第二話 コンプライアンス ⑤
夕方。
捕らえたヌスット一味を警備兵に引き渡したゼルたちは、三人揃って町を歩いていた。
「ゲスオさん、お身体くっついてよかったですね!」
隣を歩くゲスオを見ながら、ソフィは安心したように声をかける。
「ホントでゲス。上半身と下半身が離れた時は、もうダメかと思ったでゲス」
ゲスオは自分の腹をさすりながら、しみじみと答えた。
「それにしても、こんなに綺麗にくっつくなんて……」
ソフィは傷跡一つ残らず元通りになったゲスオの腹を、まじまじと見つめながら感心する。
「俺の斬り方が良かったんだろ」
ゼルは自分の手柄だと言わんばかりに、得意げな顔をする。
「いやいや私の回復魔法が良かったんですよ」
「なにィ?」
張り合うソフィに、ゼルは不満そうな顔を向ける。
「まあまあ」
二人の間に挟まれたゲスオは、にこやかな笑みを浮かべながら仲裁に入った。
「どちらも良かったってことで、一件落着でゲス!」
「ま、そういう事にしといてやるよ」
「仕方ないですね」
ゲスオの言葉に、ゼルとソフィも渋々納得する。
「それじゃ、納税しに行くでゲス〜!!」
ゲスオの掛け声を合図に、三人はさっそく出発する。
――こうして三人は、意気揚々と税務署へ向かうのであった。
★★★
税務署へとやって来た三人。
窓口で手続きを済ませると、税務職員が書類を確認しながら告げる。
「では納付を確認しました」
「これで一安心でゲス」
無事に納税を終え、ゲスオはほっと胸を撫で下ろした。
「よっしゃ、帰ろうぜ」
「そうですね」
すっかり用事を終えたゼルとソフィは、その場を後にしようとする。
「あの〜」
しかし、そんな二人を税務職員が呼び止めた。
「なんだよ?」
ゼルが面倒くさそうに振り返ると、税務職員は淡々と用件を話す。
「盗賊団から回収したお宝の引き渡しをお願いします」
「ゲッ、なんでお前がお宝のことを知ってんだよ!?」
思いもよらない言葉に、ゼルの表情が引きつる。
「捕まった盗賊たちが自白したと、警備団から連絡魔法で報告がありました」
「なんだと!?」
盗賊たちに密告に、ゼルは驚きの声を上げる。
「なんでも、『あの悪魔共にお宝を渡してはいけない』だとか……」
税務職員が付け加えると、ゼルは悔しそうにギリギリと歯を食いしばった。
「俺たちはお宝なんて知らんぞ。なあソフィ?」
「そ、そ、そそそそそうですね! わわわ私は何も知りませせせせんYO!!」
「それ以上とぼけるなら警備兵を呼びますよ?」
あまりにも分かりやすい二人の態度に、税務職員は容赦なく警告する。
「ちくしょう…………」
もはや言い逃れはできないと悟り、ゼルはがっくりと肩を落とした。
そして観念したように、持ち帰ったお宝をすべて税務職員へと引き渡す。
「ありがとうございます」
お宝を受け取った税務職員は、事務的に礼を述べた。
だが、税務職員の話はまだ終わりではなかった。
「ところでゲスオさん」
「なんでゲス?」
突然名前を呼ばれ、ゲスオは不思議そうに税務職員を見る。
「あなた、今日でクビです」
「な、なんでオイラがクビなんでゲス!?」
あまりにも突然の宣告に、ゲスオは目を見開いて声を上げる。
「コンプライアンス違反です」
「ちょっと待ってほしいでゲス! オイラ、パワハラもセクハラもしてないでゲス!」
まったく心当たりがないと言わんばかりに、ゲスオは慌てて身の潔白を訴える。
「いや盗賊のお宝を盗んで私腹を肥やそうなんて、立派なコンプライアンス違反ですよ。なんなら犯罪です」
「そ、そんな……」
ゲスオは反論する言葉も見つからず、口を半開きにしたまま呆然と立ち尽くす。
しかし、そんなゲスオに税務職員はさらなる追い打ちをかけた。
「犯罪者を匿っていると思われれば、税務署の信用問題になります。ですので今日中に社宅から退去してください」
仕事だけでなく住む場所まで失うことになってしまったゲスオ。
「ゲ……ス……」
ゲスオは絶望してその場にガクリと膝をつく。
そんなゲスオのもとへ、ゼルが静かに歩み寄った。
「ゲスオ」
ゼルはそっとゲスオの肩に手を置く。
「ゼルさん……!」
半べそになったゲスオは、ゆっくりと顔を上げる。
ゼルとゲスオ。二人はしばらく無言で見つめ合い――
「じゃ、俺たち帰るから」
「ゲスオさん、お疲れ様です」
そのまま立ち去ろうとする二人に、我に返ったゲスオが慌ててゼルの足にしがみつく。
「ちょっと待つでゲス!! この歳で無職になって、オイラどうしたらいいんでゲス!?」
「知らねえよそんなの。『自己責任』だろ」
ゼルは泣きつくゲスオを冷たく突き放した。
「そんなの酷いでゲス!!」
ゼルのあまりにも冷たい言葉に、ゲスオの目からボロボロと涙が溢れ出す。
「オイラ達の世代の不幸は、いつまで経っても『自己責任』で片付けられるでゲス!! 非正規が多いのも、年収が低いのも、未婚率が高いのも、全部『自己責任』でゲス〜!!」
ゲスオはゼルの足にしがみついたまま、積年の恨みをぶちまけるように泣き叫んだ。
「いや、今回の件は世代関係なくゲスオさん本人の問題なのでは……?」
黙って聞いていた税務職員が、もっともな疑問を口にする。
しかし自分に都合の悪い正論など耳に入らないのか、ゲスオは構わず泣き叫ぶ。
「オイラ、ここをクビになって社宅も追い出されたら、どうすることもできないでゲス! 人生終わりでゲス〜!!」
ゼルの足にしがみついたまま泣きわめくゲスオを見て、さすがのソフィも放っておけなくなる。
「あの、ゼルさん……」
「なんだよ」
「私たちにも責任はありますし、教会で雇ってあげるというのはどうですか? 人手も足りませんし」
ソフィは泣き続けるゲスオを気にかけながら、そう提案する。
「やだよ面倒くせえ」
「そこを何とか頼むでゲス!!」
ゲスオはゼルの足にしがみついたまま、必死に頼み込む。
「う〜む…………」
あまりの必死さに、ゼルもしばらく考え込む。
「……仕方ねえな」
「やったでゲス!」
先ほどまで泣きわめいていたのが嘘のように、ゲスオの表情が一気に明るくなる。
「よろしくお願いしますね、ゲスオさん!」
ソフィも新たな仲間を歓迎するように笑顔を向けた。
「お二人ともよろしくでゲス! オイラ、身を粉にして働くでゲス〜!」
――こうして、ゼノビア教会に新たなる仲間が加わったのであった。
◇◆◇ 第二話 完 ◇◆◇




