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消失  作者: 群青 ひら
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第4章 正体②

――同窓会からの帰り道、音環はすべっタローの家に入る路地のあった場所の前を通りかかった。


きっと、ここはすべっタローの家があった場所なんだろう。そうじゃなきゃ、つじつまが合わない。


でも、何で小学校に現れたのか……普通は家か、家のあった場所じゃないのか?


音環は担任から聞いた話を、門亜にどう伝えたものか考えあぐねた。そのまま伝えたら混乱するか、それとも、2度と会えないということをはっきりさせてしまって悲しませるか……いずれにしても、今伝える話ではないだろう。


とはいえ、いつかは伝えないといけない。門亜だけ知らなかった、なんて避けなければならない。


と言ってもな……。


音環は見舞いに行った時の、天井をじっと見つめる門亜の姿が脳裏に浮かんだ。壊れやしないか。今度は門亜を失いやしないか。


ただ、それだけが怖かった。


ふと、音環の頭に大河の姿が浮かんだ。俺のいた小学校に勤務したことはなかったが……そう言った噂とか聞いたことなかったか?


音環は思わず通話ボタンを押した。


少し遅い時間だったにもかかわらず、大河はすぐに電話に出た。


「今日、同窓会があってさ。6年の時の担任に聞いたよ……。すべっタローは昔からうちの小学校にいたらしい」


音環は開口一番伝えた。


「ん?どういうことだ?」


電話の向こうの大河は戸惑っていた。


「いつの頃からいたのか分からないけど、現れては小学校生活を送っていたらしい。俺たちに出会って、ずっと一緒に育ってきたのだろう、と先生が言っていた」


スマホの先の大河は黙ってしまった。それはそうだろう。少し前聞いた俺ですら、半分しか理解できていない。


音環はそれ以上伝えることが出来なかった。


少しして、ふぅ……大河の呼吸を整える音が聞こえた。


「音環のいた小学校に赴任したことなかったからな……。俺もちょっと調べてみる。歴史がある小学校だから、いろいろ写真とかあるだろ」


あまり、霊とか信じる方じゃないんだがな……と大河のつぶやく声が聞こえた。


「俺……すべっタローがいなかった人間だったなんて信じられないんだ。一緒に酒飲んだし、俺の部屋で豚足食べてたし!部屋に臭いだって残ったし……」


音環は目の奥が熱くなった。そしてキュウと痛くなった。涙がこぼれて仕方なかった。


「俺もだ……音環。そもそも、俺たちを結びつけたのも、すべっタローだろ。カズヤを結びつけなかったら、俺たちにたどり着かなかったんだからな」


音環は涙をこぼしながらうなずいた。


そうだ。カズヤが、大河たちに伝えてほしい、と言って大河たちが写った写真から家を探しに行ったんだ。カズヤと俺たちを結びつけたのは、すべっタローだ。


大河は続けた。


「人生の半分以上を、お前たちもだが、すべっタローと過ごしているんだ。あいつが作った歌、耳に残る歌声。MVから消えていたって、俺たちの中ではしっかり存在していたんだ」


大河の言葉に、音環は何度もうなずいた。涙が道路に落ちては染み込んでいった。


「恐らく、音環の担任が言ったことが正しいのだろう。なら……すべっタローのことをきちんと知らないといけないかなと、そんな気がしてきた」


大河の声も、心なしか潤んでいるようだった。


「少しだけ時間をくれるか。都合つけて音環たちが言っていた小学校に行くから」


じゃ、とお互いに言うと、通話が切れた。


音環はふと空を見た。


初夏の空気が、瞬く星々をやんわりとおぼろげにさえぎっていた。

その柔らかさが、さっきまで、本来はいない存在としてのすべっタローを、自分たちを選んでくれた、自分の意志を持った存在に思えてきた。


音環の目に、街路樹の姫リンゴの花が飛び込んできた。


リンゴの花が咲いたからってすぐに旅立つかよ……。

じわり、と再び涙が込み上げてきた。




「担任に聞いたよ。すべっタロー、昔から俺たちの行っていた小学校にいたらしい」


週明け、音環は門亜の病室を訪れた。日が落ちるのが延びたのか、食事の時間が終わっても空は淡く光を残していた。


「どういうこと?」


門亜は起き上がれるようになっていた。枕を背あて代わりに寄りかかっていた。


「うん……。先生が言っていたんだけど、たまに現れては小学校生活を送っていたらしい。いつの頃からかまでは分からない、と言っていた」


門亜は音環の目をじっと見ながら聞いていた。にわかに信じられなかったが、音環が嘘をつくとは思えなかった。


音環は続けた。


「ある程度たつと満足するのか、消えるらしいんだ。そして、消えるときには、一緒に過ごしていたクラスメートの記憶からも消えるらしい」


記憶からも消える……門亜は口の中で反芻した。


「この話、大河にしたんだ。もしかしたら、噂とか知らないかって思ってさ。そうしたら調べてみるって言ってくれた。俺たち……痕跡は消えてしまっても、ずっといたのは嘘じゃないだろ」


門亜は頭の中がぼうっ、としてきた。


まるで、すべっタローが幽霊だと言っているみたいだ。でもさ。うたた寝しているすべっタローの髪の毛をあちこちゴムで大河と音環、縛っていたよね?実体、あったよね?


よくわからないや……。


門亜はごそごそ、と布団の中にもぐった。


音環と大河はどちらもSAKIOTTEの兄貴分のようですが、こういう時、一番頼りになるのは大河なのかなと……思いました。

でも、いつも兄貴でいたら折れてしまう。

多分、音環と交互に上手くやっているのかもしれませんね。

読んでくださりありがとうございます。

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