第二話 コンプライアンス ④
三人は小屋にあった金貨や宝石を鞄いっぱいに詰め込むと、意気揚々と出口へと向かった。
「大漁でゲス!」
パンパンに膨らんだ鞄を抱え、ゲスオは嬉しそうに声を弾ませる。
「うぐぅ……重いです……」
一方ソフィは、ずっしりと重い鞄を抱えながら、苦しそうに声を漏らした。
「よし、ずらかるぞ」
ゼルは二人に声をかけると、小屋の扉を開けて外へ出た。
――するとその瞬間。
ちょうど小屋へ戻ってきた盗賊団と鉢合わせてしまう。
「「「あっ」」」
三人は宝の詰まった鞄を抱えたまま、その場で固まった。
「おい! なんだお前たちは!?」
盗賊の一人が三人を睨みつける。
「見られたからには生かしておくわけにはいかないな」
ゼルは悪びれる様子もなく物騒な言葉を口にすると、鞘から剣を抜いて構えた。
「ちょっと待て。まさかお前、勇者ゼルか?」
ゼルの顔を見た別の盗賊が声を上げる。
「知ってるなら話は早い。大人しく諦めるんだな」
剣を構えたまま、不敵な笑みを浮かべるゼル。
「どうなってんだ。お前は勇者をクビになったはずだろ?」
「見りゃ分かるだろ。神父になったんだよ」
「いや分かんねえよ! そもそもなんで神父が盗みなんてするんだよ!?」
あまりにも理解不能な状況に、盗賊は思わず声を荒らげる。
それに負けじと、ソフィも堂々と言い放つ。
「これは盗みではありません! "富の再分配"です!」
さらにゲスオもソフィに続き、自信満々に胸を張る。
「オイラ達は正義の味方でゲス!」
「なんだコイツら……イカれてやがる……」
悪びれるどころか堂々と言い切る二人に、盗賊たちは困惑しながら顔を見合わせた。
すると――。
「何の騒ぎだ?」
盗賊たちの後ろから、とある男の低い声が聞こえてきた。
「「ボ、ボス!?」」
手下たちが慌てて振り返る。
その間をかき分けるようにして、一人の男がゆっくりと前へ出てきた。
指名手配書に描かれていた男――盗賊団の頭、ワルーイ=ヌスットだった。
「てめぇがヌスットか」
ゼルは目の前の男を睨みながら、確認するように問いかける。
「手配書通りの悪そうな顔でゲス」
手配書の似顔絵を思い出し、納得したように呟くゲスオ。
「コイツラはいったいなんなんだ?」
ヌスットは怪訝そうな顔をして手下たちへ尋ねる。
「それが、カクカクシカジカで……」
手下の一人がヌスットに駆け寄り、これまでの経緯を手短に説明した。
「なるほどな」
事情を把握したヌスットは、改めてゼルたちへ視線を向ける。
「お前たち、そのお宝を持ち帰るつもりか?」
「当たり前だ」
ゼルは悪びれる様子もなく即答した。
「そうか。ならば生かして帰すわけにはいかないな」
ヌスットは低い声でそう告げると、周囲の手下たちに目配せする。
その合図を受けた盗賊たちは、三人を取り囲むように素早く散開し、それぞれ武器を構えた。
「ゼルさん、囲まれちゃったでゲス……」
じりじりと距離を詰めてくる盗賊たちを見回し、ゲスオは不安そうな声を漏らす。
「大丈夫だ。問題ない」
対するゼルは、動じる様子もなく剣を構えていた。
「行けお前ら!!」
ヌスットの号令と同時に、盗賊たちが一斉に襲いかかる。
ゼルは正面から斬りかかってきた盗賊の剣を受け止め、そのまま力任せに弾き返す。
その傍らではソフィも杖を構え、迫ってくる盗賊たちを必死に食い止めていた。
たちまち小屋の前は、ゼルたちと盗賊団が入り乱れる乱戦となる。
そんな中、一人の盗賊がゼルとソフィの隙を突き、ゲスオ目掛けて突進する。
「ゲスオさん危ない!」
「ゲスゥ!?」
ソフィの声にゲスオが振り返るが、すでに遅かった。
盗賊はそのままゲスオに飛びかかり、背後から羽交い締めにする。
「ゼルさん! ゲスオさんが捕まってしまいました!」
ソフィが焦った様子で声を上げる。
ゲスオの喉元には、すでに鋭い剣が突きつけられていた。
「ゲスゥ……」
身動きの取れないゲスオは、怯えたように声を漏らす。
「大人しくお宝を返すんだな。じゃないとコイツの命はないぜ」
ヌスットはゲスオを指差しながら、ゼルたちを脅した。
「人質ってワケか……」
「ゼルさん……どうしましょう……」
ゲスオを心配するソフィが、不安そうにゼルへ視線を向ける。
「ふん、小賢しい」
ゼルは鼻で笑うと、ゲスオが人質になっていることなど気にも留めず、ヌスットの方へと歩き出した。
「おいそれ以上近づくな! コイツがどうなってもいいのか!?」
「構わん!!!!」
「「「……は?」」」
ヌスットたちは思わず耳を疑った。
そしてゼルは足を止め、胸を張って堂々と宣言する。
「俺は金さえ手に入ればそれでいいんだ! 他人がどうなろうと関係ない!!!!!」
「「「………………は?」」」
あまりにも予想外の宣言に、敵も味方も揃って言葉を失う。
やがて、その沈黙を破るように盗賊の一人がポツリと漏らした。
「マジかよコイツ……」
それを聞いていたゲスオも、とうとう黙っていられなくなり、人質にされたまま抗議の声を上げる。
「ちょっとゼルさん! 仲間を見捨てるなんて酷いでゲス!!」
その言葉を聞いたソフィも、ゲスオを助けようとゼルを咎める。
「そうですよゼルさん! ゲスオさんは大切な仲間――」
しかし、そこまで言ったところでソフィはふと言葉を止めた。
「…………」
ソフィは眉を寄せ、しばし考え込む。
「あれ? そういえばゲスオさんって、仲間だったんですか?」
ソフィが確認するようにゼルに尋ねると、ゼルは即答した。
「いや仲間じゃないだろ」
「ゲスゥ!?」
ゲスオは人質にされたまま困惑の声を上げる。
「なんなんだよお前たちは!? どうしてそんなに簡単に仲間を見捨てられるんだよ!?」
あまりの非情さに、とうとう人質を取っている盗賊のほうが声を荒らげる。
「正義のためには犠牲はつきものだ」
ゼルは平然と言い放つ。
そしていよいよ自分の命が危ないと悟ったゲスオは、必死になって二人へ助けを求める。
「二人とも、そりゃあないでゲス! オイラ達は心の友でゲス!! 見捨てないでほしいでゲス!! 頼むでゲス〜〜!! ゲスゲスゲスゲス〜!!!」
――ブチッ。
「ああもう! ゲスゲスゲスゲスうるせえなお前は!! こうなりゃ盗賊ごと叩き斬ってやる!!!」
ついに堪忍袋の緒が切れたゼルは、ゲスオもろとも斬りかかる勢いで剣を構えた。
「コイツ正気か!?」
ゼルの殺気を感じ取った盗賊たちが、一斉にざわめき出す。
「ゼルさん落ち着くでゲス!」
人質にされたままのゲスオも、必死になってゼルを制止する。
しかしゼルはそんな声など歯牙にもかけない。
そのまま剣を両手で握りしめると、全身に力を込めて必殺技の構えに入った。
「みんな逃げろ! コイツ本気で仲間ごと斬るつもりだぞ!!」
危険を察したヌスットが叫ぶと、盗賊たちはゲスオを放り出して一斉に逃げ出した。
「「「うわぁぁぁぁ!!!」」」
解放されたゲスオも、慌ててその場から逃げようとするが――。
「逃がすかぁ! 勇者スラーッシュ!!!」
ゼルは逃げる一同目掛けて、渾身の一撃を振り抜いた。
ズバァァァン!!!
「「「ギャァァァァ!!!」」」
凄まじい斬撃の衝撃で、盗賊たちはまとめて吹き飛ばされる。
そして逃げ遅れ、斬撃をまともに食らってしまったゲスオは――
「痛いでゲス〜!!!」
悲鳴を上げながら真っ二つとなっていた。




