない。何度探してもない。


すべっタローの家に向かう道も、その道につながるであろう別の道も。何かがおかしい。


音環は門亜と顔を見合わせると、いったん音環の家へと戻った。


読んでくださりありがとうございます。

群青ひらです。

第4作目 消失を公開しました。

すべっタローの消失と、彼とかかわった人たちの関係変化の話です。

どうぞよろしくお願いします。

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